131.甘やかな初めて
「……はぁ」
「……どうしよう」
「……大丈夫かな」
今朝と同じように、私のため息と呟きが繰り返し行われているが、マリィを筆頭に王宮の侍女達は、「大丈夫ですよ」と今朝と同じように微笑みながら手を動かしていく。
今朝は結婚の儀が上手く行くかどうかが心配で、その先の、その……初夜、のことを考える余裕が無かったのだ……! 新婚初夜……それって、つまり、ラルクと、その……結ばれる、のよね……?
「……はぁ」
「……どうしよう」
「……大丈夫かな」
何度目か分からない、ため息と呟きを繰り返す私に、マリィが「殿方に任せればいいのですよ」と新妻の余裕で笑いかけて来る……「マリィはどうだったの……?」と問いかけると、「素敵な思い出ですわ」と余裕たっぷりに微笑まれてしまい、こちらが恥ずかしくなってしまった。私もマリィみたいになれるのかな……?
ひたすら念入りに湯浴みを行い、柔らかな甘さのカモミールの香油を塗り込み、頭から足の先まで、全身をぴかぴかに磨かれた。肩から流した髪は、ラルクの瞳の色の髪紐で軽く結わえ、着心地のいい寝間着を着せて貰い、準備は整った……いや、整ってしまった……かな?
寝室に入ると、ラルクはまだ居なくて……ほっとした様な、残念だった様な……? 無意識に、左手の薬指に嵌る、ラルクの瞳と同じ黄金色の指輪を撫でていると、カーテンの隙間から綺麗なお月様が見えた……! 今日は満月に近いのかな? ラルクの瞳と同じ黄金色の綺麗なお月様に嬉しくなって、カーテンを開け、少し窓も開けると、夜の気配を含んだ春風が頬を撫でていく。
「リマ、体が冷えるよ?」
優しい声に振り向くと、ラルクがいつの間にか部屋に入っていた……! 「何か見えるの?」黒い寝間着を羽織ったラルクが近付いて来て、色香が漂う雰囲気に心臓が煩くなり「……月が、綺麗ですね?」緊張して変な返事をしてしまう。ああ、もう緊張が丸分かりだよ…………。返事が無いので、呆れているのかな? ラルクを見上げると、片手で顔を覆っているのが見えた。直ぐに片手が離され、「星も綺麗ですよ」と真面目な顔で言われ、ラルクも緊張しているのかもと安心した。
「リマ、左手を出して」
ラルクに左手を差し出すと、薬指の指輪をするりと抜かれ、「え……?」と言う暇もなく、新しい指輪と前の指輪をはめてくれた。美しい葉っぱを繋げたような新しい指輪は、以前の指輪と合わせると、黄金色の花が咲いた様になった……! 「すごく素敵……!」感動して、指輪をしている左手をお月様に見せるように高く上げ、月明かりで指輪をキラキラ光らせていると、くすりと笑い声が聞こえた。
「僕には、付けてくれないの?」
指輪の箱に、私のよりひと回り大きな同じデザインの指輪が入っていた……! 「お揃いの指輪なの……?」驚いて聞くと、「結婚したら同じ指輪を左手の薬指にするのに、憧れているんでしょう?」と頭をぽんぽんと撫でられ、言葉が出ずに、こくこくと頷くと、「リマの言ったことを忘れる訳ないでしょう?」と涙の滲む目尻に口付けを落とされる。「ほら、早くつけて?」優しく戯けた声に促され、ラルクの左手の薬指にお揃いの指輪をはめた…………
甘やかな口付けを何度も何度も落とされる。黄金色の髪紐は解かれ、ふわりと優しい甘いカモミールの香りが広がる。ラルクの大きくて男の人を感じさせる手が、ふわふわな髪を梳き撫でていく。ラルクの手がいつもより熱い。
ラルクに何度も「リマかわいい」と囁かれ、恥ずかしくて嬉しくて、肌触りの良いシーツをぎゅっと掴むと、ラルクの手に捕まり口付けを落とされ、首に回すように誘導される。ラルクの爽やかで大人な苦さもあるレモンタイムの香りに、心臓がまた跳ねる。
顔が近付けば、甘やかな黄金色の瞳に、ゆらりと熱を感じ……また甘やかな口付けを交わしていった。何度しても口付けは甘くて、でも物足りなくて、もっと近づきたくて。ぎゅっとしがみ付けば、「リマかわいい」と男の人の力強さで抱きしめてくれる。
甘やかな口付けを交わし、甘やかな言葉を交わし、甘やかな痛みを感じ…………どうしようもない感情を持て余し…………見つめ合い、ゆっくりと口付けを重ねた後に、
「リマ、愛している」
ラルクの言葉が、胸に広がっていく……
私のこの気持ちも……
「ラルク、愛してる……」
優しい黄金色のお月様に見守られ、ラルクと私は甘やかに夜に溶けていった——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
感想や誤字脱字報告、ありがとうございます(*^^*)
リクエストも頂いたので、張り切って書きたいと思います◎
今日の番外編、糖度高めで書けていたらいいなと思っています\(//∇//)\
今日もお疲れ様でした!
穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。















