13.風の魔法
また少し見てくれる方が増えていて、とっても嬉しいです!
ありがとうございます!
ラルクの黄金色の瞳が、いつもより濃く色付き、身に纏う雰囲気も、ひやりと肌を伝っていく冷気を感じた。私は気付けば姿勢を正していた……えっと、ラルク怒ってる……よね?
脚立から落ちて、心配をかけた自覚はあるので、反省はしているけど、私も譲れない想いがある。しっかりと背筋を伸ばしてラルクを見つめ返す。
「ププリュの木がどうなっているのか見ていたの」
……ラルクは黙ったままでいるので、私はもっと背筋を伸ばして言葉を重ねる。
「私が無理を言って、マリィにププリュの枝を見せてもらったの。マリィを怖がらせて、慌てさせてしまったの。いつものマリィなら脚立から落ちたりしないもの」
とにかくマリィは悪くないと伝えなくちゃと思った。この世界では悪くなるのは、私ではなく、マリィになってしまう気がしたから。わがままを言ったのは、私なのだから。話し終えても、ラルクは何も応えてくれなくて……「本当にごめんなさい……」最後は、掠れるような小さな声になってしまった。
「リマ、これからは僕とマタルが来てからププリュを見るようにして欲しい」
ラルクの瞳が真っ直ぐに私を見据え、はっきりと告げる。ラルクが「ふぅ……」と大きく息を吐き、自分の中で折り合いを付けたのか、いつもの穏やかな黄金色に戻っていた。ここで頷けば、きっといつもの優しくて甘やかなラルクになるって分かっていたけど……ラルクが真剣に言ってくれたからこそ、私は適当に頷く事は出来ない、してはいけないと思った。
「……ごめん。それは約束できない……!」
私は首を横に振り、それからラルクの瞳を真っ直ぐに見て答えた。
「……っ!」
ラルクの瞳が驚きで揺らぐのが見えた。
リマが真剣なラルクのお願いを拒否したのは、きっと初めてだと思う。
でも、ラルクに駄目だと言われても、どんなに心配をかけているとしても……今、高い所に自由に登る事が出来ない、ププリュの木を自由に診る事が出来ない状況では困るのだ。
先程、少し診ただけでも、ププリュの木はかなり弱っている……!
アブラムシが原因だと分かったので、のんびりしている時間がないのだ。アブラムシ駆除をする為には、枝や葉っぱを見る必要があり、いつ来るか分からないラルクを待っている時間が勿体ない!
私は、樹木医見習いとしてププリュの木を助けたい!
「私はププリュの木を助けたいの! ププリュの木が弱っている理由が分かったから、何度も枝や葉っぱを見ないとだめなの。ゆっくりしていたらププリュの木は、もっと弱って枯れてしまうかもしれない……。いつ来るか分からないラルクを毎回待っていることは出来ないよ……! 今日は、マリィを驚かせてしまったけど、次から他の人に頼む事や他の安全な方法を考えるようにするよ。だから私はププリュの木を見るつもりだよ」
ラルクの瞳を真っ直ぐに見つめ、私の真剣な気持ちが伝わるようにラルクに話した。ラルクは無言のまま私を見つめ、私も視線を逸らさないで見つめ続けた。
どれくらい見つめ合っていただろう……?
ラルクが「ふぅ……」と再び大きく息を吐いた。
「リマには負けたよ……マタルに風の優しさを届けさせるよ。必ずそれを使って登るようにすること。……いいね?」
ラルクの最後の「……いいね?」は絶対に拒否を許さない圧力を感じて、風の優しさが何か聞けないまま、こくんと頷いてしまった。
マリィが何とも言えない顔で微笑み、マタルさんが肩を震わせている姿が見えた。えっ、待って、そんなに変な物なの? 思わず頷いてしまったけど、取り消し出来たりするかな……?とあわあわしていると「リマ、約束したよね?」とラルクが綺麗に笑い、「安全のために使うものでございますよ。急いで届けましょう」とマタルさんも有無を言わせない雰囲気で、とても取り消してとは言えず、「お願いします……」と言うのが精一杯だった。
安全の為の物だし、変な物ではないよね……?
