54.ラシャドルの樹
おはようございます。
今日も暑そうですね。
頑張っていきましょう!
初めて王宮のお庭へ遊びに行くのは延期になったが、この数年の間に何度も王宮のお庭に遊びに来ていた——
「リマ!待っていたよ。おいで」
王宮に遊びに来ると、毎回笑顔のラルクが出迎えてくれる! パッと私の右手を掴むと走り出した。
「えっ? ま、まって……!」
口付けの事があって以来、ラルクに会う前は、ほんの少しだけ緊張しているのに、ラルクは私の気持ちを知らないから、いつも通り接して来る。ラルクが、たったっと軽快に走るから私も付いていくのに必死で走るしかない……!
多分、私が走れるギリギリの速さに抑えてくれていると思う。はぁはぁ……と息が切れ始めた私に対して、ラルクがちらりとこちらを見るけど、涼しい顔で走っているもん。
広い王宮を右に左に走って、やっとお庭に出た……!
「……すごいね」
初めての場所だった……!
目の前にあるのは、雄大な樹形の美しい樹木。 大樹と呼ぶのに相応しく、他の木より一際目立って樹形が端整であることや、木目が美しいことを意味する木……
王宮の庭の真ん中に立派な『欅の木』があった!
樹齢何年なんだろう……?
今まで見た事がないほど立派な欅の木……ため息しか出てこない程、立派な樹だな……
ふらふらと欅の木に近付いていく私の右手をラルクが、くいっと引っ張った。
「リマ? 今は枝を切ってるから近くで見るのは後にしてね」
よく欅の木を見てみると、ツリークライミングの要領で欅の木にぶら下がり枝を切る様子が見えた。
あれ? ……うん?
「あれはね、精霊の使いだよ。リマは初めて見るでしょ?」
こくんと頷くと、「リマは、本当に植物が好きだね」とくすりと笑い、おいでと手を繋ながれたまま歩く。こうやって気付けば、いつもラルクのペースになっているんだ……!
「はい、ここに座って」
「ありがとう」
欅の木がよく見える場所に暑さを和らげる魔道具が敷いてあり、座り心地の良さそうなクッションが置いてあった。並んで座るとすぅーと涼しくて気持ちいい。ラルクがふふっと笑い、「何か飲む?」と聞いてくれる。走って喉が乾いていたので、こくんと頷くと、薄くグラデーションする桃色の硝子コップについだレモン水を渡してくれる。「ありがとう」と両手で受け取り、こくこくと喉を潤した。
「あれはラシャドルの樹と言って、ラシャドル王国の初代国王が植えたこの王宮にしかない木なんだよ。リマが見たら喜ぶと思って……?」
欅の木がラシャドル王国の国の樹木なんだね!
この樹木だけなんだ! ええ? 欅の木は、この世界に1本だけなの……!
ラシャドル王国って建国してどれくらい……? かなり古い樹なのは間違いないよね。はぁ……立派な樹木。大きな木に抱きつきたいです……! 今すぐにでも……!
「ふふっ。精霊の使いがどの枝を切るかを教えてくれるんだよ。見える?」
ふと気付くと、ラルクが更に近くに来ており、肩と肩は触れ合い、また手は繋がれている……! 樹に夢中だったから気付かなかった! ラルクは繋いでいない手で、精霊の使いを指し示す。
「……枝を切っている人の肩に乗っているのかな?」
先程の違和感は、しっぽが揺れて肩をうろうろしているおさるさんにあった。
「うん、そうだよ。アッフェと呼ばれる精霊の使いだよ。アッフェがパートナーになる人間を選んで、協力してラシャドルの樹の枝を切っていくんだよ」
「すごい! 私もアッフェに選ばれたいな!」
「それはだめ!」
ラルクの両手が私の頬を押さえ、ラルクの顔がすごく近くて真正面にある……! 顔に熱が集まるのが分かる……!
