71.雪降らしの雷
ラシャドル王国の冬は寒い。
今も雲が空を覆い、どんよりした鉛色の空を見上げてはまもなく鳴る雪降らしの雷を思う。
雷雪が鳴ると本格的な冬の、雪の訪れがやって来る。雪除けの魔道具の普及により大通りの主要な道には雪が降らないが、それ以外の場所は大人の背丈より高く積雪するのだ。
今日は真っ白なふわふわなコートを着て、デイジーの籠バックにラルクの刺繍ハンカチを入れて来た。
お母さんが籠バックにコートとお揃いの真っ白なふわふわなファーを付けてくれて、冬でも使える様にしてくれたのだ。さすがお母さん!
いつ鳴っても不思議ではない雪降らしの雷を思っている内に馬車は王宮に着いていた。
「リマ、いらっしゃい。」
ラルクが出迎えてくれ、手を差し出してくれる。
ありがとうと手を重ねるとラルクが恋人繋ぎに直して歩き出した。
「どこにいくの?」
恋人繋ぎが嬉しくて、温かなラルクの手をきゅっと握り返すと甘い黄金色の瞳に見つめられる。
「リマ、かわいい。…でも内緒だよ?」
ラルクに頭をぽんぽんと撫でられると嬉しくて顔に熱が集まるのが分かった。
王宮の中を少し通り、王宮の庭に出る。
空気が冷たくて木枯しが吹くと頬っぺたが痛く感じる。繋いだ指先が冷んやりして来た。
「…寒いね。」
「こっちにおいで?」
ラルクが繋いでいた手を自分のコートのポケットに迎えてくれる。コートの中に入った私の手はラルクに温められている。
「…温かいよ…」
くすりとラルクが笑う。
「着いたよ。」
ガラス張りの建物に入ると温室ではないが、風が遮られふわんと暖かくてほっとした。
寒さが和らぎ、中を見てみると赤、ピンク、白のポインセチアが咲き誇っていた!
「わぁ!すごくきれいだね。」
「今が見頃だって王宮の庭師が教えてくれたんだ。」
ラシャドル王国にクリスマスはないけど、ポインセチアは花の少ない冬の季節に人気なのだ。
「こっちにおいで。」
ポインセチアが綺麗に鑑賞出来る場所にソファやテーブルなどのスペースがあった。
並んで座りポインセチアを見ているとラルクが両手で私の頬っぺたに触れた。
「リマの頬が冷たい。大丈夫?」
両手で頬を挟んだまま、おでこに口付けを落されると顔に熱が集まるのが分かる。
「今度は熱くなってきた。大丈夫?」
両手で頬を挟んだまま、再び、おでこに口付けを落とすとくすりと笑う。
「…わざと…でしょ…?」
甘い黄金色の瞳から目が離せないまま文句を言う。
「…うん。わざとだよ?」
ちゅっと音を立てて、おでこに口付けをしたラルクが満足したように手を離した。
マタルさんに淹れて貰った甘いミルクティーをこくんと飲み込み、ラルクに刺繍のハンカチを渡そうと思うのだけど、いざ渡すと思うと緊張してデイジーの籠バックをぎゅっと握りしめるだけだ…
ラルクに話しかける事が出来ずにまたミルクティーをこくんと飲む……
…こくん
…
…こくん
…
…こくん
ラルクの甘い黄金色の瞳と目は合うのに、いつもみたいにどうしたの?とは尋ねてくれない…
…こくん
…
「………ラルク…受け取って欲しいものがあるの…」
刺繍のハンカチの入った白い箱をデイジーの籠バックから取り出してラルクに差し出す。
ほんの少し指先が震えている…
心臓がどくどく煩くてラルクに聴こえているかもと思うと顔に熱が集まり、ラルクの顔を見る事が出来ない…
「開けていい?」
甘い声が上から落ちて来て、こくんと頷くので精一杯…
ラルクの長い指が箱を静かに開ける様子が数秒なのに永遠に続く様に長く感じる…
…爽やかでほろ苦いレモンタイムの香りに包まれる。
「…ありがとう。」
ラルクに抱きしめられていた。
ラルクの腕の中で首を横に振った。
「私こそ…ありがとう。嬉しかった…。」
ラルクが雪の結晶の髪留めに触れる気配がした。
ラルクを見上げるといつもより甘い黄金色の瞳と目が合う。
ちゅっとおでこに口付けを贈られると全身の力が抜けていく…
ラルクの背中に腕を回し、ぎゅうっと力一杯抱きしめる。ラルクの匂いと体温が気持ち良くて、もっともっとと力を込めると、ラルクもぎゅっと抱きしめてくれる。
「今日のリマは甘えただね?」
こくんと頷くと、ラルクの手が髪を梳き撫でていく。おでこに口付けが降って来た。
私もラルクの柔らかい髪に触れたくて手を伸ばすとラルクの手に捕まり、恋人繋ぎに変わる。
「……私もさわりたい」
小さな本音が漏れるとくすりと笑われ、手が離される。
「どうぞ?」
そっとラルクの柔らかい髪に触れると、胸がきゅうっと掴まれるような苦しさを感じるけど、苦しいのに甘くてもっともっとと思う。
ラルクの柔らかい髪もラルクの耳朶もラルクの頬も形を覚えるように滑らせる。
ラルクの甘い黄金色の瞳が更に蜜を増やしたみたいに私を見つめるが、私の手はラルクにもっともっと触りたくて両手で頬も瞼も滑らせる様に撫でていく。
不意に両手を掴まれる。
……もっともっと触りたいのに…なんで?と小首を傾げる…
甘い蜜をためたような黄金色の瞳に見つめられる。
ラルクの顔がゆっくりと近づいて来て…………
…
…
——ガラガラビシャーーン!
ラシャドル王国の雪の季節を報せる雪降らしの雷が鳴り響いた…
「きゃあ!」
パッとラルクから離れると、ラルクに再び腕に閉じ込められ、大丈夫だよと耳元で安心する様に言葉を落としてくれる。
「リマ様、急いで戻りましょう。」
マタルさんの声が聞こえて、再びパッとラルクから離れるとリマは恥ずかしがり屋だねとくすくす笑われる。
…マタルさんに抱き合う姿を見られるのは恥ずかしいよ…!
雷の音で馬が走れなくなると困るから急いでエディンリーフの馬車に乗り込む。
心配して送ってくれるラルクも横に座り、馬車は走り出す。
「リマ、お腹痛いの?」
「………おへそ取られないようにしてるの…。」
落雷の音が大きくて、子供っぽい仕草だと分かるのだけど、ラルクが隣にいるけど、おへそをぎゅっと押さえてしまうの……!
「…だれも取らないよ?」
「雷の精霊がおへそを取るお話しを読んだの…!」
「リマかわいい。」
くすりと笑ったラルクが、エディンリーフの我が家に着くまでおへそを抑える私の手にそっと手を添えてくれていたのは、ふたりの秘密………。
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
シナノスマイルという葡萄を食べています◎
更に藤稔という葡萄も頂き、葡萄パラダイスを満喫しています。
幸せ!まだまだ葡萄を食べれると言う幸せ◎
今日もお疲れ様でした!
安らぎの夜が訪れますように。お休みなさい。