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小春の小庭〜転生先でも樹木医を目指します〜  作者: 楠結衣
番外編のはじまり

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133/136

苺を摘みに



「……晴れてる!」



 カーテンの隙間から、春の柔らかく静かな陽射しが降り注ぎ、うらうらとしている。カーテンを開けなくても空の色が分かる気がして、嬉しくて思わず呟いてしまった。



 今日はかわいい弟のアルファードと遊ぶ日なのだ……!



 頭の上から少し寝ぼけた掠れた声で「……おはよ……」「ごめんね、起こしちゃった……?」返事の代わりに腰に回された逞しい腕に引き寄せられると、頭に柔らかな口付けの感触を感じる。「今日はアルと会う日……?」と尋ねられ、こくんと頷く。



 おはようの挨拶を合図に、顔中に優しくて甘やかな口付けが落とされていく……お休みの日や朝早く起きた日は、このまま甘やかに溶けることも多く……いや、ほとんどラルクの甘やかさに溶かされてしまっている……。結婚して数年が経つが、それが嫌じゃないから困ってしまう。好き、は慣れない……。


 でも、今日はアルと会う日だから! 甘やかに溶ける前に、離れなくちゃ……! ラルクの鍛えられた胸板をぐいぐい力いっぱい押すと、くすりと笑いながら力強く捕らわれてしまう。小さな隙間の中で、慌ててラルクの逞しい胸板をぽかぽか叩く……



「アルと約束してるのっ……!」



 くすりと笑う声と、「……残念」と色香の漂う掠れた声で言うと、最後にちゅ……と唇にひとつ音を立てて離れていった。小春の小庭フリューリンクガーデンに向かう準備を整え、移転の間に向かうと、ラルクが背後から私を抱きしめ、肩にこてんと頭を預ける。「予定が早く終わったら、僕も行ってもいい? 僕もアルに会いたいな……?」甘えるような言い方が珍しくて、ラルクもアルに会いたいみたいで嬉しくなる……! 力強く頷くと、腰に回された腕に力が入る。



「デートか……ずるいな」



 …………!



 まさかラルクがそんなにアルの事を可愛がってくれていたなんて……! アル可愛いもんね。青空みたいな髪に、夕焼けみたいな赤い瞳、小さくて可愛くて、本当は毎日アルと遊びたい! でもラルク、任せてね! 



「もしラルクが間に合わなくても、どれだけアルが可愛かったか教えるね!」



 腰に回されたままのラルクの腕をぎゅっと掴み、力強く応えると、ラルクが「ああ……もう……」と言いながら私の首や肩に頭を擦り付けて来て、ふふっ、もうっ、擽ったい……くるりとラルクに回転させられ、頭をぽんぽんと撫でられる。



「リマ、いってらっしゃい」

「ラルクも気をつけてね? いってきます」



 いつものように(・・・・・・・)お出掛け前の口付けを交わし、小春の小庭フリューリンクガーデンへ移転した。



 ◇ ◇ ◇



「りまおねーさま!」



 アルが私を見つけると、たたっと走って来たので、抱きしめて受け止める。アルの青空みたいな手触りの良い髪を撫で、抱き上げる。「アル、おはよう」と夕焼けみたいな瞳を覗き込んで挨拶をすると、おはようと元気に答えてくれた。かわいいな。



「いち、たくさんある? アルはねー、いち、がだいすきなのー!」

「たくさんあるよ! 一緒にイチを摘もうね」

「うん!」



 イチとは、アルが大好きな苺の事だ。

 エディンリーフのお庭では、魔力の泉の影響で、くさ苺、なわしろいちご、ブラックベリー、デューベリーなど沢山の木苺が、宝石みたいに年中実っている。アルもお庭で木苺摘みをするのが大好きなのよと、お母さんから話を聞き、苺も好きだろうな……? とラシャドル王国にない苺の苗があったらな……とカイルに相談したら「あるぞ?」とあっさり見つけて来てくれた……! さすがエスパーカイル!


 アルに苺を届けたら「もっともっと食べたいの……」と言って泣いてしまったのよとお母さんが教えてくれたので、今日はアルと一緒に苺摘みこと、イチ摘みを楽しむ予定なの……! アルが苺のことをイチと言い間違ったままなのは、可愛くて誰も直さないからだ……だって子供(アル)の言い間違いはかわいい。



「こういう赤いイチが美味しいよ。見つけてね?」

「うん! アル、じぶんでみつけるよ!」



 何でも自分でやりたがるアルに、甘い苺がどれかを伝えると、早速自分で見つけると張り切り出した。……かわいい。


 アルが小さな手で苺を摘んでは、小さなお口に入れる。その度に、ふにゃりと笑って「おいしいねー」とほっぺたに小さな手を当てている……かわいくて、ずっと見ていられる……! そんな私を見たアルが、「りまおねーさま、イチないの? アルみつけるね」と私の分まで張り切って摘んでくれる。「はい、どうぞ」と小さな手で私の口元に苺を差し出してくれている。どうやら食べさせてくれるらしい……! かわいくて微笑ましくて、あーんと口を開けると、小さな手で苺を運んでくれる。



