84.嘘つき
葉っぱが描かれている若葉色の真新しい鉛筆を削る。この鉛筆は気に入っていて、何度も買っている。鉛筆を4本と消しゴムを革の筆箱に入れる。
…これはどうしようかな?
机の上に置いてある空色の箱をそっと開ける。
ラルクに6歳の誕生日の前日に贈って貰った、青藍色の鉛筆に金色の王冠が光っている格好いい鉛筆が入っている。勿体無くて使えないまま、持っていたのだ。
「どうしようかな…?」
今度は心の声がそのままひとり言になって部屋に響く。
筆箱に入れて学校に持って行きたい様な、宝物としてこのまま空色の箱にしまっておきたい様な……これを入学式の数日前からずっと繰り返している。使いたいけど使いたくない……
やっぱり使えない……!
葉っぱが描かれている若葉色の真新しい鉛筆をもう1本削り、革の筆箱に入れた。
やっぱり宝物は使えないよね?
◇ ◇ ◇
さあ魔法学校のはじまり。
我が家から魔法学校まで歩いてもそんなにかからないので、カイルと一緒に歩いて通学する事に決めた。通学時間は馬車が混み合うから歩いた方が早いけど、帰りは学年によって下校時間が違うので、馬車が迎えに来てくれるらしい。
カイルに正門まで送ってもらった。学校の前に着いたので、猫かぶりカイルだ。
「リマお嬢様、お気をつけて」
「カイル、ありがとう。またあとでね」
バイバイと手を振って別れようと思ったらカイルがスッと近付き、私の眉間の間に人差し指をとんっと当てた。
「ここに皺が寄って顔が変になってるぞ。向こうは気にしてないと思うけどな」
「………ありがとう」
くっくっと笑ったカイルは、また猫かぶり執事に戻っていた。
エスパーカイルには何でもお見通しだね……
…うん。きっと大丈夫…
Aクラス教室のドアの前に立つ。
…カイルに励まして貰ったけど、やっぱり緊張する。
同じクラスに、青空マルシェで知り合った双子のエイミとチェダも一緒だった!
凄く嬉しかったけど、私はミンツェ村の子供として接していたし、名前もリマニーナではなくニーナと名乗っている………騙していた事になるんだよね。
そんな嘘つきな友達を友達だって思ってくれるかな…?
そう思うと同じクラスになれた嬉しさもどんどん萎んで、今では鉛を飲み込んだ様な気持ちになってしまった…カイルに変な顔だって言われちゃったしな……はぁ。
………よし、いくぞ…!
ドアに手を掛け、開けようとした瞬間…
「ニーナ!おはよう!久しぶりだね」
エイミの元気な声が聞こえた。
「…エイミ、おはよう」
「ニーナだって直ぐにわかったよ!同じクラスで嬉しい!よろしくね」
「…う、うん。あのエイミ……」
「ニーナ、久しぶり。元気だった?前に話していた収穫の魔道具を試作してるよ」
「…あっチェダ、久しぶり。魔道具作ってくれてるの…?ありがとう!…あっ…2人に話さなくちゃいけない事があって……」
エイミとチェダが顔を見合わせる…
「あのね、私、ニーナじゃなくて、リマニーナ・エディンリーフなの…2人に嘘ついていて、ごめんなさい!」
エイミとチェダが顔を見合わせる………
…
…
…
沈黙が辛い……
「あのさ、ラルクはニーナに言わなかったの…?」
チェダがフレッドじゃなくてラルクと呼んでいて訳が分からず小首を傾げる…?
やれやれと首を振ったチェダが説明してくれる。
「あのね、ニーナがエディンリーフ家の子供なのは分かっていたよ」
「え?そうなの?」
「父さんの会話で、ハルト様だって気付いたし、カイルさんもいたからハルト様の弟のラルクとエディンリーフ家のニーナだって分かっていたよ」
「そうそう!それに魔道具店に戻った時、ラルクがはっきりじゃないけど、それとなく分かる様に教えてくれたからニーナも知ってると思ってたよ?」
エイミもチェダの後に続く……
「ニーナは隠す気なさそうだったしな?」
「…え?隠してたよ?」
…チェダが目を見開き驚いた顔をした…!
…なんで?
「あれで隠してたんだ……」
チェダが頭を掻きながら何かを呟いた…。
「じゃあ2人とも怒ってないの?」
「「怒ってないよ」」
「よかった……」
「ねえねえ、ニーナのことは何て呼べばいい?」
「リマって呼んで?」
2人が頷くのを見たら急にほっとして力が抜けた…しゃがみ込みそうになったら、ぐいっと引っ張られて支えられていた。
「リマおはよう。チェダに意地悪されてない?」
「…ラルクおはよう」
急にラルクが現れて驚いた…!パッと離れてちゃんと立つと黄金色の瞳がくすりと笑う。
「ラルクさ、ニーナに俺たちが知ってる事教えて無かっただろ?ニーナが泣きそうな顔で謝って来て、こっちが驚いた」
「リマごめんね?」
ラルクにぽんぽんと頭を撫でられる…チェダとエイミも居るんだけどな…恥ずかしい……
「ラルク、それクラスでやるの禁止。目のやり場に困る」
チェダがラルクに言うと、エイミもうんうん頷く。 エイミに手を引っ張られ、ぎゅうっと抱きつかれる
「リマはこっち。ラルクなんか放っておいて女の子同士で遊ぼう?」
「…うん?」
何で3人はそんなに仲が良いのかな…?
「あー…あの後、ラルクはハルト様と同じで変装用の魔道具を注文しにうちの店に来てたんだよ。話すうちに仲良くなって、注文とは関係無く遊びに来てた」
「…ラルクずるい!」
「そうだよ!ラルクにリマも呼んでって言ってもリマは刺繍してるから駄目って言って呼んでくれなかったの」
「…ラルクそうなの?」
私もチェダとエイミに会いたかったのに…!ずるいずるい…!
「あーあったな、それ!リマが作った刺繍ハンカチが出来る度に、俺に見せて来て、リマが可愛い、リマがかわいい、リマが作ってくれたってずっと言ってたな」
「……チェダ、エイミ、本当にごめん。もうやめて」
ラルクが困った顔で2人に謝る。
「わかればよろしい」
チェダとエイミがうんうんと頷くのを見て、2人って何だか逞しくて凄いな……
「リマ、改めてよろしくね?」
「こちらこそ、よろしく」
魔法学校の友達と仲良く教室に入った——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
今日もお疲れ様でした◎
穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。















