89.風魔法の授業
楽しみにしていた風魔法の授業。
教科書と筆箱を用意して、先生が来るのを待つ。
担任の先生はいるのだが、魔法の授業はそれぞれ別に担当がいて、風魔法の先生は白髭のおじいちゃん。ヒンメル先生。昔からいる先生で毎年1年生の風魔法を担当している。
「今日は君達が魔法学校に入って初めての魔法の授業になります。風魔法は、ラシャドル王国の中で最も適性が多い魔法です。皆さんの中にも上級魔法適性の人が沢山いると思います」
ラシャドル王国は、春の精霊が加護を与えた土地だからなのか風の適性を持つ人がとても多い。
ラルクもエイミもチェダも風の上級魔法適性だったもんね。
「今日は自分の魔力の流れを感じて、風魔法をひとつ使えた人は終わりにしていい事にしましょう」
自分の魔力の流れを感じる…?
「やったー」
「余裕だぜ」
「食堂が混む前に行けるね」
クラスのみんなが騒めく中、私は凄く焦った……
「1番簡単なそよ風をやりますよ」
ヒンメル先生が目を瞑り…
「自分の魔力を中から感じ、その魔力を動かして行き、手に集めますよ…」
「そよ風」
ヒンメル先生の手がぱあぁ…とシトリンの様な黄色に光ると、ふわっと優しい風が頬を撫でて行った。
…凄い!
やっぱり魔法ってすごいな…!
「はい、皆さん初めて下さい。出来る人は呼んで下さいね」
「はい!」
「はい」
「はーい」
クラスの半数以上が手を挙げた…!
えっ!みんなそんなに魔法使えるの…!
「そよ風」
「そよ風」
「そよ風」
みんなの手がぱあぁ…とシトリンの様な黄色に光ると、ふわっと優しい風が頬を撫でて行った…
ラルクが先に食堂の席を取っておくよと言って、エイミとチェダと教室を出て行く。
教室に残ったのは私を含めて5人だけだった。
「じゃあ今からゆっくり授業を始めるよ。今、残っておる子で上級魔法適性が2つある子はいるかい?」
みんなが首を振る。ああ…この子達も私と同じ上級魔法の適性が1つだけなんだね。
「うんうん。上級魔法適性が1つだと魔力の流れを感じにくいんだよ。今から魔力を感じやすくするために私の魔力玉を流すから1人ずつ手を出してごらん」
…魔力の玉?
みんなが小首を傾げながらもヒンメル先生の近くの子が手を差し出すと、ヒンメル先生がビー玉みたいな黄色に光る小さな玉を作り出した。
「これは私の魔力を小さな玉にしたものなんだ。今からこの玉を手の平から体に入れるから意識して、逆の手の平に移動させてごらん」
男の子の手の平に光る玉を置くと、すぅーと中に入って行く…
「えっ?あっ…?ああ?!」
最初は戸惑っていた男の子もしばらくすると目を瞑り、光りがゆっくり左手から体を通り、右手へ移動して行った…
「えいっ!」
男の子が気合いを入れると光の玉が右手に出て来た…!
「上手だったな。魔力の流れを感じたかい?」
「うん!最初はぞわぞわしたけど、最後は自分の魔力で押し出せた!先生、やってみていい?」
「いいぞ」
男の子は目を瞑り…
「そよ風」
男の子の手がぱあぁ…とシトリンの様な黄色に光ると、ふわっと優しい風が頬を撫でて行った…
「合格じゃな」
「やったー!」
合格を告げられた男の子は、駆け足で教室を出て行った!
…あの玉を入れると流れが分かるんだ…!
残りのみんなも期待した目でヒンメル先生を見つめる。次の女の子も男の子も最初は戸惑っていたけど、最後は眼を閉じ、光の玉を移動させ、風魔法を使えるようになっていた。
…次は私の番…!
「リマニーナ、手を出してごらん」
「はい!」
ヒンメル先生の光の玉が手の平に置かれ、ゆっくり中に入って来た…ぞわぞわとする……
……黄色の光の玉が急に止まる…
…あれ?
…みるみる凍り付いて行き…
…パリン…!
…光の玉が砕け散った……!
