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小春の小庭〜転生先でも樹木医を目指します〜  作者: 楠結衣
番外編のはじまり

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執事のお嬢様日記

107話と108話辺りのカイル視点の話です。



 俺は、リマお嬢様の執事のカイル・ミンツェ。

 今日も今日とて、つるぺた(リマお嬢様)関連の報告書に目を通して行く……

 何故、毎日これほど報告書が上がるのか不思議ではあるが、リマお嬢様だからなと納得もしている。コツン、コツン……窓硝子を叩く小さな音に気がつくと、クワとカブが飛んで来ていた。窓を開けて中に入れてやる。



「ねえねえ、カイルはしってる?」

「しってるー?」

「いや、知らないな? クワとカブは何でも知っててすごいな」



 そうでしょ? えっへんと2匹自慢の大鋏と大角を誇らしそうに揺らす。この2匹は、虫の精霊の使いだ。精霊の使いは、気に入った相手に話し掛ける。当然つるぺたにも話しかけているが……つるぺたはまた(・・)精霊の使いだと気付いていない……! リマお嬢様は、面白い。



「リマとよくいっしょにいる子のカーキの実、ふつうとちがうんだって!」

「ね! あまくないんだって! あまくないとおいしくないよね!」

「ハズレの実って事か?」

「そうそう! そんな名前だったよ」

「ねー! あたりの実じゃないんだって」

「クワとカブは、何でも知っててすごいな! 樹液ゼリーとブラシどっちがいいんだ?」

「「どっちもー!」」



 欲張りな2匹にくつくつと笑い、樹液ゼリーを用意する。つるぺたが前世の記憶で作った樹液ゼリーは凄い……! いつでもクワとカブに食餌を用意出来るし、つるぺたの魔力も入っていて、すごく甘くて旨いらしい。

 カブが食べ始めたところを見ると、今日はクワが先にブラシらしい。クワの背中をブラッシングしてやると、「さいっこうー」と大鋏を動かす。2匹が満足して、窓から飛び立ったのを見送った。



 アルベルゴ家のお嬢様の性格ならば、早朝に婚約破棄を伝えに行くだろうな。それだと困るな……リマお嬢様がハズレの実を見れないだろう? ハズレの実を見たいのがリマお嬢様の望みだからな……今回は一芝居打つことにするか……!




 ◇ ◇ ◇




「リマお嬢様、お願いがあるのですが……?」

「カイルがお願いなんて珍しいね? うん、いいよ」



 リマお嬢様……素直過ぎるだろ? 普通、執事がお願いとかしないぞ? 少しは怪しまれるかと思ったが、ここまであっさりだと拍子抜けを通り越して、心配になる。疑え、疑え……。



「これをリックに急ぎで渡して欲しい。今日は馬車で送るから、もしリックに会えなかったら馬車を停めて待つから戻って来てくれ」

「……大切な物なんだ! 分かった、任せてね!」

「ああ……」



 使命感に燃えたつるぺたが、迎えに来た王子様に事情を話し始めた……王子様よ、胡散臭い目でチラチラこちらに視線を送りながら、使命感に燃えるリマお嬢様を愛でるとは、器用過ぎるな。質問されると面倒だと思ったが、やはり愛でる方を取ったな……安定の溺愛っぷりで良かった。



 リマお嬢様と他3名を乗せることを想定して、いつもより大きな馬車を用意してある。

 魔法学校に着くと、「カイル、任せておいてね!」と使命感に燃えたリマお嬢様がゆっくり歩いて、いや、本人としては走っている感覚だろうな……、アルベルゴ家のお嬢様がいるであろう上級生棟へ向かって行くのを目で追った。



 しばらくすると、リマお嬢様と他の3名が慌てた様子で戻って来た……当たりだな! 



