38.ブルーアワー
おはようございます。
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「スペアミントは、ペパーミントよりやさしい香りなんだよ」
リックに違いが分かるように、スペアミントとペパーミントをひと茎ずつ摘んでリックに差し出した。
「甘い……かな?」
リックはミントがかなり苦手らしく、直接茎を持たず、私が手に持った状態のまま匂いを確かめている苦手な香りが手に付くのは嫌だもんね……。
「そうなの! 少し甘いし、スゥーとする感じはあんまりしないと思う。少し摘んで試してみる?」
「……明日でもいい?」
「もちろん、いいよ! 明日のお昼にはミンツェ村を出るから、無理はしなくてもいいよ?」
スペアミントは、他のミントよりは優しい香りだけど、ミントの清涼感はあるので、リックに無理強いは出来ない。屋敷に戻った後、カイルさんとハッカさんに伝えておけば他の人で試して貰えるだろうしね?
リックに「ミント畑を見てても大丈夫?」と確認すると、「食べないなら平気だよ」と言われ、リックと畑を散策をする。
「あっ! アップルミントもある……! これは、りんごの匂いだから、もっと平気かも?」
リックにアップルミントを香りを試して貰うと、
「甘くてすきな匂いかな?」
「本当……? これはお茶にむいてるんだよ!」
リックに好きなミントがあって良かった……! ミント工房があるのに、ミントが嫌いなのは色々大変な気がしていたのだ。
リックに「ミント同士は混ざりやすいから別々に植えるといいよ」と話すと、「少し待ってて」と鉢とスコップを持って来てくれたので、2人でスペアミントとアップルミントの根っこを残さないように鉢へ移し替えた。
作業が終わり、木陰で休むことにした。ミント畑の作業休憩に使われている場所らしく、簡単な椅子やテーブルもある。椅子に座ると疲れがどっと出た……私、体力作りを真剣に始めた方がいいかもな……? リックと目が合うと、すごく心配した顔になった……顔色悪いかな?
「……リマ、大丈夫か?」
「大丈夫だよ! ちょっと疲れたから少し休んでいいかな……?」
「ゆっくり休もう。これさっき取ってきた」
リックに「ほら!」と渡されたのは真っ赤なトマト。冷たい水で洗ったのか、渡されたトマトは冷たくて気持ちが良い……! 思わず頬っぺたにトマトをくっつけて涼しさを味わった。
「ん〜! 甘くておいしいね!」
がぶりと齧り付けば、トマトの爽やかな酸味と甘さが口いっぱいに広がって、喉の渇きが無くなっていく……! 夢中で食べ終わるとリックはまだ手にトマトを持ったままだった。
「リックは食べないの?」
「……食べる」
リックは大きな口でトマトをあっという間に食べ終えた。
「リマは魔法学校に来れそうなのか?」
「まだ『魔法測定』してないからわからないけど、魔法学校に行けたらいいなって思ってるよ」
上級魔法の適性が1つあればお父さんお母さんと同じ魔法学校に通う事が出来る。ラシャドル王国を建国した初代ラシャドルさんが6歳だった……6歳で建国は無理だと思うけど、歴史は都合良く書かれているものだよね? まあ、その初代ラシャドルさんに因んで、6歳の誕生日に『魔法測定』を行うことをラシャドル王国が義務づけており、6歳の誕生日はラシャドル国民にとって特別な日になっている。
「……リマの誕生日っていつ?」
「2日後だよ」
「……! そうなんだ?」
「うん! リックは魔法学校に通うのが決まっているんだよね? 上級魔法の適正はどれなの?」
「俺は『風』と『水』だ」
「じゃあリックは魔法が色々使えるの?」
上級魔法の適性があると、魔法を習わなくても簡単な魔法を操ることが出来る。例えば、「水が欲しい、氷が欲しい、風よ吹け」など、自分の欲求に魔力が反応し、魔法となる。
「俺は暑い日に氷を出してたとか、あとドラッヘンで負けたくなくて、風を出し過ぎて、紐を切って怒られたくらいかな……」
ドラッヘンとは、ラシャドル王国の凧揚げだ。
小春の凧揚げと言えば、お正月の印象が強いが、ラシャドル王国は秋に凧揚げをするのが一般的らしい。
リックが過去形で話すのが、少し不思議に思ったが、今はあんまり魔法使わないのかな……?