「あんな高い所に登るのは絶対だめ! いい?」
こくこくと頷くと、「いい子だね」と頭を撫でられる。「あとでアッフェに会わせてあげるからね」と言われ、嬉しくなって「ありがとう」とお礼を言う。頭を撫でていた手が、するりと動き、「似合うね」と向日葵バレッタを留めてある髪を触るので、くすぐったくなって、うふふと笑ってしまう。
「ラルク様、あんなに走ってはリマ様が疲れてしまいますよ」
マタルさんがゆっくりと追いついてラルクに話しかける。
「マタルさん、こんにちは。あのお土産……?」
王宮にマリィも一緒に付いて来たが、王宮の中に入る許可は私にだけ降りているみたいで、控え室で待機してくれているのだ。お土産をマリィから受け取っているか心配でマタルさんに話しかけると……
「大丈夫ですよ。きちんと受け取っております。仕上げ方もマリィに伺っておりますのでご安心下さい」
「よかったです。マタルさん、ありがとう」
「リマ、何か作ったの?」
ラルクが不思議な顔をしたので、10歳になったから『美味しくなーれ魔法』が解禁されたことを伝えると、「楽しみだな」とラルクが私のほっぺをふにょんと摘んだ……!
「……っや! ……つままないで」
私、太った……? ぷにぷにしてる? 恥ずかしいよ……。
「ふふっ。ごめんね? 柔らかそうだったから、ついね?」
………もう知らないっ!
「ラルク様、いじわるはほどほどにしませんと、嫌われますよ?」
「そうだね。ごめんね」
不意に黄金色の瞳に覗き込まれると……真っ赤な顔で、こくんと頷くしかない……。
「ラルク、マタル、ここに居たのか! 父上が呼んでいたぞ」
「兄上!」
「ハルト様!」
ハルトフレート・ラシャドル王子が現れ、ラルクとマタルさんが反応した。
「僕がリマニーナ嬢のお相手をしているよ? 早く行っておいで」
「ですが……」
「ラルク? 行っておいで?」
ラルクとハルトフレート王子と見つめ合う……
「リマ、すぐに戻るからね。兄上、すぐに戻ります。失礼します」
ラルクはマタルさんと凄い勢いで王宮に向かって行き、残されたのは、ほぼ初対面のハルトフレート王子とその執事さんだけだ…… 気まずい……!
「リマニーナ嬢、すまないね。僕がラルクの代わりを務めるよ。なにか聞きたいことはあるかい?」
ハルトフレート王子、ちっ近い……! そんな横に引っ付かなくてもいいよ……失礼にならないように微妙に距離を置いた。
聞きたいことかぁ……何度かお庭に来ているけど、広くてまだ全部見ていないんだよね!
「王宮のお庭は他に何があるんですか?」
「………あ、ああ。他にもあるよ。ここはラシャドルの樹がある庭だが、薔薇園、薬草とハーブの植えてある薬草園なんかもあるな」
薔薇園……綺麗そうだなぁ。王宮の薬草園も色々な種類が植えてありそう。……はぁ。見てみたいな。
他にも気になった精霊の使い『アッフェ』や前にププリュでお世話になった『マジー・コクシネル』についても質問すると、ハルトフレート王子は、意外と丁寧に答えてくれた。
距離感が近いけど、王宮のお庭に詳しくて、丁寧に教えてくれるいい人だなと思った。
「……私の事はどう思うのかな?」
ハルトフレート王子に真面目な顔で見つめられた?
6歳の誕生日の翌日に謁見の間で見て以来だからほとんど初対面なんだよね……どう思う? と言われてもな?
お庭に詳しくて、いい人ですね?
きっとこの言い方は失礼だよね……?
「ラルクから向日葵バレッタを選ぶのを手伝ってくれたとうかがっています。ラルクがハルトフレート王子は頼りになるって言っていました。ありがとうございます」
ラルクはハルトフレート王子を慕っている様子だったんだよね! 兄弟の絆っていいよね!
「……そ、そうか……。………リマニーナ嬢、私のことはハルトと呼んで構わない」
何故か、ハルトフレート王子に愛称呼びを許可されました——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
『ミルク金時』が出てこないままでした…
明日は登場させたいなぁと思います。
今日も一日頑張っていきましょう◎















