130.結婚の祝福
「春に雪……だと?」
「雪が降ってる……」
「春風の祝福じゃない……?」
ラシャドルの樹の下にいる人達から、困惑した様子の呟きが耳に聞こえた。ラルクの手がそっと私を包み、その暖かさに励まされる様に、目を凝らす……。雪に見える、白く舞い落ちるものを確認する。
ふっと春風が止むと、ふわりふわりと落ちて来ていた白いものが、ひらりひらりに変わる。舞い落ちる白い雪に見えたものは、花びらだ……!
ひらり、ひらりと私の手のひらに舞い散る花びらが、1枚落ちて来た。
「これって桜……?」
この世界に桜はないのに、どうして……? もしかして、春の杖で、氷の精霊が眠る樹が冬と春を繋ぐ樹に変わる樹は、桜なのかな……? ラルクに「分かったかも……!」と告げると、「リマならきっと出来るよ」と頭をぽんぽんと撫でられ、ふわりと勇気が湧いた。
ふぅ……と深呼吸をして、今度はぐっと春の杖を握りしめると、春の杖をゆっくり振った。
「春風よ来い……」
春の杖が美しい桜色に煌めき、春の杖から桜の吹雪、花吹雪が舞い上がる……
「花の吹雪みたいだ……」
「……綺麗」
「なんて幻想的なんだ」
ラシャドルの樹の下にいた人達からため息が漏れたが、今度は困惑じゃなくて、感嘆のため息だった。
花吹雪が舞い散り、ラシャドルの樹が桜の花吹雪に包まれ、桜色に煌めくと、ラシャドルの樹全体が煌めき、花吹雪がキラキラと春の色に煌めき花びらとラシャドルの樹が消えていく……しばらく春色の煌めきが続いた後、そこに残っていたのはラシャドルの樹ではなくて、桜が満開に咲く若い桜の木だった……!
その美しい桜の木から、すっと現れたのは、雪に愛された様な煌めく銀髪に美しい氷の様な水色の瞳をしている精霊……
「遅い……どれだけ待たせるんだ」
その後も「もう少し遅ければ全てを氷漬けにするところだったぞ」と物騒な事をぶつぶつ呟く精霊に、私達が固まりかけた頃……
「うふふ……素直にありがとうって言えないんだから?」
太陽に愛された様な金髪に、春の爽やかな青空を写した様な碧眼の優しそうな精霊が現れた。途端に、固まりかけた空気が春のような柔らかな空気に包まれる。
「氷の精霊を試練の樹から出してくれて、ありがとう。私は春の精霊よ」
「……私はもう氷の精霊ではない。冬の精霊になったぞ」
「うふふ……そうでしたわね」
冬の精霊が春の精霊の頬をするりと撫でる。先程までの不機嫌さは無くなり、ただただ甘い雰囲気を見ては行けない様な気がして、ラルクに視線を向けると「リマ頑張ったね」とラルクに頭をぽんぽんと撫でられ、その手が私の頬をするりと撫でていき、甘やかな黄金色の瞳に捕らわれる……
「まあまあ! 2人は愛し合っているのね……!」
はしゃいだ春の精霊の声に驚くと、冬の精霊が「我等も2人きりになろう」と愛おしそうに春の精霊の髪を梳きながら、真面目な声で春の精霊に話し掛けているのが目に入る。……誰かこの状況を説明して下さい……! くすくす笑う春の精霊が、今までの事を説明し始める……
氷の精霊と春の精霊は愛し合っていたが、魔力の強すぎる氷の精霊は触れるもの全てを氷に変えてしまうため、2人は触れ合う事が叶わなかった。冬の精霊に進化すれば、触れ合う事が出来ると知った氷の精霊は、冬の精霊になる為に、自ら試練の樹と言われる樹に身を入れ、千年の試練に耐えた。本人が千年の試練に耐えて美しい樹に育つ事、愛する人が待っている事、そして、試練の樹から出してくれる人を見つける事が必要だったらしい。
やっと私を見つけたのに、千年と少し待たせたことを冬の精霊がぶつぶつ言っている……と言うことらしい……。
「千年後に冬の精霊が現れなかったら国が滅びると言うのは……?」
国王陛下の恐る恐ると言った問い掛けに、春の精霊が「待ち切れなかった氷の精霊が、氷の魔力を使って無理矢理出て来るという意味じゃないかしら……?」花の精霊にからかわれただけで、辺り一面を凍らせちゃうんだもの……と付け足しながら、うふふと答える。「……あり得た未来だな」とチラリと冬の精霊を見て頷いた。
「我を出した礼に、何を望む?」
冬の精霊に話し掛けられ、小首を傾げる……別に何も欲しくないんだけどな……? 困ってラルクを見ると、「ラシャドル王国への加護を未来まで望む」と言うのが聞こえ、冬の精霊に「それで良いのか?」と問われたので、「お願いします」と答える。
冬の精霊が「杖をこちらへ」と言い、私は春の杖を差し出す。
「未来まで此の国へ冬の精霊の加護を与える」
春の杖が、晴天の澄んだ空のような鮮やかな青色の天色に輝き、桜の木を包み込むと、桜の木は立派な桜の樹に育った……!
