49.王子の向日葵—後編
ラルク視点
『にゃあ』
「あ!スゥちゃん!!」
リマが大切にしている白猫がやって来た。
ふわふわの髪の毛が僕の手からするりと離れ、リマが笑顔で白猫のスゥにどうしたの?暑かった?と優しい声で聞いている。
にゃとスゥが鳴くと、夏だから熱いよねと頷きながら返事をして、膝の上に乗せる。
スゥは何してたの?と目尻を下げてふにゃとした顔で背中や顎のあたりを撫でていく。
しばらくご機嫌に撫でられていたスゥが思い出した様ににゃんと鳴く。
「喉乾いたの?お水とミルクどっちにする?」
「にゃん!」
「ミルクだね。まっててね。」
リマは猫のスゥと会話が出来る。
リマはマリィが用意してくれた飲み物の中からスゥ用の皿にミルクをそっと注いで、はいどうぞとスゥにあげていた。
「ラルク、これ約束してたの。」
この前渡せなくてごめんねと言いながら若葉色の箱を差し出される。
「うん。ありがとう。開けていい?」
「うん!開けていいよ。」
リマから贈り物を貰うのは初めてでドキドキして来た。
パカっと開けると中にカードと鉛筆が見えた。
「あっ!?」
待って!だめ!とリマが両手を伸ばして箱を隠そうとするが、僕の方が反射神経は良いからサッと上にあげ、取られないようにする。
「ラルク!あのね!そのカード…返してもらえない……?」
急に目に涙を溜めたリマを見て慌てる。
リマが書いたカードならどんなカードでも嬉しいよと告げてもリマは返して欲しいと言う。
「どうして?」
「絶対に笑わないって約束してくれる…?」
「ラルクのうそつき!笑わないって言ったのに!」
リマがリスリマになってしまった。
ごめん…?と言う声も笑い声になっているからリスリマの頬袋はどんどん膨らんでいく。
リマは父上に呼ばれたのを魔法学校の集まりだと勘違いしていたらしい。
カードに《魔法学校の集まりであまり話せないかもしれないから》と書いた事を思い出し、カードを返してと涙目で訴えていたのだ。
リスリマの頬袋は最大まで膨らんでぷんぷん怒って睨んでいるみたい。
…恥ずかしい…だからやだって言ったのに…
…ラルクばっかり余裕でずるい…
目に溢れそうな涙を溜め、震える小さな声で話すリスリマはかわいい小動物の様で愛らしいけど、これ以上怒らせたら本当に話して貰えなくなりそうだ。
「リマだけじゃないよ?」
僕だってリマに余裕なんてないよ?と話す。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それでラルクは何に悩んでるの?」
「……贈り物です。」
僕が憧れる兄上には敵わない。
兄上は何でもお見通しの様で、僕が悩んでいるのを知って話しかけてくれる。
「リマニーナ嬢?」
…はいと頷くと、ラルクも好きな子で悩むなんて大きくなったねと嬉しそうに笑われる。
「じゃあ今から選ぼう!」
今からですか?と不思議にに思っていると兄上の部屋に商家の方が待っていた。
「兄上…?」
「女の子の喜びそうな物を集めておいたよ。ほらほら選んでごらん。これとか可愛いよ?」
ローズピンクの大きな花の簪を指差しながら兄上が言う。
「リマにはもっと可憐な物が似合います。」
ふーんかわいい系かい?と楽しそうに小物を眺める兄上。
「…兄上!ひとりで選べます!」
「そうだね。プレゼントは自分で決めた方がいいよ。」
私は後ろでお茶をするからゆっくり選んでと言う兄上は楽しそうで全く敵わない。
ありがとうございますとお礼を言うと可愛い弟の成長を見るのは嬉しいものだよと優雅に微笑まれてしまう。
沢山ある髪飾りや小物をひとつひとつ眺めていく。
小さな向日葵が並ぶ髪飾りが目に留まった。
「…リマに似合いそうだな。」
向日葵バレッタを手に取る。
「もしやエディンリーフ家のお嬢様に贈られる物でしょうか?」
そうですと答えると、以前リマがお店で向日葵バレッタをとても気に入ってくれたが、小さな物が売り切れて買えなかった事を教えてくれた。
たまたま入荷出来たからエディンリーフ家に連絡しようと思っていたら兄上に呼ばれたので持って来たと教えてくれた。
小さな向日葵の花が並んだ髪飾り。
リマに似合いそうだ。
「ラルク決まったの?」
兄上に聞かれ、これにしますと答えるとラルクが悩んで選んだ物ならきっと喜ぶよと言ってくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「僕に余裕なんてないよ?」
リスリマはいつの間にかリマに戻り、僕の正面で両足を曲げて真っ直ぐに座り直して話しを聞いていた。
リマが胸に飛び込んできた……?
「ありがとうラルク!!
沢山悩んで選んでくれてとっても嬉しい!
すごくすごく大切にするね!」
リマに抱きつかれている事にようやく気付く。
リマの甘い花の香りが頭を真っ白にする……誘われるようにリマを抱きしめる。
「…っ?!」
リマが息をのむのが分かった。
リマが驚いて離れようとするけど、「リマからでしょう?」と少しからかうように耳元で言うと、……困ったように頭をこてっと胸に預けて来る。
他の人にしたらだめだよ?と言うと、こくこくと首を縦に動かすのがくすぐったくて笑ってしまう。
リマのふわふわの髪を撫でながら甘い花の香りが強くなるのを感じる。
リマがどんな顔をしているか見たくなり、腕を緩め、柔らかな頬に片手を添えて上を向かせると……
桃色に染まった頬、困ったように潤んだ瞳のリマと目が合う……
リマが恥ずかしそうに長い睫毛を伏せる……
吸い寄せられるように……
『にゃあああ!』
「…っ!」
「ラルク?!明後日、また遊びにいくね?!」
「…うん、わかった。」
「またね?!」
リマが林檎みたいに真っ赤な顔でスゥを抱き上げると走って帰って行ってしまった……。
「ラルク様、リマ様にはまだ早いかと?」
「マタル、わかってるよ!」
スッと姿を現したマタルを睨みながら言い返す。
「失礼致しました。では楽しい魔法移転で城に戻りましょう?」
「はぁ………。」
マタルには敵う気がしないよ…。
翌日、エディンリーフ家からリマが高熱を出したと連絡が来て、王宮の庭に遊びに来るのは、しばらく延期になった——
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