76.年越し
「リマお嬢様、そろそろ起きて下さい。」
「………」
「リマお嬢様、花火が見れなくなりますよ?」
「…っ、おきました!」
「くっくっ。よく出来ました。」
楽しそうに笑うカイルにお昼寝から起こして貰った。
カイルが新年ですからねと、念入りに準備を始める。
動くとスカートがふわりと広がる、薄い桜の花の色のようなほんのり紅みを含んだ白の薄桜色で、光沢のあるワンピースを着せて貰う。
何度も髪を梳かして艶を出し、複雑に編み込みをしたハーフアップにラルクに貰った雪の結晶の髪留めを合わせる。今日は長い時間過ごすので、ヒールのある靴ではなく慣れたぺったんこの靴を履く。
そして、ほんの少し、紅をさす。
んっと口を合わせ、ぱっと離す。
カイルが満足そうに頷き、白のふわふわのコートを着せてくれた。
ラシャドル王国の年越しは、日が暮れると火花の魔法、花火で盛大に祝う。
王家一族の魔力を披露する事で、その力を内外に示す狙いもあるが、ラシャドル王国の新年を祝う華やかな祝賀行事なのだ!
今年は、ラルクが13歳になり、来年の魔法学校入学をする前に、王子としての魔力、初めての火花の魔法をお披露目をするのも話題になっている。
昨日、2人にププリュウォーターの回復薬の小瓶を両手一杯に渡したら、ラルクとハルトに頭をわしゃわしゃと犬の様に撫でられ、楽しみにしててと笑っていた。
ラルクもハルトも一緒に新年のお祝いは出来なくて残念だけど、2人の花火を見るのを凄く楽しみにしている!
花火の時にうっかり寝ない為にたっぷりお昼寝をしたので大丈夫だと思う!
馬車に揺られ、カイルとエディンリーフ店へ向かう。
「もう準備終わったの?」
「ああ。エディンリーフの料理長が張り切ってたぞ。少しずつみんな集まってるな。」
「楽しみだね。」
年越しの今日、エディンリーフ店の屋上から花火がとても綺麗に見える為、毎年従業員やその家族に開放している。
お父さんもお母さんもそちらの準備が忙しいので、カイルが迎えに来てくれた。
フライドポテト事件で、エディンリーフの料理長にもたっぷり怒られたけど、きちんと謝ったら小春のレシピに興味を持ってくれた様で、色々作ってくれるようになったのだ。
今日のエディンリーフ店の屋上は、立食パーティーの様になっていて、ピザやフライドポテトも並べてくれるらしい。
エディンリーフ店の屋上に到着すると、 屋上なのに室内にいる様に暖かくて驚いた。
カイルからお父さんが火と風の魔法で結界を張り、魔道具で維持をしていると教えて貰った。
お父さんって凄いんだね…!と尊敬の眼差しを向けたらお父さんに抱き上げられてしまった。
もう子供じゃないんだけど!
みんないるのに恥ずかしい…!下ろして…!
「リマ様、私達の為にしばらくそのままで居て下さい。」
「そうですよ!リマ様に遊んでもらえなくて、旦那様の機嫌が悪くて大変なんですよ?」
「そうですそうです。」
ジタバタしていたらリマ回復薬でお世話になっている従業員の皆さんに口々そのまま居て下さいと笑いながら言われる……
「こら、お前達、リマに言うな!」
「だって、お嬢様お手製の刺繍のハンカチ貰った時はご機嫌だったのに…なあ?」
…?
よく分からないけど、みんながうんうんと頷いている。
「どういうことですか?」
小首を傾げながら皆さんに聞いてみる。
「リマ様が幼馴染とお揃いのハンカチを作ったけど、自分とお揃いの物は作ってくれないって、うじうじして大変だったんですよ?」
「それに最近は幼馴染と雪の家に閉じこもって自分と遊んでくれないって鬱々していて……なあ?」
「………はあ?」
気の抜けた返事になってしまった…
確かにスノーマン刺繍ハンカチをラルクとハルトとお揃いで作ったし、雪の家にお父さんが入ろうとしたけど子どもの秘密基地に大人はだめでしょ?
従業員の皆さんは、にやにや笑顔でお父さんを見ている。
お父さんがみんなに好かれているのは分かるけど、仕事にまで影響するのは駄目なんじゃあ…?
「お父さん、みんなに迷惑かけちゃだめだよ?」
めっ!と怒るとお父さんは項垂れた犬みたいになってしまったので、耳元でお父さんの結界凄いね!お仕事頑張ってるお父さん格好いい!と褒めたら、ぎゅうと抱きしめられる。
「リマにもっと格好いいと言われる為に、来年も『春の憂鬱』の商品を売って売って売りまくろう!」
「望む所ですね!」
「旦那様はそうじゃないと!」
「エディンリーフ店の力を見せつけてやりましょう!」
……動機が私に格好良い所を見せたいって言うのはどうなんだろう?
でもエディンリーフ店の皆さんが団結しているからいいのかな?
「乾杯しましょう!」
カイルが話しの切れ目に素早くグラスを配る。
「今年も皆よく働いてくれた。今日は盛大に新年を祝おう!乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
私もお父さんに抱きしめられたままレモンスカッシュで乾杯をする。
「これ美味しい!」
「旨い…!」
「おかわりを!」
料理長に提案した小春の料理も好評で良かったなと眺めていたらお父さんがリマも何か食べるかい?と聞いてくれるが、首を横に振り大丈夫だよと伝える。
「お父さん、どの辺りに花火が上がるの?」
「うん?王宮の上からだよ。」
「え?火事にならないの…?」
小春の花火は河川敷や周りに何もない所で打ち上げていたから驚いた。
「ならないと思うぞ?」
お父さんは私の髪型が乱れない様に優しく撫でるとにっこり笑う。お父さんはご機嫌みたいです…。
「さあ、もうすぐ花火が始まるよ。」
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
年越しが少し長くなったので、分けました。
次回は花火の話しをする予定です。
今日は予定があるのに忘れていて、あわあわしています。
今日も一日頑張って行きましょう◎















