56.甘やかな雨宿り
おはようございます。
今日は雨ですね。
2人は雨宿りしています。
「すごいね……」
ラルクが雨宿りしようと言うから東屋みたいなのを想像していた。案内された雨宿り先は大きなソファがコの字型に置いてある部屋みたいな家だった……!
この世界の紫陽花は梅雨の季節に咲くのではなく、雨が降ると幻想的に花が咲く。雨の間だけ咲く紫陽花を寛いで見るために用意されている部屋で、ソファに座ると紫陽花がとても綺麗に見えると説明してくれた……
でも目下のところ問題はこっちだ……!
「リマ、おいで。濡れていると風邪引くよ」
「あ、うん……。で、でもこれで拭けば平気だよ?」
私は手に持っているハンカチをひらひらと振って見せて、顔を拭きながら答えるとラルクが私をソファに座らせる。
「ソファ濡れちゃうよ……?」
「リマと一緒に乾かすから平気だよ。いい?」
覚悟を決めてこくんと頷く……
ラルクはもう濡れていない。
この部屋に入って直ぐに火の魔法と風の魔法を融合したものを使って雨に濡れた自分や洋服をあっという間に乾かしたのだ。ラルクの体が宝石のように輝いている様子は魅入ってしまった……。
ラルクは10歳になり、マタルさんから魔法を習っているため、魔法学校入学前にもかかわらず、相当数の魔法が使えるのだ……!
ラルクがリマはまだ魔法使えないから乾かしてあげると言ってくれたのだけど、完璧じゃないから触りながらじゃないと出来ないよと言われ……恥ずかしくてハンカチで拭くよ? とやり取りしていたのだ。
さっきまで手を繋いでいたけれど、改めて触れるって言われるとやっぱり意識するし、心臓がドキドキ煩い……
「リーマ、乾かすだけだよ?」
くすりとラルクが笑い、ふわっと私を抱き寄せる。意識しているのは、私だけなんだよね……
「 温 風 」
ぱあぁ……とラルクの手が淡く橙色に光り、その温かそうな淡い橙色の光が私の濡れているところへ広がり、ゆっくり髪や洋服を乾かしてくれた……!
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「…あ、あの、ラルク?」
もう乾いたけど、 抱きしめられたままだ……!
「うん?これはお礼の分だよ」
「……」
心臓が飛び出しそうなまま、お礼なら……?と思い、こくんと頷いた私にラルクがくすりと笑い、更にぎゅうと抱きしめられた。
恥ずかしくて、ずっと息を止めていたら苦しくなって、息を吸い込むとラルクの爽やかでほろ苦いレモンタイムの香りを体中に感じてしまい、ますます苦しくなるような気がした……。
ラルクの腕が緩められ、その腕が移動し、ほっぺを手がするりと撫でられ、唇をゆっくりとなぞる……!
顔に熱が集まる……
6歳の誕生日の後みたいだ……
今日はスゥもマタルさんも、誰もいない……
まだ……まだ……気持ちの準備が出来ていない……
微かに、首を横に振る……
ラルクがくすりと笑い、頭をぽんぽんと撫でてくれた……
「いいよ?リマをもう少し待っててあげる」
耳元で「ほんの少ししか待たないよ?」と声を落とされ、こくんと頷くとラルクが抱きしめてくれる。
おずおずと私もラルクの背中に腕を回し、そっと抱きしめる。ラルクの爽やかでほのかに苦みのあるレモンタイムの香りが胸いっぱいに広がる。
今度は息苦しくなくて、安心する香りがする。
「ほら?」
ラルクが指差す方を見ると紫陽花が幻想的な薄桃色、紅紫色、赤紫、薄花、藤色、紺碧色がゆっくり咲き始めてもうすぐ満開に咲きそうだった。
「すごくきれい……」
我が家のお庭の紫陽花も綺麗だけど、王宮の紫陽花は圧倒される美しさだ……!
ラルクがソファから立ち上がり、屋根のある濡れないギリギリまで紫陽花の近くに連れて行ってくれる。 2人で紫陽花がゆっくり満開になるのを並んで見つめていた。
「リマ、目を閉じて?」
「うん……?」
なんだろう? と思うけど、そのまま目を閉じた。
…………ちゅ
「……え?」
今、ラルク……おでこに口付けした……よね?
「唇はもう少し待ってるよ?」
ラルクがイタズラに成功した顔でくすりと笑う。
「……うそつき……」
「ん? リマは僕が嫌いなの?」
首を横にふるふると振る。……そんな言い方……ずるい。
「リマかわいい」
くすりと笑われ、またおでこに口付けを落とされる。……ちょっと心臓が持たない……! ラルクいじわる! ラルクがいじわるするなら……!
……ちゅ
素早くラルクのほっぺたに口付けをした。
「……おあいこ?」
私が小さな声で言うと、ラルクの顔が真っ赤になり、片手で顔を覆う。おあいこだもん!
青葉に降り注ぐ恵みの翠雨はまだ止まず、2人の雨宿りはまだまだ続いた——
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