「おいしいー?」

「おいひぃよ……!」



 首をこてんと傾げて聞いてくるアルが可愛すぎる。大きな苺を齧ると、じゅわりと甘酸っぱい果汁が溢れそうになり、発音が変になってしまったけど……美味しくて、アルと同じ様に頬に手を当てて、美味しさを表現すると、アルがにっこり嬉しそうに笑う。



「どうぞー」

「どうぞー」

「どうぞー」



 私の反応が気に入ったのか、にこにこ顔のアルが苺を見つけて、自分と私の口に交互に小さな手で運ぶ姿は、本当にかわいい……! 



「アルはねーおなかいっぱい! ごちそうさまー」



 お腹いっぱいになったアルは満足そうににっこり笑う。アルのお腹をよしよししてあげると、見事に苺でぱんぱんだった……! 



「アルのおなか、たぬきさんみたいだね?」

「アル、たぬきさんー?」

「こうやってお腹ぽんぽこってするんだよ」



 こてんと首を傾げたアルに、グーの手でお腹をぽんぽこ打ち、たぬきの真似をすると、きゃはきゃは笑い、「アルもたぬきさんするー」と小さなグーの手でたぬきさんを披露してくれた。……アルの小狸かわいい。


 その後も、お庭でハルジオンの花を風魔法を使って鉄砲の様に飛ばしたり、2人でかけっこやかくれんぼをして遊んだ。

 かくれんぼは、木陰に隠れるアルの顔以外が見えていて可愛くて悶えた……弟よ、可愛すぎるよ。



「あーけんがおちてる!」



 木の枝が剣に見えた様で、アルが枝の剣で戦いごっこを始めようとする。「おねーさまが、まおうだよ!」と勇者アルが剣で立ち向かって来る……!



「アルー、リマをたたいたらダメだよ?」

「ラルクおにーさまだー」

「アルー、剣はね、やっつけるためじゃなくて、だいじな人を守るためにつかうんだよ」

「まもるー?」

「そうだよ。好きな人を守るんだよ」

「すきなひと? じゃあ、アルはねー、りまおねーさまをまもる!」



 いい子だねとラルクがアルを撫で、ひょいっとアルを肩車してあげると、アルが高さにきゃっきゃっ言い出した。「つよくなるための、くんれんを僕としよっか?」とラルクがアルに聞くと「いいよー」と嬉しそう。「リマは少し休んでて? 疲れたでしょう?」アルを肩車したままのラルクに話しかけられ、こくりと頷く。確かに少し疲れたかも……。アルは元気いっぱいだからね。2人はお庭を歩いて行き、枝で戦う訓練を始めたのを見守った。


 バルコニーで昼食を食べていると、沢山遊んで疲れたのか、アルが眠たそうに目を擦り、うつらうつらし始めた……アルを抱っこすると、そのまま眠ってしまった。「アルと沢山遊んでくれて、ありがとう」「どういたしまして」とラルクに甘く微笑まれる……



「リマは、アルとのデート楽しかった?」

「とっても楽しかったよ! 一緒に苺摘みもしたの」

「……僕もデートしたかったな?」

「ラルクは途中からアルと遊んだから、もっと遊びたかったよね!」



 くすりと笑ったラルクが、頬に手を添える……「僕は、リマとデートしたいんだけど……?」黄金色の瞳に甘やかに見つめられる……ゆっくりラルクの顔が近づいて来る…………



「……りまおねーさまは、アルが、まもる……!」



 タイミングよくアルの寝言が聞こえ、2人で顔を見合わせる。「リマの小さな騎士は、すごいね……」ラルクとくすくす笑い合った…………



 



 この後、アルがお腹いっぱいになると、たぬきのぽんぽこ踊りをして、可愛すぎて困っていると、エディンリーフ家から言われるのは数日後のこと——

本日も読んで頂き、ありがとうございました!


誤字脱字報告、本当にありがとうございます。

リクエストで頂いていたリマが弟をお世話するお話しです(*´∇`*)小さな子の言い間違いってかわいいので大好きです。


今日は冬至なので、柚子風呂に入りたいです◎


今日もお疲れ様でした。

穏やかな夜が訪れますように、お休みなさい。

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ヘッダ
新着順① 総合評価順② 短編③ 絵本④ イセコイ⑤ 転生転移⑥ 現実⑦ 商業化⑧
ヘッダ
 

― 新着の感想 ―
[良い点] アルくん、「りまおねーさま」が大好きなんですね!可愛いです! 仲が良さそうな様子にほっこりしました♪ ラルクくんとも仲が良さそうで安心しました。 優しい「おにーさま」で良かったね、アルく…
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