128.卒業
萌え出した木々の新芽が、淡い黄緑色の若芽色に溢れ、若々しく彩られたお庭の風景に少しずつ春を感じる。昨日は木の芽起こしと呼ばれる雨が降り、木の芽をふくらませ、芽生えを促していた。植物達が春を告げている。
私は、今日、魔法学校を卒業する——
深みのある美しい暗緑の織部色のチェックワンピース、丸襟のシャツを合わせた、魔法学校の制服にいつもよりゆっくりと袖を通した。今日で最後だと思うと、どうしても愛おしく感じてしまい、ゆっくりになってしまったのだ。マリィに髪を複雑に結い上げて貰い、パールの畏まった髪留めを合わせた。
魔法学校に到着すると、小春の世界で海外の卒業生が着用していた様な、黒いガウンとタッセルの付いた四角帽子を身につけ、講堂へ向かう。ラルクが既に着席しており、ラルクと目が合うと、目を細めて笑い、自分の横の椅子をぽんぽんと叩く動作をする。
「リマ、こっちにおいで」
「ラルクおはよう。今日で卒業なんて実感湧かないね……?」
「うん、本当だね」
ラルクに挨拶しながら隣に座る。
入学式の時もラルクの隣に座ったことを思い出す。あの時は、ラルクの魔法学校の制服姿に、見惚れてしまったんだよね……?
横に座るラルクに視線を送ると、深みのある織部色のチェックのパンツ、清潔感のある白シャツ、濃紺のジャケットの魔法学校の制服……そして、黒いガウンにタッセル付きの四角帽子もすごく似合っていて素敵だなと思う反面、もうこの姿を見る事が出来ないと思うと、すごく寂しくて愛おしい様な…………不意に甘やかな黄金色の瞳と目が合うと、「リマが見たいなら、いつでも着てあげるよ?」くすりと笑い、頬をするりと撫でられる……
「ラルク、そういうのやめろって」
「ああ、チェダか……無粋な真似はするなって言われてなかったか?」
「それは外での話だろ……! 魔法学校は目のやり場に困るだろ? ほら、他の奴らが座れなくて困ってるぞ」
はっと周りを見てみると、……顔を赤らめた人や友達ときゃあきゃあ黄色の歓声をあげる人など、とっても注目されていた様で、恥ずかしい。ラルクは王子だし、格好いいから目立つんだよね……穴があったら入りたいし、穴がないなら掘りたいよ……? チェダに目だけで謝ると、「ラルクだけが目立つわけじゃないんだけどな……」私には聞こえない声で、何かを呟き、やれやれと首を振った。
卒業式が始まり、魔法学校長の話しが終わると、その手から1人ずつ卒業証書の授与が行われる。私とチェダは、優秀賞に選ばれた。ラルクの名前が呼ばれ、壇上に上がる。
「ラルクフレート・ラシャドル卒業おめでとう。そして、本年度卒業生の首席である事をここに表彰する」
ラルクが卒業証書と首席の盾を貰うと、講堂が拍手と歓声で湧き上がり、魔法学校長が頷くのが見えると、ラルクがこちらに顔を向けた。
「4年前、春の陽射しが心地よい日に入学式に出席してからあっという間に月日が流れて行きました。振り返ってみれば色々な出来事があった魔法学校生活でした。沢山の楽しい思い出を胸に、本日私達は卒業をします。最後に魔法学校の先生方、卒業生全員にお礼を申し上げます。みんな、本当にみんなありがとう……!」
ラルクの挨拶に再び拍手と歓声が上がり、ラルクがみんなに手を振り、目が合った私に笑いかける……! きゃあと一際大きな黄色い歓声が上がり、ラルクが隣の席に戻って来た。
卒業式が終わり、ラルクと講堂の外に出ると、卒業生がみんな待っていた。首席の学生が、四角帽子を投げるハットトスの掛け声と風魔法を使うのが、慣習なのだ。「みんな、準備はいいかい?」とラルクが声をあげると、みんなから歓声が上がる…………「じゃあ、いくよ……!」
「3、2、1…… 突 風 ……!」
卒業生全員が一斉に投げた四角帽子が、ラルクの風魔法に乗り、春の青空、蒼天に舞い上がる。タッセルが春の陽射しにキラキラ光り、とても幻想的に見える中、卒業生みんなで笑い合いながらお互いの卒業をお祝いした——
ハットトスが終わると、ラルクに「最後に魔法学校を回ろう?」と言われ、1年生の時のクラスに足を伸ばした。ラルクにあの時みたいに、カーテンにくるくるっと巻かれ、小さな密室でラルクに抱きしめられる。その瞳の甘い蜜が欲しくて、そっと目を閉じると、「リマかわいい」と甘やかな言葉と口付けが落とされた。
剣術所属の朝稽古を見た後に、いつも来ていた木陰に辿り着く。今の季節、桃の花を咲かせてくれる花信風が頬を撫でて行く。ラルクの黄金色の瞳を見つめると、花信風よりも優しく頬に触れられる……黄金色の瞳に吸い寄せられるように、爪先立ちをして背伸びをすると、「リマ、かわいい」くすりと笑ったラルクに、甘やかな言葉と口付けを交わす。
その後も剣術所属の誰も居ない道場、食堂でいつも座っていた席、屋上の隅っこ、クラスの自分の机、上級生棟の階段で同じ背丈になるようにして……思い出のある場所で甘やかな口付けを交わした。
最後に赤い相合い傘に隠れて、甘やかな口付けをした魔法学校の正門で、最後の口付けを交わす。この毎日通った魔法学校正門を一歩外に出ると、私達は、もう魔法学校の生徒じゃない……! ラルクに「リマ、準備はいい?」と聞かれ、こくんと頷く。ラルクとぎゅっと手を握り………
「「せーの」」
ラルクと私は、一緒に魔法学校の正門を飛び越えた……
「「卒業、おめでとう」」
私達は、今日、魔法学校を卒業した——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
師走なのもあり、なかなか更新が出来ずにもどかしいです…m(_ _)m
次が結婚の儀の予定です。
あと少しなので、お付き合い頂けたら嬉しいです!
今日もお疲れ様でした◎
穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。















