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70.乙女の時間



お店を出ると夕日の光を受けて専門店街が美しく染まる秋夕映えになっていた。


エディンリーフの馬車に乗り込みラルクと並んで座るとラルクが付けたばかりの幸運のどんぐりの髪留めを優しく触る。


髪留めを付けてみたら?とアミーさんにうふふと言われ、カイルが三つ編みのおさげから髪留めの似合うサイドアップに直してくれたのだ。


「リマ、似合ってるよ。」

「…ありがとう。」


馬車の中も美しく秋夕映えに染まっている。

ラルクの手が髪を優しく梳き、髪に口付けを落とす。幸運のどんぐりの髪留めを優しく撫で、頭を撫でられるのを繰り返される内にふわふわした眠気が遊びにやって来た……


「リマ、おいで?」


頭を優しくラルクの肩に迎え入れて貰う。馬車の揺れとラルクの温もりが気持ち良くて私は幸せな気持ちで目を閉じた……。



◇ ◇ ◇ ◇



「できた……!」




マリィに完成した物を見せると両手で受け取り確認してくれる。


「上手に出来てますよ。きっと喜んでくれますよ。」


マリィがふわっと笑ってくれたので私も嬉しくなり、ラルクから貰った雪の結晶(・・・・)の髪留めにそっと触れた。





あの日、髪留めを貰い馬車の中で幸せなまま眠りに落ちた私が寝巻き姿で起きた時、私の右手に幸運のどんぐりの髪留め、左手にデイジーの籠バックを持っていた。


籠バックの中に綺麗に包装された紺色の箱が入っていた。



箱をそっと開けるといくつかの髪留めが入っていた……




私が素敵だなと思った雪の結晶を繋げた様な小さな髪留め、青空マルシェで買った籠バックと同じデイジーの髪留めに髪ゴム、ラルクと同じ瞳の甘い黄金色の玉が付いた髪ゴム……



いつの間に買っていたんだろう…?

こんなに沢山の髪飾りのお返しは……?

よく考えたらお店に値札は付いていなかった…よね?



ベッドの上で赤くなったり青くなったりする私を見つけたマリィが微笑みながら刺繍をしてはいかがでしょうか?と提案してくれたのだ。


「女の子は裁縫美人じゃなければいけませんよ?」


うふふとマリィが微笑み、そこからお母さんとマリィの楽しくて厳しい刺繍お茶会が始まった。


家庭科の授業は嫌いじゃないけど得意でもなかった(小春)は刺繍を覚えるのが本当に大変だった…。


基本のランニングステッチに始まりアウトラインステッチやサテンステッチと次々に課題が出された。

基本の刺繍ステッチに合格を貰う頃、幸福のどんぐりの髪留めの季節が終わろうとしていた。


最初にお父さんの名前とサテンステッチでぷっくりとした葉っぱの刺繍を刺したハンカチをお父さんに贈った。


「…リマの初めての刺繍なのか…?!」

「うん。まだ下手なんだけど…貰ってくれる?」

「勿論だよ!使わないで大事にしまっておくよ!」


…お父さん使って!と思ったけど、喜んで貰えて嬉しい。


次にお母さんの名前とリーフステッチやナットステッチでミモザの刺繍を刺したハンカチを贈った。

優しい緑にふんわりとした黄色のミモザはお母さんみたいに優しく出来たと思う。


「リマありがとう。大切に使うわね?刺繍も上手になったわね。」

お母さんがぎゅっと抱きしめてくれた。


最後の練習に白猫のスゥを刺繍しているとマリィが珍しくじーっと手元を見て来る……


「…マリィ、貰ってくれる…?」

「うふふ。喜んで。」


マリィは猫好きだった、いや、スゥ好きだった…!

スゥの白い毛並みや青い目が映えるように白のハンカチじゃなくて、淡い桃色のハンカチにマリィの名前とスゥを刺繍した物を渡すとうふふと喜んで貰ってくれた。



さあラルクの刺繍を始めよう!




「おい!俺のはないのか?」

…え?カイルも欲しいの?


「俺はカブとクワのが欲しい。」

…カイル、カブとクワが大好きだもんね。

寒くなって2匹を見かけなくなった。この世界のカブトムシとクワガタは何年も冬眠して生きると聞いて本当に嬉しかった。カブとクワ、早く出て来るといいな。


段々、刺繍にも慣れて気負わずに綺麗に刺さるようになり、ちくちくと針を刺す時間も楽しくなって来た。


カイルのカブとクワは格好良く仕上げる為に1枚に1匹の刺繍にした。

カブとクワのハンカチにカイルの名前とクヌギとコナラの葉っぱを刺繍してカイルに渡すと珍しく笑顔で受け取ってくれた。



さあラルクの刺繍を始めよう!




「カイルは2枚なのか…?」

お父さんがしょんぼり肩を落として呟いている…


「……お父さんにもう1枚作るよ?」

「リマ、ありがとう!」

お父さんは星座が好きだから金色や銀色で天の川を意識して刺繍した物を渡した。


「リマは天才だな!」


お父さんは目に涙を浮かべて受け取ってくれて良かった。



さあラルクの刺繍を始めよう!




「ねえリマ?私は刺繍の先生よね…先生が少ないのはどういう事かしら?」

お母さんの目が笑っていない…


「お母さんのも今から作る…ね…?」

「お願いね?」


お母さんにはバリオンステッチで立体感を出した薔薇の花でハンカチの周りをぐるっと刺繍した物を渡した。


「リマ、ティエラブランドの手伝いに来てもいいわよ?」

お母さんに最大限の褒め言葉を貰った…!



さあラルクの刺繍を始めよう!



「……リマ様…?」


…うん。なんとなく気付いてたよ………


「マリィにももう1枚作るね?」

「ありがとうございます!」


嬉しそうにうふふと笑うマリィには、スゥが丸まって寝ている姿やぐいーと伸びをした姿、カブとクワを背中に引っ付けて歩く姉御スゥの姿を刺繍した物を渡した。


「可愛すぎて使えません…!」


マリィ…折角作ったから使ってね?




さあラルクの刺繍を始めよう!



「リマ、やっぱり…お父さんもう1枚ほ…」

「もうだめー!」

ラルクの刺繍がいつまでも始められないよ!

お父さんに1人2枚なんだからね!と言うと、しょんぼりしたけど、もうだめったら駄目なの!と言うとお母さんがお父さんの肩をぽんぽんと優しく叩いていた。

お父さんはお母さんに作ってもらえばいいでしょ!




さあ本当にラルクの刺繍を始めよう!



ラルクの刺繍は愛馬のカームに決めていた。


カームが走っている姿をちくちく丁寧に針を刺した。ラルクが喜んでくれたらいいなと思いながらひと針ひと針刺していく。今まで知らなかったけど、ラルクの事を想いながら刺繍をするのはとても幸せな時間だった。


カームの刺繍が終わり、最後にラルクの名前を刺繍した……




「できた……!」




マリィに完成した物を見せると両手で受け取り確認してくれる。


「上手に出来てますよ。きっと喜んでくれますよ。」



「ありがとう!明日、ラルクに会いに行くね。」




—雪の結晶の髪留めが似合う季節になった頃、私のお礼の刺繍がようやく完成した。

本日も読んで頂き、ありがとうございました!


今日シナノスマイルという葡萄を食べました◎

葡萄が大好きです。

幸せ!でもまだ残っているという幸せ!


今日もお疲れ様でした。

穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。

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