王子の小さな秘密
僕は、ラルクフレート・ラシャドル。
ラシャドル王国の第二王子だ。数年前に初恋の幼馴染と結婚、愛する奥様と甘くて幸せな毎日を送っている。
そんな僕には、秘密がひとつある——
空が高く、爽やかな空気が澄んだ秋になった。昼の時間が短くなると、リマがそわそわし始める。
そわそわする様子がリスみたいで、とてもかわいい。リスリマを捕まえると、膝抱っこで甘やかす。結婚して数年経っても顔を真っ赤にするリマがかわいい。
膝の上で、ふわふわな髪を梳くと、優しい甘さがふわりと香る。リマの背中を撫でると、頭をこてんと僕に預けて来る。うん、かわいいな。
「ラルク、コスモスが見頃みたいだよ? 今度のお休みに見に行きたいな?」
僕が「いいよ」と告げると、花の咲いたようにふわりと笑った。
◇ ◇ ◇
早起きした朝、草の葉に降りた露が朝日に光る。リマが「空気が美味しいね……」と深呼吸をしている。
王宮の厩舎のある広い馬場。柵の中には数頭の馬が出ている。リマと馬場の柵の近くまで歩いて行くと、厩舎長より先に愛馬のカームが気付き、嬉し気にこちらに歩いて来た。
「気持ちいいね……!」
カームがゆっくり走り始めると、リマが嬉しそうな声をあげ、時折愛おしそうにカームの背を撫でる。こういう素直な反応を毎回する所が、かわいいと思う。
左手をリマの細い腰に回し、右手で手綱を握る。リマと出掛ける時は、カームに指示しなくてもゆっくり走ってくれる。
木立の間隔が広い王宮の森に入る。しばらく森の中を軽快に進み、過ぎ去っていく秋の景色をリマと楽しむ。森を駆け抜けると、リマの大好きな秋桜が咲く丘が見えた。
「何回見ても綺麗だね……」
ふわりと笑う嬉しそうなリマを見て、連れて来て良かったなと思う。ピンクの秋桜を一輪摘み、リマの髪に挿すと秋桜みたいに頬がピンク色に染まる。
ピンク色に染まるリマの頬に手を添え、甘く見つめると、リマの瞳が潤んでいく……リマに触れるだけの口付けを落とすと、「初めての時と一緒……だね」リマが唇を触りながら小さく呟き、ふにゃりと幸せそうに笑う。
◇◇◇
リマが6歳の誕生日を迎える少し前のこと——
ププリュの精霊の使いのスゥが現れ、魔力の泉がエディンリーフ家の庭に出来た頃。
色々な木苺が実り、リマと木苺摘みをした。
季節に関係なく、いつでもリマと木苺摘みをするのは本当に楽しくて、特にこの日は初めて木苺畑が現れた事もあって、2人で夢中になって食べた。甘酸っぱい味は今でも覚えてる……!
「ラルク見て、見て!」
リマが木苺色に染まった真っ赤な舌を伸ばして見せてくれて、僕も木苺色の舌を見せて、笑い合った。リマが木苺の名前を沢山教えてくれて、名前が分からない木苺は2人で植物図鑑を庭で広げて調べた。図鑑を捲るのが気になるスゥが戯れて来て、2人で慌てて止めたんだ。あの時のリマの慌てた顔、可愛かったな。
その後、お腹いっぱいになったリマが、敷物の上で横になったのには驚いた。リマが以前のリマとは違う……! と改めて感じ、余りに気持ち良さそうに青空を見つめ「気持ちいいよ……!」と風を感じている様子に心惹かれた事も覚えている。リマの横にスゥも丸くなり、僕もこの輪に入りたくて、一緒に寝転がり青空を眺めたんだ。
青空がどこまでも広がり、雲がゆっくり流れ、頬に優しく風を感じる……これは気持ちがいいなと思い、横に寝転ぶリマを見ると、寝息をたてて昼寝をしていた……!
思わず笑うと、スゥが顔を上げ、小さく鳴いて抗議して来たので、口を噤んだ。リマの寝顔を見ていると、リマの唇も先程食べた木苺色に染まっている事に気付いた……甘酸っぱい木苺とリマの唇が重なる様な気がして、美味しそうに見えた……
……ちゅ
僕の唇が、微かにリマの唇に触れた……
ほんの少し、リマの唇から甘酸っぱい木苺の香りがしたのを強烈に覚えている……!
ハッと我に返り、自分の薄い唇に触れた。
自分のした事が、どういう事か自覚すると、心臓がバクバクバクと煩い程に音を立て始め、顔もこれ以上ないくらいに熱くなった。「えっ? えっ?」と慌てる僕に、スゥが煩いと小さな抗議の声を上げた。
今、僕がしたのって……!
父上が母上にするのは見た事があるやつ!
熱くなった顔に手を当てて、しばらく動けなかった。
……まだリマに打ち明けていない僕の小さな秘密だ。
「……ク? ラルク? どうしたの……?」
昔の事を思い出していたら、リマが僕を覗き込んでいた……! 「昔のリマの事を思い出してた」とリマの頭を優しく撫でると、頬をピンク色に染めて、はにかむ。
リマは僕の秘密を打ち明けたら、怒るだろうか……? それとも真っ赤な顔をして、許してくれるだろうか……?
僕は、ラルクフレート・ラシャドル。
ラシャドル王国の第二王子だ。数年前に初恋の幼馴染と結婚、愛する奥様と甘くて幸せな毎日を送っている。
僕には、秘密がひとつある。
僕の秘密は、やっぱり僕だけの秘密……
ここはラシャドル王国、精霊達に愛される国、今日もどこかで小さな恋が芽生えているかもしれない——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
「小春の小庭」は本編、番外編、完結です◎
今まで読んで下さった方、本当に本当にありがとうございました(*^_^*)
初めて小春の小庭を書き始めたのは、半年前で、とにかく完結だけを目標に書いて来ました。
最初は数人の方が見てくださればいい方で、ブックマークもずっとゼロの小説でした。
それが10話を過ぎた辺りから本当に少しずつですが、見に来て下さる方もブックマークも付き始めて……初めて感想を頂いた日、異世界の月間恋愛ランキングに載った日は、本当に嬉しくて飛び上がるくらいでした(*´∇`*)
最後の最後に、皆さんにお願いがあります。
完結を迎えた「小春の小庭」に、ぜひ下にある「評価をするボタン」から評価をして頂きたいです……!
どうぞ宜しくお願い致します。
今まで、ありがとうございました(*^_^*)















