83.大人の味
…ゆさゆさ…ゆさゆさ…
「…起きて?」
「……う……ん……」
「…怒られちゃうよ?」
「……うう…ん……」
…ゆさ…ゆさゆさ…
「はぁ…起きなさそうだな…」
朝起きたらお父さんがソファで寝ていた。
ほとんど無いんだけど、お仕事が忙しい時や疲れているのにお酒飲んだ時にソファで寝ている事がある……昨日は私の入学祝いだ!と沢山お酒飲んでいたからなぁ…。
ソファで寝ているのをお母さんに見つかると凄く怒られるから起こしているけど、さっぱり起きる気配がない。
エディンリーフ店は春の憂鬱対策グッズが今年も爆発的に売れていて、お父さんは本当に忙しい…その忙しい中、お仕事の予定をやり繰りして昨日の魔法学校の入学式に来てくれていたんだよね。ありがとうね、お父さん。
… 二日酔いに効く物、作ってあげようかな?
我が家の庭に出ようとすると、スゥが付いて来たので抱き上げて一緒に歩く。
スゥの背中を撫でながら歩くと、ぐるぐるとご機嫌な音が響いて、うふふと顔が緩む。
「にゃー?」
—どこに行くの?
「たんぽぽの咲いているところだよ」
小さなたんぽぽの国に着いたので、スゥを下ろす。足元に体をすりすり擦り付けてくるのがくすぐったくて、ふふっと声が漏れた。
ププリュの花と実の刺繍が刺してある浅緑色の小さなトートバックの中からスコップを取り出して、たんぽぽの根っこを傷付け無い様に慎重に掘り出して行く。
たんぽぽのお花は愛らしいけど、根っこは太くて長いんだよね。よいしょ…よいしょ…と沢山は要らないから根っこを数本掘り出しました。
「にゃん?」
—もう帰るの?
「まだ作業するからね。スゥはどうする?」
「にゃんにゃん」
—もう少しお庭でゆっくりするわ
スゥと分かれ、我が家に戻る。
お父さんは……まだ寝てる……ね。
掘り出したたんぽぽの根っこを綺麗に洗って、細かく刻む。本当はここから天日に干して、香ばしく煎り、ミルで粉砕するんだけど……
「おいしくなーれ!おいしくなーれ!」
……ぱあぁぁ…私の両手が淡くミントグリーン色に光り、その光がゆっくりとたんぽぽの根っこを入れたボウルを包む……たんぽぽ珈琲の香ばしい匂いが漂う……
『たんぽぽ珈琲』が出来ました!
たんぽぽ珈琲の粉が出来たので、きっと二日酔いのお父さんに淹れてあげよう。
ドリッパーは無いので、ポットにたんぽぽ珈琲の粉末を入れ、沸騰したばかりの熱湯を注ぎ入れる。しばらくそのままにしてたんぽぽ珈琲を抽出させて、完成。
マグカップにそっと注いで、お父さんの所へ向かう。
「リマおはよう?」
「おはよう!起きてたの?」
「すごくいい香りがしたから目が覚めた…」
「ちょうど良かった。これどうぞ」
お父さんに淹れたてのたんぽぽ珈琲を手渡し、二日酔いに効く筈だよと伝えると苦笑いしながら受け取ってくれた。
「熱いから気をつけて飲んでね」
「ああ…ありがとう」
こくんとひと口飲み込む…そのままごくごくと飲み干した……
「リマ」
「なあに?」
「魔力回復薬になってる…!」
「……!」
たんぽぽ珈琲は体に良いもんね…?うんうん。仕方ないね…
「これは不思議な味だな……」
「たんぽぽの根っこで作っているんだよ」
「たんぽぽから二日酔いに効く物が出来るんだな。もうたんぽぽも咲いているんだな」
「春だもん。このたんぽぽ珈琲は、二日酔いにも効くし、赤ちゃんがいる人なら母乳も沢山出る様になるんだよ」
「魔力回復薬なら販売するの?」
「リマがお父さんに作ってくれたから売りたくない!」
すごくキリリとした顔で言うお父さん…
たんぽぽの根っこを掘るの大変だから良いけどね?
お父さんが気に入ったみたいなのでおかわりを作りに席を立つ。先程と同じ様に、ポットにたんぽぽ珈琲の粉末を入れ、沸騰したばかりの熱湯を注ぎ入れる。数分間そのまま置いて、たんぽぽ珈琲を抽出させる……私も飲んでみようと思い、2つのマグカップにそっと注いだ。
「おかわりどうぞ」
お父さんの前に、ことりとマグカップを置き、私も座る。
「ありがとう。リマのはなんだ?」
「…たんぽぽ珈琲にちょっとだけミルクを入れたんだよ」
「…リマはまだまだ子供だな」
「だって、苦いんだもん!」
お父さんにちょっとだけたっぷり多めのミルクを入れたたんぽぽ珈琲を見て笑われた………でも砂糖もたっぷり入っているのは私だけの秘密…だよ?
——たんぽぽ珈琲は、苦くて大人の味がした……
本日も読んで頂き、ありがとうございました。
今日は忙しくなりそうです。
頑張りましょう◎
昨日、投稿していた物のラストを変更しています。
魔法学校の生活を少し書いてから前回のラストの内容を書く予定でいますm(._.)m