冬の精霊が「この杖にも力を込めた」と言った春の杖は、冬の精霊の瞳と同じ美しい氷の様な水色に変わっていた……! 春の精霊が「まあ……! 素敵な氷の杖ね……。でも、ずるいわ? 私の杖でしたのに……!」ぷいっと春の精霊がするのと、冬の精霊が「いや、その……そういうつもりじゃ……」と慌てだしたのを見て、春の精霊が「うふふ。冗談ですよ?」と言い、氷の杖を手に取る。
「未来まで此の国へ春の精霊の加護を与えます」
氷の杖が、桜色に輝き、氷の杖に桜の模様が浮き上がった……! 「貴方の作るものは、全てが美しいな……」春の精霊の手に口付け、冬の精霊が甘く春の精霊を見つめると、うふふと春の精霊が笑い、私に桜の杖を差し出す。私が受け取っていいのかなと思い、ラルクと国王陛下を交互に見ると、2人とも笑って頷いたので、春の精霊から桜の杖を受け取った。
「冬と春を繋ぐ季節に、この杖を使いなさい。そうすれば、この杖が未来まで此の国に加護を与えるでしょう」
春の精霊が微笑みながら告げると、2人は桜の樹に向かい出したが、ふと春の精霊が足を止め、私の元に戻って来た。「結婚の儀を行なっていたのよね?」とうふふと春の精霊に話し掛けられ、こくんと頷く。
「春の祝福を貴方達へ……」
ラルクと私に桜色の煌めきが纏い、ゆっくりと消えて行った……ラルクを見上げると、ラルクの胸元のブートニアがシロツメ草から桜に変わっていた……! 「リマの花冠も桜になってるよ」ラルクが甘やかな声で教えてくれる。ありがとうと告げると、春の精霊がうふふと微笑み、冬の精霊を見上げると「貴方のお強請りなら喜んで……」冬の精霊が春の精霊へ口付けを落とし、此方に向いた……
「冬の祝福を其方達へ……」
ラルクと私に青の天色の煌めきが纏い、小さな種がゆっくりと落ちて来たので、ラルクと私で受け取る。「其の種を2人で植えるといい。其方達の子孫まで祝福することを誓おう」そう冬の精霊が言うと、春の精霊と冬の精霊はキラキラと煌めき、ゆっくり桜の樹に消えて行った——
どれくらい時間が経っただろうか……? 今、起きたことは夢じゃないだろうか……?
「神官、結婚の儀を続けよう」
その沈黙を破る様に、ラルクが言葉を発すると、神官がはっと気付いたように顔をこちらに向けた。ラルクと私を交互に見つめ、穏やかに微笑みながら……
「春と冬の祝福のもと、此処にラルクフレート・ラシャドルとリマニーナ・エディンリーフの結婚が認められた事を宣誓します」
ラルクが私を抱き締める……甘やかな黄金色の瞳に見つめられる。ラルクの手が頬に添えられ、私はゆっくり目を閉じる……それから甘やかな口付けを重ねた——
おしまい
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
これで「小春の小庭」完結です(*^_^*)
ある夜中、書いてみようと思って、書き始めたのも気づけば半年も前の事……!何とか完結を迎える事が出来ました。
ブックマークや評価、感想を頂いて……本当に感謝でいっぱいです。
本編は完結ですが、番外編を4話書きたいなと思っています。リクエストのお話しを1話頂いたので、張り切って書こうと思っています。あと少しの番外編もお付き合い頂けたら嬉しいです◎
ありがとうございます(*^o^*)