後でマリィにどんな物なのか聞いてみなくちゃ。
「それでリマ、原因がわかったの?」
「うん! ププリュの枝に付いている虫が原因だと思う」
私は、ププリュのある枝を指差して「この虫がププリュの枝から栄養を取っているのと、枝が重なり過ぎて、太陽の光が足りていないのも良くないの」と説明をすると、マタルさんが先に枝を確認し、その後ラルクを抱き上げて確認を行った。
「これはバトラスですね」
「バトラスという名前なんですね。このバトラスが沢山いる枝と、太陽の光が届いていない枝を切り落としたいので、手伝って欲しいです」
リマは小さな子供だ。
大人に手伝って貰わないと、1本の枝を切ることも出来ないのが、とっても、とってももどかしい……!
マタルさんに手伝って貰えたら本当に助かるのだ。
「リマ様、どの枝を落としたいのか、教えてもらえますか?」
「……はいっ! マタルさん、ありがとうございます! あっ、でも道具が……マリィ、枝切りハサミあるかしら?」
「リマ様、道具はこちらで準備出来ております」
笑顔で頷くマタルさんの手には何も無くて……首を傾げると、ラルクが頭に手をぽんっと置いて、「リマ、マタルは優秀だから大丈夫。ほら、どの枝か教えてあげて?」と言うと、マタルさんの近くまで、手を引いてくれる。
マタルさんに軽々抱き上げて貰い、切る枝と切る枝の位置を説明した。本当は、新芽の出て来た時期に枝を切ることはしないけど、今はププリュの木自体を元気にする必要があるからね!
マタルさんと質問や説明のやり取りを少し行い、マタルさんが頷き、私をそっと下ろす。
「分かりました。では離れていて下さい」
マタルさんはやっぱり手に何も持っていなくて……大丈夫なのかな? と思うけど、ラルクに「リマ、おいで」と手招きされる。
マタルさんは、みんなが自分から離れていることを確認すると……
「 疾 風 刃 」
……乱暴な風が頬を走って行く……
マタルさんの手が、シトリンのような透明な黄色に煌めき、ププリュの木に黄色に煌めく手を向けた。黄色の煌めきが手を離れ、光が勢いよく飛んで行った。ププリュの木にぶつかる! と思ったら煌めきが分かれ、私が切りたいと言った枝に煌めきが当たり、ドサドサっと枝が落ちた……!
「…………すごい」
今のって、魔法……だよね?
ぽかんと驚いて動けないでいる私に「マタルは風魔法が得意なんだよ。さあ行こう?」とラルクが言い、手をするりと繋がれ、ププリュの木まで連れて行ってくれた。
「……マタルさん、ありがとうございます。今の魔法ですよね……? すごいです……!」
「ありがとうございます。このププリュの枝ですがマジー・バトラスもついていますね。魔力を好むので、魔木のププリュにいるのは分かりますが……とても珍しいですね」
……魔力を好むバトラス?
マタルさんが指差したププリュの枝を見る為に、しゃがみ込み、よく診てみる。確かにマジー・バトラスと呼ばれるアブラムシは、普通のアブラムシより少し大きくて色味も濃い。
小春の世界にはない魔力を好む虫もいるのか……と観察を続けていると、マタルさんが「リマ様、切り落としたププリュの枝をこちらで処分しても宜しいでしょうか?……マリィ様も苦手なようですので」と最後の部分は、小声で私にだけ聞こえるように話した。さすが出来る執事さんだなと感心してしまう……!
私は「お願いします」と笑顔でマタルさんにお願いをした。
観察を終えると、マタルさんにお願いして、もう一度抱き上げて貰い、ププリュの木を診る。
ププリュの枝を切った跡に、不自然な穴が開いていないかどうかと、他の枝のバトラスの状況を確認した。次にやることは……と私があれこれ考えている間に、マタルさんが切り落としたププリュの枝を素早く片付け終わっていた。さすがマタルさん……!
「風の優しさを持って参ります」
マタルさんがくすっと笑い、お隣の庭へ戻るのを見送った——
改稿しました◎
読んで頂き、ありがとうございました(*´∇`*)
この話は、改稿が難しくて、うんうん言って直しました。ラルクの怒っている感じが出せていれば、良いなと思います。
今、書いている小説の主人公とリマの年齢が似ているので、お互いが引っ張られないように気をつけています♪(´ε` )















