15.水の魔法
改稿しました◎
コクシネルを用意すると言うと、ラルクに手をするりと繋がれ、「リマ、お腹空いたね?」と気付けばお昼ご飯の席へ腰を下ろしていた。
「ラルクのお庭にコクシネルが沢山いるの……?」
首を傾げてラルクに聞くと、「まあそんなところかな……?」と答えのような、答えになっていないような返事をする。
「リマ、沢山食べてね」
ラルクが持って来てくれたサンドイッチを差し出してくれる。た、たしかに……少し休憩はしたけど、ずっと動いていたし、お腹ぺこぺこだ……!「ありがとう!」とラルクからひと口サイズに切り分けられたサンドイッチを1つ受け取り、ぱくりと食べる。
「……っ! すっごく美味しい……!」
ふわふわの白パンにハムとチーズ、沢山の野菜が挟んであった。野菜の濃厚な新鮮さと歯触りに、ハムとチーズの塩気がとても合っていて美味しい。
小さなサンドイッチは、次々に食べたくなり……茹で卵を潰してハーブとチーズを併せ挟んだもの、新鮮なフルーツと甘いクリームを挟んだものも食べた。
「リマは美味しそうに食べるね」
「……ラルクも食べて……?」
美味しくて夢中になって食べていたけど……ラルクはサンドイッチを持ったまま食べていなかった……! 私だけ食いしん坊みたいで、まあ食いしん坊なんだけど……恥ずかしいよ……!
顔に熱を持ち、わたわたとしていると「リマ、これも美味しいよ」と優しい声がしたので、ラルクを見ると、真っ赤なラズベリーが私の口元近くに差し出されていた……!
「リマ、口開けて?」
「……じ、じぶんで食べるっ……!」
真っ赤になり首を横にぶんぶん振ると、ラルクがくすりと笑い、自分でぱくっとラズベリーを食べ、サンドイッチも食べ始めた。……揶揄ってる?
「ラルクのいじわる……」
「リマかわいい」
じとりとラルクを睨むのに、ラルクに頭をよしよしと撫でられる……もうっ、残りのラズベリーは私が全部食べちゃうからねっ! ラズベリーの入った硝子の容器を抱え込んで、ぱくりと口に入れると、甘酸っぱい香りが口に広がった。「美味しいっ……!」と思わず口にすると、「リマかわいい」と甘やかに言われてしまった……。
お腹も満たされ、そろそろ霧吹きをしたミルクも乾いた頃かな……?
「マリィ、お水をかける道具はあるかな?」
「こちらのジョーロをお使い下さい」
「……少し、小さくないかな?」
マリィが手渡してくれたブリキのジョーロは、リマの片手でも簡単に持てる小さな物だ。とても可愛いけど、ププリュの木のミルクを洗い流すのには向いていないと思っていると、「リマ様、違います……」マリィが緩く首を横に振る。
「このジョーロは、移動の魔石を組み込み、エディンリーフ家の井戸水とジョーロを結んでおりますので、水を汲まなくてもずっと水が出ます」
「……そうなの? 魔石ってすごいね! ありがとう」
この世界のジョーロ、いや、魔石は凄い……!
このジョーロの持ち運びは楽だし、好きな場所で好きなだけ、お水をあげることが出来るなんて……!
小春の世界にあったら……と考えてしまうくらい夢のようなジョーロだなと思い、ジョーロを色々な角度から見たり、少し傾けたりしてみる。
マタルさんが、顎に手を置き、少し考える様子を見せる……
「ププリュの木からミルクを洗い流すだけでしょうか?」
「そうです。……何か問題ありますか?」
マタルさんが「いえ……」と穏やかに首を振り、「ミルクを洗い流すだけでしたら、水魔法で出来ますよ」とさらりと言った……! 魔法、便利だね……!