「えっ?」
「これは……」
「もう1度試してみよう」
「はい!」
…なんで…?
今度は手の平に置かれた時点で凍り付き、パリンと砕け散った…。
「すみません…」
「いやいや、いいんじゃよ。今日はここまでにしよう」
「ヒンメル先生…私だけ風魔法が使えていません…」
「…休み明け、まだ使えないなら放課後に職員室に来なさい」
「……はい」
ヒンメル先生が教室から出て行き、1人残った。
…ショックだった……
土魔法で奇跡だって言われて、ちょっと自惚れていたのかもな…1番簡単な風魔法が出来ないのに、これから魔法の授業についていけるのかな……
「リマ?」
「…ラルク…」
「リマが最後だって聞いて迎えに来たよ」
「ありがとう…」
頭を優しく撫でられる…
「もしかして風魔法が上手く使えなかった?」
こくんと頷く…
「ああ…やっぱり……」
「…やっぱり…?」
「リマが出来ないかもしれないって父上から聞いていたんだ。休みの日に王宮に来れば、出来るようになる筈だよ。先に言えば良かったね…」
「ほんとうに本当にできるようになる?」
「なるよ!できなくても僕が教えてあげるから大丈夫。元気出た?」
「うん!」
なんだ!出来るようになるのか!
ラルクも教えてくれるならきっと大丈夫…だね!
嬉しくて、ラルクにぎゅーとしがみ付く。
落ち込んだ気持ちもラルクの体温でゆるゆると溶けて行くのが分かる。あったかくて私の大好きな場所。
頭をなでなで撫でられると気持ちがいい。うふふ。
「見られちゃうけど、いいの?」
…!
ここ学校だった…!
慌てて離れると、いつものリマになって良かったとくすくす笑われる。
安心したらお腹がすいた…!
エイミとチェダが取っておいてくれた席に座る。
みんなで午後の算術の話しをしたり、昨日の試験の内容やエイミがコーフボールに入会を決めた話しを聞いたりしていると…
「リマニーナ」
「エド様!どうしたんですか?」
「ああ…休み明けの水やりの時間と場所を伝えていなかったと思ってね。」
「わざわざありがとうございます!」
「…別に構わない。朝7時に上級生棟の裏に来てくれ」
「はい!がんばりますね!」
「…まだ仮だから正式に所属になれるようにがんばって」
「はい!ありがとうございます」
エド様がまだそのまま立っているので不思議に思い、小首を傾げる?
「……エド様?」
「…こほん。ああ…ところでリマニーナ」
「はい!」
「…こっこほん。この不思議な匂いは…?」
「…虫除けスプレーの匂いです…臭かったですか?ごめんなさい…」
「…あ、いや、この前と違う匂いだと…いや、うん、嫌いな匂いじゃないんだが…。しかしどうして虫除けスプレーをつけているんだ?」
「ラルク…いえ、ラルクフレート王子に上級生棟で変な虫が出たって聞いて、ちょっと付けてみたんです。エド様、虫が出るんですか?」
ね?ラルク?と顔を向けると、ラルクがエド様に顔を向けた。
「ええ、大切な花に虫がついたみたいで困っています」
「……上級生棟じゃなくて、下級生棟にしつこいひっつき虫が出てるとは聞いているよ」
「……」
「……」
「え?そうなんですか!」
…魔法学校にそんなに虫がいるなんて……!
「チェダ…リマってすごいよね?」
「エイミ…面白くなって来たって顔に書いてあるぞ」
チェダがやれやれと首を振っていたらしい。
「あ!エド様も良かったらこれ使って下さい」
ポケットに入れていた虫除けスプレーを取り出す。
「これは…?」
「はい!私が作った虫除けスプレーです。ラルクにも渡したんですけど、エド様も虫に困っているみたいなので、どうぞ!」
「……ありがとう」
「休み明け、がんばりますね!わざわざありがとうございました!」
チェダがやれやれとまた首を振っていたらしい…
今度の休みは王宮で風魔法を覚えるぞ——
本日も読んで頂き、ありがとうございます!
ちょっと長くなりました。
100話くらいで完結出来たらいいなと思っています。
出来るかな…?
次は王宮に行く予定です。
今日も頑張りましょう(*^_^*)