129.結婚の儀
「……はぁ」
「……どうしよう」
「……大丈夫かな」
私のため息と呟きが繰り返し行われているが、マリィを筆頭に王宮の侍女達は、「大丈夫ですよ」と微笑みながらテキパキと私を着飾って行く。
今日の衣装は、胸下から切り替えがあり、裾に向かってナチュラルなシルエットは、ギリシャ神話の女神をモチーフにしたエンパイアラインの花嫁が着るドレス。真っ白ではなくて、自然光が優しく透けるオフホワイトのジョーゼット素材は、これから行われる「結婚の儀」が王宮のラシャドルの樹の側だからなんだろうな……?
「……はぁ」
何度目か分からないため息を吐く。今日の結婚の儀に、それ以上の意味があると知っているのは、国王陛下や王妃様など限られた人だけだ。だからあんまり暗い顔をしているのは、駄目だと分かってはいる……分かってはいるのだが…………
今日の結婚の儀で使う春の精霊の杖、春の杖で、氷の精霊が眠る樹が冬と春を繋ぐ樹に変わると言われている……もし何も起こらなかったら? 春の精霊や氷の精霊が現れなかったら……?
「リマ様、とっても似合っていますよ」
マリィが私を大きな鏡の前に連れて行き、私のふわふわな髪に、今朝作ったばかりのシロツメ草と四つ葉のクローバーの花冠を乗せると優しく微笑む。「ありがとう……」と頷くと、「リマ様はきっと祝福されますよ」と優しく言われ、ふわりと胸が暖かくなる。
この結婚の儀は、小春の結婚式とは少し違い、ラシャドル王国へ嫁ぐ者が春の精霊から祝福を受ける儀式らしい。春風の儀式の後に咲く野花を枯れないように朝に摘み、花冠にした物を結婚の儀で使う。王妃様は、スミレだったと言っていたな。
野花の花冠を身につけ、ラシャドルの樹の前で、春の杖を使い、祝福を受けると、ラシャドル王国へ嫁ぐ準備が整ったとなり、結婚が成立する……!
「リマ、準備は出来た?」
ラルクが優しい雰囲気の茶色のタキシード、襟先が翼のように前で小さく折り返ったウィングカラーの清潔感のある白シャツ、その胸元には、私の花冠と同じ、シロツメ草と四つ葉のクローバーのブートニアが飾られている……格好いいと見惚れてしまうと、くすりと笑われた。「少し、2人きりにしてもらえる?」ラルクが伝えると、マリィや他の侍女達が部屋から出て行った。
部屋に2人きりになり、ラルクが私をそっと抱きしめると、爽やかで少し男らしい香りに包まれる。「心配なの?」と顔を覗き込まれる……こくんと頷くと、黄金色の瞳に真っ直ぐに見つめられる……
「今日は、リマが僕のお嫁さんになる日だよ」
あっ……! 当たり前の事を忘れていた……ラルクが優しく目を細め、「やっと笑ったね?」と柔らかく笑われた。「冬と春を繋ぐ樹の事は、出来なかったら父上達と考えよう? リマは笑顔で僕と結婚して欲しい……」黄金色の瞳に真っ直ぐに見つめられ、「はい」と笑って答えると、「リマかわいい」とおでこに口付けを落とされる。こつんと、おでこをくっ付けて、ふふっと2人で笑い合う。
ラルクにエスコートされて、王宮のお庭に出ると、若草が茂り、沢山の花が咲き誇り、全てのものが清らかで明るく生き生きしている様に感じる。ラシャドルの樹の周りには、シロツメ草が辺り一面に咲いていて、まるで雲の上を歩いているみたいだなと思ってしまう。
国王陛下や王妃様達が待っているラシャドルの樹の下には祭壇が作られており、そこに神官が立っていた。私達が到着すると、「これより結婚の儀を行います」と宣言した。
「私、ラルクフレート・ラシャドルは、リマニーナ・エディンリーフに対し、生涯変わらぬ愛を誓います」
「私、リマニーナ・エディンリーフは、ラルクフレート・ラシャドルに対し、生涯変わらぬ愛を誓います」
「汝ら、その変わらぬ愛を、春の精霊に誓うか?」
「「誓います」」
誓いの言葉を述べると、祭壇にあった春の杖を神官から手渡され、ラルクと2人で大切に握る……「大丈夫だよ」ラルクが優しく頷く。ラルクから春の杖を受け取り、ラシャドルの樹がある春の空へ掲げる……
「春風の祝福を……!」
春の杖を振ると、春の杖の先がキラキラと煌めき、ふわっと頬に暖かい風を感じた……頬を撫でた春風がラシャドルの樹の葉を戯れるように揺らすのが見える……
ふわり……
ふわり、ふわり……
白いものが、春風と戯れながら、ゆっくり落ちて来た……
……
…………
あれは…………?
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
ちょっと長くなりそうなので、キリの良いところまで投稿します。
今日もお疲れ様でした。
穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。















