91.もうひとり
「…というわけなんです」
「そういう大切な事は、最初に話しておきなさい」
ラルクがまだ動揺する私に代わり、春の儀式で咲いたたんぽぽの花畑で私達が結婚を約束した話しを終えた。このたんぽぽの指輪を贈り合った事が、今回の氷の精霊と春の精霊の加護に関係があるのではないかとラルクは言っていた。
「あら、たんぽぽの指輪なんて素敵じゃない?ラルクも隅に置けないわね」
王妃様はニコニコと話しを聞き、知らなかったとは言えリマごめんなさいねと謝ってくれる。首をふるふると振る。
「ヘリオスが来る度に、リマ自慢をするから羨ましくなっちゃったのよね?男の子は素っ気なくて…」
「…まあ…そうだな」
「早くリマにうちの娘になって欲しかったのよ」
お父さん…どんな自慢をしていたの…?ジト目でお父さんを見ると、お父さんが視線を外す。もうっ!
「うちの息子達は、全然甘えてくれないから寂しいのよね?」
「…まあ…そうだな」
「娘が出来たらお義父様って呼ばれたいのよね?」
「…まあ…そうだな」
王妃様がニコニコ楽しそうに話しているが、国王陛下は気まずそうな顔をしている。完全にカカア天下ですね、王妃様。我が家と同じ構図です。
「でも…ラルクが魔法学校を卒業するまで、3年あるわね」
ラシャドル王国は、小春の世界と同じで、20歳が成人だが、結婚は魔法学校を卒業すると認められる様になる。これは働き始める人がいる事や家同士の繋がりを持つ為だったり様々な理由がある。魔法学校を卒業して直ぐに結婚するのは珍しいけれど。
「それなんだが…ラルク、先程の話しを聞くと、お前にも氷の精霊の加護があるのではないのか?」
「……」
「ラルク、私の事は気にしないでいいよ」
「兄上……」
ラルクが一度目を瞑り、ゆっくり目を開けると国王陛下に顔を向ける。
ラルクがもう溶けたたんぽぽ珈琲に手をかざすと、淡く蒼く光り、ゆっくりと凍り付いた……
「リマ程ではありませんが、少し氷の精霊の加護を受けた様です」
「やはり…先程、氷の魔法が二箇所から感じたのはそのせいか」
「父上、ラルクをこの国の王太子にするべきです」
「兄上!」
「ラルク…だから黙っていたんだろう?」
「……それは…」
「2人共、少し静かにしなさい」
国王陛下が私を見つめた…
「私はハルトがこの国の次期国王に相応しいと思っているが、リマニーナ殿はラシャドル王国の王妃になることを願うか?」
…私が王妃…?
「願いません!私がなりたいのはラルクのお嫁さんです……それにハルトが国王陛下になって欲しいです」
ラルクに同意を求める様に顔を向けると、頷いてくれる。
「兄上がこの国の王に相応しいと思っています」
「私もです」
「ラルク、リマ……」
「決まりだな。ハルトを王太子のまま、リマニーナ殿とラルクの婚約発表を来年行う。皆、いいな?」
「はい、父上」
「御意」
「分かりました」
「はい、国王陛下」
「あら?だめよ」
王妃様がニコニコだめよと笑顔で言う。国王陛下も少し驚いた顔をしている。
「リマ、こういう時は国王陛下じゃないでしょう?」
王妃様がニコニコ楽しそうに私を見つめる。
えっと…お義父様と呼べってこと…だよね…?
「………お義父様……?」
「そうそう!私達、家族になるんだからね?私の事もお義母様って呼んでね?」
「…お義母様…」
「まあ!女の子って素直で可愛いわね。貴方ももうリマニーナ殿なんて堅苦しく呼ばないで、娘なんだからリマって呼ばないと?」
王妃様がニコニコと国王陛下にも話し掛ける。国王陛下がああ…とか、うん…とか、もごもごしているが、王妃様がニコニコとほら早く?と促している。
王妃様のあのニコニコ笑顔に勝てる人っていない気がするな…?
「リマ…?」
「はい、お義父様…?」
「やっぱり女の子は素直でかわいいわね。今度、ゆっくりお話ししましょう?ハルトもラルクも最近お茶に誘っても来てくれないんだもの」
「はい……お義母様…」
王妃様がニコニコ楽しそうに、もういいわよと頷いた。王妃様、すごい楽しそうだな。
国王陛下がこほんと咳払いをひとつして、お父さんに向いた。
「ヘリオス」
お父さんが何でしょうと応えると、国王陛下がニヤリと悪い顔で笑う。
「エディンリーフ家の唯一の後継ぎを貰うことになるな」
「……」
「息子もいいぞ。娘を連れて来てくれるからな」
「……」
お父さんの顔色が変わったと思うと、バッとお父さんが私の両耳を塞いだ…
…え?なに?なに?
「ヘリオス、これからしっかり子作りに励めよ」
……お父さん何にも聞こえないよっ!
ハルトとラルクの耳がほんのり赤い気がする…?
…どうしたのかな?と小首を傾げた。
本日も読んで頂き、ありがとうございました!