16.精霊の虫
改稿しました◎
「リマ、ププリュの枝を見るときは必ず、必ず、必ず……! 風の優しさを使うんだ。いいね?」
3回も必ずを強調して渋々、本当に渋々……「仕事休むかな?」と出掛ける直前にもぶつぶつ呟くお父さんを見るお母さんの絶対零度の視線に……正直に言うと、私が耐えきれなかった。「お、お父さん、必ず使うし、お父さんがお仕事頑張ってるの、格好いいと思うよ……?」と言い、背中をぐいぐい押して、ようやくお父さんはお仕事に出掛けて行った。
私が脚立から落ちた事は、お母さんとお父さんは既に知っていて、すごく怒られたが……「風の優しさ」を使うことを約束して、今まで通りププリュのお世話をすることを許してくれた。……良かった!
お庭に出ると、気持ちのいいそよ風にぽかぽかとした太陽の温かさが気持ち良い。今日もププリュ日和だなと思うと嬉しくなった!
ププリュの木の下に風の優しさ敷き、その上に脚立が置いてあり、薄いし飛ばされないのかな? と不思議に思っていると、「風の力で地面に吸い付くようになっております」とマリィが説明をしてくれた。
魔道具すごい……!
小春の世界に、こんな赤ちゃん用品があったら爆発的に売れそうだなと思っていると、「リマ!」と優しい声が耳に届いた。
声が聞こえたお隣さんのお庭からラルクとマタルさんが歩いて来るのが見えた。ラルクの手には、昨日の帰り際に渡した色違いの浅葱色のトートバックが見えて、嬉しくなる。小春の時も、仲良しの友達とお揃いを持って嬉しかった事を思い出す。
「ラルク、お揃いだね!」
「ふふっ、本当だね」
私は嬉しくてトートバックを振りながらラルクに見せると、「リマと一緒だ」と甘く微笑まれ、頭をぽんぽんと撫でられる。
ラルクとお揃いだと思うと嬉しくて、ラルクも同じように喜んでいるのが分かり、幸せなのに胸がきゅうと甘やかに締め付けられ、顔に熱が集まるのが分かった。
「リマ、かわいい」
くすりとラルクが笑い、ププリュの木の下でラルクに手を繋がれる。
「リマ、コクシネルを持って来たよ」
ふわりと優しく微笑んだラルクがマタルさんに視線を向けると、マタルさんが流れるような仕草で金色の格子とガラスで出来たカゴ私の目の前に差し出した。
どんなコクシネルかな? とわくわくした気持ちでカゴを覗くと、何故か水玉模様のビー玉が入っていた……?
「ビー玉……?」
思わず呟くと、くすりとラルクが笑い、「リマ、よく見て」と優しい声で言うと、頭をよしよしと撫でる。ラルクに言われ、カゴのビー玉をじっと見ていると……
「……っ! 動いてる!」
思わず息を呑んだ……!
水玉模様のビー玉と思っていたら大きなコクシネルだった。小春の世界でよく見る赤の体に黒い水玉模様の『ナナホシてんとう虫』は大きくても1センチなのに、このビー玉てんとう虫はとても大きくて5センチくらいあるのだ。5倍の大きさのてんとう虫……! 大きくなり、目が黒目でくりっとしていて、表情も分かるみたい。
体の色も透明で驚いた!
鮮やかな赤い薔薇色、濃い紅赤のような深紅色、鮮やかなたんぽぽの蒲公英色、やや赤みをふくんだ薄い紫の薄紅藤色、そして、蜜柑の果実の表皮のような黄赤の蜜柑色。水玉模様も色々あり、水玉の数が多い子や少ない子、水玉じゃない柄もある。
全てのコクシネルの体はお日様の光を浴びて、キラキラと煌めいている。
「……かわいい」
余りの可愛さにため息を零すように、呟いてしまう。キラキラ煌めくコクシネルはいつまでも見ていたくなる。「リマは好きだと思ったよ」とラルクの優しい声が聞こえ、夢中で見ていた事に気付いた。
「リマ様、こちらはマジー・コクシネルになります。我々は『精霊の虫』や『精霊の使い』と呼んでおります」
「精霊の虫……?」
てんとう虫は、小春の世界では天道虫と漢字で書く。枝などの先端で行き場がなくなると上に飛び立つ習性を『お天道様に飛んで行った』と感じ、太陽神の天道から『天道虫』と呼ばれていた。
他にもてんとう虫は、神様の虫やマリア様の甲虫など幸運のシンボルとして扱われる事が多く、きっとこの世界でも同じように扱われているのだろう。
「精霊の虫は、マジー・バトラスを好みます。今日お待ちした精霊の虫は、昨日ププリュの枝についていたマジー・バトラスを特に好んで食べていたものを連れて来ましたので、今日も沢山食べると思います。今回のププリュの木のマジー・バトラス退治にお役立て頂けると思います」
「ラルク、本当にありがとう……!」
マタルさんの説明を聞き、感動して目元がじわりと熱くなるのが分かった……! 凄く嬉しくて、ラルクの両手を包み込むように握りしめ、少しでも感謝の気持ちが伝わるようにじっと見つめた。
「……リマが喜んでくれて、嬉しい……」
あれ……? ラルクの耳がほんのり赤い?
早速マタルさんにお願いして抱き上げて貰い、コクシネルをププリュの枝に離そうと思っていると、「精霊の虫はとても賢いから」とラルクに止められる。……賢い?
マタルさんが精霊の虫に小声で話しかけ、カゴの蓋を開けると、精霊の虫が一斉にププリュの枝と葉っぱに向かい羽を広げ、飛んで行った。
「ププリュをお願いね!」
精霊の虫は春の柔らかな日差しを浴びて、宝石の様にキラキラ煌めき、飛んで行く姿は、優雅でいつまでも見ていたくなった——
精霊の虫が出てきました。
少しずつ魔法の世界感を出せていければと思っています。
本日も最後まで読んだ下さりありがとうございます!
改稿して、この話はバッサリカットした話しも多かったかな?