「カイル、アルベルゴ家へ向かってくれる?」

「畏まりました」



 予め御者に伝えてあるので、アルベルゴ家へ馬車を走らせる。走り出して少しすると、リマお嬢様が「カイル、リックに渡せなくてごめんなさい……」しょんぼり顔で謝って来た。「気にするな」くつくつ笑って言えば、ほっと安堵の表情をする。こういう所が、つるぺたらしい。こちらこそ、中身のない封筒を頼んで悪かったな? あー王子様よ、執事に焼きもちを妬くのは如何なものか……。

 アルベルゴ家に到着すると、



「フローリアのカーキの木はどこにあるの?」

「こちらよ…」



 リマお嬢様に付き添い、アルベルゴ家の庭へ向かう。日当たりの良い広い庭に、小さなカーキの木と沢山のカーキの実がなっていた。

 見た目は、普通のカーキの実だな……?

 リマお嬢様を見ると、納得のいった顔をして頷いている。さあ、ここからはつるぺたの出番だな。興奮が顔に出ぬ様に冷静さを装うことにしないとな。



 アルベルゴ家のお嬢様がカーキの精霊の使いと恐らく話している……この会話が聞こえていないのは、俺とオーベルジュ家のレイモンド様だろうな。


 しばらくやり取りが続いた後、リマお嬢様が精霊の使いからカーキの実を貰うと、皮のまま食べた……!「……渋い」と口をすぼめて言いながら、目が嬉しそうだ。これはハズレの実で間違いないな、連れて来て良かったと思う。



「これは、渋柿(しぶがき)だよ」



 これ以上ない決め顔のリマお嬢様は、全員から小首を傾げられたが全く気にしていない。ああ、この顔は、食べてもらえばいいかな? だろうな……


 いや、つるぺた、待て待て……その手で人数分のカーキの実は持てないぞ。途中からカーキを預かると「ありがとう!」と嬉しそうに御礼を言われるが、最初から執事にやらせてくれ。皮を剥くための果物ナイフを探し始めるが……自分でやろうとするな! 果物ナイフを見せると、受け取ろうとする……! 違うぞ、ここは執事の俺に命令、それが無理でも頼んで欲しいところだな……果物ナイフを高くに上げると、つるぺたが飛び跳ねる……あーリマお嬢様、王子様の視線が厳しいです。断じて、戯れておりません。



「リマお嬢様は危ないので、使わないで下さいね?どうすればいいのか教えて下さい」

「……ヘタを残して、皮を剥いて欲しいです」



 カーキの実の皮を剥くと、リマお嬢様の魔法で、干し柿(勇者の実)が出来た……!

 その後、現れた花の精霊にまで好かれていたのには、驚いた……確か、クワとカブが「リマはねーいいにおいがするんだよー」と言っていたな。「虫のせいれいさまの、およめさんになったらいいのにー」とも言っていたが、樹液ゼリーで買収した。俺はつるぺた以外に仕えるのは勘弁だからな。


 この一件で、エディンリーフ家にアルベルゴ家とオーベルジュ家から御礼の品が大量に届いたことを伝えても、リマお嬢様は「フローリアとレイモンド様が幸せで良かったよね」と自分がどれだけの事をしたのか理解していなかった……



 やっぱり、リマお嬢様は本当に面白い。



 ◇ ◇ ◇



 俺は、リマお嬢様の執事のカイル・ミンツェ。

 今日も今日とて、つるぺた(リマお嬢様)関連の報告書に目を通して行く……

 コツン、コツン……窓硝子を叩く小さな音に気がつくと、クワとカブが飛んで来ていた。窓を開けて中に入れてやる。



「ねえねえ、カイルはしってる?」

「しってるー?」

「いや、知らないな? クワとカブは何でも知っててすごいな」



 今日も樹液ゼリーとブラシを用意して、クワとカブのつるぺた話を聞くとしよう——

本日も読んで頂き、ありがとうございました!


カイル視点のリクエストを頂いたので、カイルの秘密?を書いてみました。


今日もお疲れ様でした。

穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。


◇◇◇



王太子の表記を王子に直しました。

勉強不足なもので……教えて頂きありがとうございました。



番外編もあと1話、お付き合い頂けたら嬉しいです(*^_^*)

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