その後もリックとミンツェ村のことや私の飼っている猫や最近買った物、好きな食べ物など、思いつくままに沢山話した。ふと気付くと、まもなく日が沈む時刻が迫っていた……!
「ミンツェ村の夕焼けはすごく綺麗なんだ」
リックに夕焼けが綺麗だと聞き、少し見たい気持ちもあったけど、ミント畑は丘の上にあり、ハッカさんのお屋敷へ戻り始めなければ、日が完全に沈み、辺りが暗くなってしまう……「そろそろ戻ろう?」とリックに声をかけた。「そうだね……」とリックが立ち上がり、「暗くなると転ぶかもしれないぞ?」と手を差し出してくれた。リックにこれ以上、心配をかけたくなくて「まだ明るいし、沢山休んだから大丈夫!」明るく言い、歩き出した。
リックにここまで体力がないと思われたのか……! 私は王都に帰ったら体力付けようと心に誓った……!
「わあ……! すごくきれい……」
ほんの少し先を歩くリックが、先程と違う道を歩いている? と思っていたら、夕焼けが一望出来そうな場所に出た。リックが「ここはミンツェ村で1番夕焼けが綺麗で、夕焼けを見るのベンチが置いてある」と教えてくれた。ミント畑からハッカさんのお屋敷に戻る途中なので、寄ってくれたらしい……。リックは夕焼けが見たそうなんだけど……綺麗な夕焼けが見たいけど、暗くなる前に戻りたい……と葛藤し、ベンチに座るのを躊躇してしまう。
「リマお嬢様! リック!」
カイルさんがすごい早足で歩いて来るのが見えた……! 何故だか、すごくホッとした……
「リマお嬢様、旦那様が心配しておられます。戻りましょう?」
「……カイルさん、ごめんなさい」
カイルさんに謝ると、少し驚いた顔を見せた後、ニヤリと笑った……? あれ……今、好青年じゃなくなったような……?
「リマお嬢様、帰りに抱っこしても宜しければ、ミンツェ村の夕焼けをご覧になりませんか? 王都では見れないミンツェ村自慢の夕焼けです」
「見ます!」
即答した私を見て、カイルさんは少し笑い、ベンチに案内してくれた。私が真ん中に座り、左右にカイルさんとリックが座った。
空の橙色が濃くなって、みかん色の雲が折り重なる……
太陽が少しずつ沈んで行き、空の色は橙色から濃紺や赤に朱色……七色に変化していく様子を3人で言葉ひとつ出さずに見惚れていた。
夕焼け後のわずかな隙に訪れる、辺り一面が儚い蒼い光に照らされるブルーアワーになった…………
「……はぁ、終わっちゃったね。とってもきれいだったね……」
「リマお嬢様、暗くなると危ないので急いで参りましょう。リックは家に戻っていなさい」
約束通りカイルさんが私を抱っこしてお屋敷に戻り始める。急いで歩くカイルさんは、リックをあっと言う間に離して歩いて行く……! リックにちゃんと挨拶もお礼もしていないのに気付き、慌ててカイルさんの背中越しに「今日は楽しかった。ありがとう」とリックに大きな声で言い終え、バイバイと手を振った。
リックが手を振り返してくれた様に見えた……
カイルさんに抱っこされると、揺れの気持ち良さと疲れからか、うとうと……と眠気が遊びに来た。カイルさんに「寝てて下さい」と優しく言われ、気持ちのいい揺れに身を任せ、目を閉じた——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
リック視点で書くか先に進むか悩んでいます。
他者視点、他の方の小説で読むのが大好きなので取り入れたいんですけど、なかなか難しいですね。
楽しい悩みです◎
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ありがとうございます。
今日も一日頑張っていきましょう!