4.この木 なんの木 魔力の木
小庭に辿りつきました。
ちょっと思っていたより広そうな庭になってます!
あれ? どうしてみんなポカンとした顔をしているの……?
首を傾げて考える……あ、手を合わせて、「いただきます」「ご馳走さま」と言う習慣が、この国にはないのかもしれない。失敗したな……と思い、へらりと笑っておく。子供の笑顔はきっとどうにかしてくれる……はず! 記憶が混乱しているかもと言われているみたいだし? ポカンとしたままの顔のみんなに、ついでにお願いを言ってみた。
「これからお庭をお散歩してもいい?」
昨日倒れたけど、痛みもないし、食欲もあるし……ベッドで寝ているのは退屈だと思って、みんなに聞いてみた。
リマの記憶で、この家のお庭は広くて、色々な草花があるみたいだった! ふふっ、何を隠そう……私は大学で植物学を専攻していたのだ! この国の植物を見てみたいと思うのは、当然のことだ!
「駄目だ!」
ポカンとしていたお父さんの顔は、深く眉間に皺を寄せた顔に変わっていた……
「リマは昨日倒れたばかりなんだ。今日は家の中でゆっくりしなさい。明日、元気だったら庭を少し散歩してもいいよ」
「……わかった」
昨日、庭で倒れて、今日も庭に出て良いわけないか……ちぇ、残念。お庭に出て、植物見たかったのにな。でも倒れたばかりだし、文句も言えないよね。
明日はお庭に出る許可も貰ったので、マリィとエディンリーフ家を探検して回ることにした! リマはあまり活動的では無いらしく、自分の家なのに初めての場所みたいで、わくわくした……! それにしても、我が家、いや、屋敷が、すごく広くて驚いた! 部屋数は幾つあるの? 最初は数えていたけど、途中から諦めたくらいの部屋はあった。
楽しみにしていたのに、翌日は雨だった。
翌日から数日間、春雨のぐずついた天気が続き、お庭に出る事が出来なかった……
お庭に出れない日は、マリィと屋敷で探検の続きをしたり、折角沢山の部屋があるなら……! と、かくれんぼをして遊んだ。隠れる所が沢山あるのに、マリィはあっと言う間に私を見つける……何故なんだ……? 首を傾げると、「リマ様の侍女ですもの」とうふふと微笑まれた。
いやいや、こちらは「見た目は子供、頭脳は大学生!」なんだけどな……!
「やった! 今日は晴れてる」
数日後の朝、カーテンの隙間から朝日がキラキラと入るのを見て、思わず叫んだ! ようやくマリィに連れて来てもらった念願のお庭は、屋敷同様にとっても広かった!
その中で目を引いたのは、お庭の中央辺りにある木だった。あれって……?
「ねえ、梅の木があるの?」
「リマ様、あれはププリュの木ですよ。この前、リマ様が倒れたのは、ププリュの木の近くなんですよ……」
「ププリュ……?」
ププリュの木か。梅の別名は、プラム、プリュネ、プフラオメ……ププリュの呼び名に似ているし、梅の木っぽい?
梅は、小春のおじいちゃんの庭に植えていて、大切にお世話をしていたのを見て来たから思い出がある木なんだ! 梅の実が取れる時期に一緒に収穫して、梅干しや梅シロップ、梅酒を作ったり……色々楽しい思い出があるの。
「マリィ、ププリュの木の近くに行ってもいい?」
マリィの返事を聞く前に、梅の木、ププリュの木に向かって歩き始めた。「はぁはぁ……」すぐ近くにあると思ったのに、意外と遠い……。 小さな子供だから歩幅が違うけど、リマちゃん……体力ないな……。息を整えながらププリュの木をゆっくり見上げた。
「ねえ、マリィ……この木は実をつけないの?」
近くで見ると、葉っぱは生い茂っているが、実が出来ている様子がない。この世界に詳しくはないが、今が春だとするならば、花が咲き終わり、小さな実が付いていてもいい筈だ。
梅の木にそっくりだけど、ププリュという木が違う可能性もあるので、マリィに質問した。
「昔は分かりませんが、私がエディンリーフ家に来てから、このププリュの木は、花も実も付けたことはないはずですよ?」
「他のププリュの木は、花や実がなるの?」
「そうですよ。ププリュは魔木なのですが、ププリュの実に魔力があるので、魔力回復薬の素材として使われるのですよ」
気になる単語出ました! 気になる単語出ました! 大事なので二回言いました!
魔木! 魔力!
マリィがファンタジーの世界みたいな事を言ってる! あ……倒れた時も白髭先生が魔法みたいなもので治療してくれたよね? あれは魔法だったんだ……!
魔法の植物があるなんて……わくわくして来た! 絶対ププリュの花と実を見てみたいし、育てたい!
「ねぇマリィ……くわしく教えて?」
マリィの洋服の裾を引っ張り、両手を組み合わせ、子供を最大限に活かしたお願いのポーズを取った。マリィが目を開いて驚いた顔をした——
この木なんの木気になる木ー!