洗い流すのは、マタルさんの水魔法にお願いすることに決め、バトラスがどうなっているのか確認をさせてもらう。
マタルさんに抱き上げて貰い、ププリュの枝を見せてもらう。
「……減ってる!」
全てのバトラスではないけれど、多くのバトラスが窒息してププリュの木から落ちていた。
ミルク霧吹きを何度か行う必要があるだろうけど、小春の世界の方法に効果があることが分かった事が最大の収穫だと思う。マタルさんに下ろして貰い、水魔法をお願いする。
「木が弱っているので、出来るだけ枝を傷つけないで洗い流したいです」
「畏まりました。では、少し下がっていて下さい」
ラルクと一緒にマタルさんの少し後ろに並び立つ。横に並ぶとさらりと手を繋がれてしまい、繋いだ手が熱く感じる。
「 翡 翠 雨 」
マタルさんの手が、海のようなアクアマリンブルーの光に包まれる。ゆっくりとププリュの木に蒼い光が近づき、すぅ……と溶けるように蒼い光が消えていき、さぁ……と青葉に降り注ぐ恵み雨がププリュの木に柔らかに柔らかに降り注いでいる……
「……きれい…………」
小さく呟くと、ラルクがそうだねと言う様に、きゅっと手を握り返してくれる。気持ちが繋がっているみたいで、なんだか、それがすごく嬉しい……いつまでも見ていたくなる柔らかな雨はゆっくりと止み、ププリュの木の上に、小さな虹がかかった……!
「リマ様、これでよろしいでしょうか?」
魔法に見惚れていた私をラルクの手がくいっと引っ張り、「リマ行こう」とマタルさんの元へ連れて行く。マタルさんにまた抱き上げて貰い、ププリュの木のミルクがきちんと落ちているかどうかを確認した。
「今日は本当にありがとうございます」
みんなにお礼を伝え、今日のププリュの木の活動をおしまいにした。
◇ ◇ ◇
「マリィ、風の優しさって何なの?」
自分の部屋に戻り、夜ご飯までお昼寝をした私は「よく寝た……」とすっきりした気持ちでマリィに緩い桃色のワンピースに着替えさせて貰っていた。
ラルクに渡された『風の優しさ』のことを思い出し、マリィに聞いてみた。
「リマ様、風の優しさは……歩く前や立ち始めた幼い子が転んだり、倒れたりした時に、怪我をしないようにするための物です……」
「それって……赤ちゃんだよね……?」
マリィが「まあ……そうですね」と苦笑いをして、ラルクから渡された『風の優しさ』を持って来てくれる。触ると柔らかなガーゼの様な素材で、ふわふわした手触りが気持ちいい。でも、厚みもクッション性もないのに、『風の優しさ』を敷いていても怪我をするんじゃないかな……?
「風の優しさは、風魔法を敷物に組み込んだ魔道具でございます。このガラスのコップを試しに『風の優しさ』の上で落としてみて下さい」
マリィが素早く『風の優しさ』を敷き、「どうぞ」とコップを手渡してくれたのを受け取ったけど……本当に大丈夫かな? と思うと、なかなか落とす勇気が湧かないよ……。ちらりとマリィを見ると、にこにこと「大丈夫ですよ」と微笑んでいるので、思い切ってコップを落としてみた……
床にぶつかる……! と思った瞬間に、ふわっと風を頬に感じ、ぶつかる筈のコップは、ふわりと少し浮かぶと、ゆっくり下りた……
「……あれ? これって……?」
「今日脚立から落ちた時に、マタル様が風魔法を使って下さっております」
「あの時、体が浮いたのマタルさんの魔法だったんだね……! 魔法も魔道具もすごいね!」
「今日は申し訳ありませんでした。……この『風の優しさ』は通常より魔法付与が多いです。落下防止魔法、重量耐性魔法、土汚防止魔法、防水魔法など……この薄さで魔法の重ね掛けの量が多くて驚きました! ラルク様はリマ様を大切に思っていますね」
ラルク……ちょっと過保護なんじゃないかな? と思ったけど、風の優しさの効果が凄いから大切に使おうと思った。
改稿しました◎
本日も読んで頂き、ありがとうございます。
ちょっと変更したところもありますが、分かりやすく読みやすくなっていたらいいな(*´∇`*)















