98.恋愛講座
カーキの収穫も予定通り終わり、試食会の時間になった。試食会は時間のある人だけで行う予定だったので、私とフローリアはここで帰る事に決め、エド様に帰ることを告げた。
「そうか、リマニーナとフローリアは帰るのか……気をつけて帰りなさい」
「「ありがとうございます」」
私とフローリアが歩き出した所でエド様に呼び止められる。
「リマニーナはカーキが好きか?」
「はい!大好きです!」
「……………」
「エド様…?」
「…こほん。リマニーナ、これを食べるといい」
エド様がカーキの実を1つ取り出したが、小首を傾げる。植物所属員全員がカーキの精霊の使いに教えて貰い、美味しい実を収穫させて貰ったのだ。私も沢山カーキの実を持っている。
「このカーキの実は、精霊の使いがこの木の中で1番美味しいカーキの実だと言っていた」
「えっ…?それは…エド様に精霊の使いが食べて欲しかったんじゃないんですか…?」
「いや、精霊の使いもリマニーナを気に入っていたからリマニーナが食べなさい」
「え、でも…」
「ほら、手を出しなさい。所属長命令だから」
まだ悩む私の両手を体温の高いエド様の手で掴まれ、手のひらにカーキの実を乗せられ、包み込まれる様にカーキの実を握られる。エド様の手はカーキの実と私の手を包んだまま、無言で見つめられる……本当は半分こして味見を出来たらいいけど、フローリアと約束があるもんね。
「……ありがとうございます。エド様と半分こ出来なくてすみません」
「…半分こ……こほん。リマニーナ、気をつけて帰りなさい」
「はい!ありがとうございます」
「リマ!行くわよ!」
「あ、フローリアごめんね。エド様、また明日」
エド様にお礼を言い、手を振ると、エド様もはにかむ様に手を振ってくれた。
フローリアと合流して少し歩くと、フローリアがすごいぷんぷんした顔で私を見た……
「もう!リマ!リマはエド様のことをどう思っているんですの?」
「…え?どうってどう言うこと?」
「もう!エド様を好きかどうかと言うことですわ!」
「好きだよ」
「ええっ?」
「エド様が好きじゃない植物所属員なんて居ないと思うけどな…」
「もう!違いますわ!そんな友達みたいな好きじゃなくて恋してる方の好きですわ!」
「え?何で急にエド様の恋の話になったの?ええっ?フローリア、本当はレイモンド様じゃなくてエド様が好きなの?」
「違いますわ!レイモンド様が好きに決まってますわ!」
「やっぱり好きなんだね〜うふふ」
ぽぽぽっと顔を真っ赤にしたフローリアが、ああもう!と何故か怒っている。なんだ惚気なら沢山聞くのになぁ。フローリアが真面目な顔になる。
「リマはラルク様が好きなのですわよね?恋の好きのですわよ」
「………そうだよ」
フローリアに急にラルクの事を聞くので顔に熱が集まる。フローリアみたいに真っ赤なんだろうな。
「リマ、ラルク様と婚約が内定みたいですけど、非公表ですもの。他の方は知らないのよ?」
「…!なんでフローリアは知ってるの?」
「アルベルゴ家ですもの。他の名家の方も知っているとは思うわ」
「アルベルゴ家ってすごいんだね」
「エディンリーフ家には敵いませんわ。リマ、エディンリーフ家は、ラシャドル王国屈指の名門なのよ。リマと縁を結びたい家は勿論沢山あるし、リマ自身もリマ印回復薬を立ち上げ、その名声や利益をラシャドル王国で知らない人は居ないわ。加えて、リマ、貴方、すっごく美人なのよ!土が顔に付いても全然気にしてないけど!私から見ると、残念植物美人ですけどね、黙っていたら天使みたいな美人ですわよ?」
「チェダにもよく残念だなって言われるよ…」
「話しが逸れましたわ。リマと縁を結びたい者など山の数ほどおりますし、エド様もその内の1人だと言う話しですわ」
「……エディンリーフ家と繋がりを持ちたい人はいると思うけど、やっぱりエド様は私の事、好きじゃないと思うけどなぁ…」
「もう!エド様がカーキの実を渡したのはリマだけですわよ?」
「私が精霊の使いに気に入られてたって言ってたよ?私、土魔法が上級だからかな」
「エド様が植物所属の試験で男子学生に難しい問題を出して、落としていますでしょう?あれはリマに近付かない様にですわよ」
「うーん、試験問題見せて貰ったけど、そんなに難しくなかったから勉強不足なんじゃないかな?試験は何回でも受けれるしね」
「ああ!もう!」
「…フローリア、落ち着いて?」
フローリアがぷんぷん怒りすぎて真っ赤になってる。エド様のことは勘違いだと思うけどな。
「リマ、ラルク様と婚約が内定していても、公表前ですもの。破棄する事は出来ますし、リマに選ぶ権利があるんですのよ」
私に選ぶ権利がある…?
私はラルクがいいのにな…?
フローリアの言葉が分からず小首を傾げる。
「ハルトフレート第1王子との婚約であれば、覆すことは難しいでしょうけど……ラルク様は第2王子ですもの。リマの価値を考えれば本来はハルト様に…となるはずですのに…。エディンリーフ家の御当主ヘリオス様がリマを溺愛しているのは有名な話しですから婿入りできる者はリマを狙っているのですわよ。…どちらにせよ、エディンリーフ家のリマはどなたでも選べるのですわ。エド様でもリック様でも」
「エド様にリック?」
「エド・ゲルトナーは、両親が王宮庭師を務め、その後、専門店街に種や苗のお店を出店し、現在も王宮と繋がりが深く優良なお店よ。更にエド様は次男。エディンリーフ家に婿入りも出来るし、植物が好きなリマとも話しが合うわ」
「…エド様と植物の話しをするのは楽しいけど……うん?」
「リック・ミンツェは、エディンリーフ家のミントスプレー事業で繋がりが深く、精油の抽出法を確立させた事と観光事業の成功でミンツェ村の地位は向上したわ。リック様は長男だけど、現在、リック様の母上が妊娠中よ。この子に跡取りを任せるならエディンリーフ家に婿入りも出来るわ。それを言うなら、リマの執事をしているカイル様も少し年上だけど、エディンリーフ家に長く務め、その優秀さを知らない者はいないわ。エディンリーフ家の将来を見据えるならカイル様も有力候補だと思うわ」
「ちょっと…フローリア、どうしたの?」
フローリアの鬼気迫る言い方に段々と心配になる。
どうしたの…フローリア?
「……リマは選べるのよ。レイモンド様を選ぶ事も出来るわ」
「…なんでレイモンド様が出てくるの?フローリアの許嫁でしょう?」
「まだ婚約もしていないわ。リマが欲しいと言えば、レイモンド様はリマを選ぶわ。エディンリーフ家がレイモンド様のオーベルジュ家の後ろ盾になれば、私、アルベルゴ家を選ぶ意味がありませんもの………」
「私、レイモンド様を取ったりしないけど…」
「………だって、だって、だって…」
「うん?」
「レイモンド様、すごく格好いいんですのよ!リマが一目惚れしてしまったら私、未来の旦那様と親友をいっぺんに無くしてしまうのですわよ!」
………………可愛すぎる
「フローリア、大好き!」
ぷんぷんするフローリアを抱きしめる。私は乙女ゲームのヒロインじゃないからフローリアの愛しのレイモンド様を取ったりしないよ!
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
あれ?全然話しが進まなかった……?
おかしいな?色々おかしい…?
次は進むはずです。
今日もお疲れ様でした。
穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。















