122.小春の小庭
その小さな部屋は見覚えがあった……
このアッシュフォード黒大理石みたいな床……エディンリーフ家の別荘で1度入ったことのある「魔法移転の間」にそっくりだなと思う。きっと、いや、絶対この部屋に入ると、魔法陣が金色に浮かび上がる……引き寄せられる様に中に入ろうとすると、
「リマ、念のため安全を確認してから、入るのがいいかな?」
優しい声と腕が私の腰をぐいっと引き寄せ、あっという間にラルクの胸の中に収まっていた……! 声も出せない程の驚きに、ラルクを見上げると、くすりと笑われ、「早く公務が終わったんだ。リマが愛し子の家を見に来ていると聞いて、急いで来たんだよ」と腰に回していないもう片方の手で、頭をぽんぽんと撫でられる。
その手が髪を梳き撫でながら頬に添えられ、甘やかな黄金色の瞳に見つめられる……
「あー……まだ物件を見学中だから続きは後でも……?」
カイルの声に、カイルとピオーネさんが居ることを思い出す……羞恥で顔に熱が集まり、頬に手のひらを当て、熱を冷ましていると、「お2人が仲睦まじいと聞いておりましたが……」とピオーネさんに生暖かい目で見られてしまった。
「安全確認は必要だけど、魔法移転の為の部屋が付いているのは、便利そうだね」
「エディンリーフ家からは遠くありませんが、王宮の別邸から愛し子の家は少し距離がありますからね」
「そうだな。あとは何処を確認するんだ?」
「あとは、バルコニーが残っていますね」
「バルコニーがあるの……! 見てみたい」
魔法移転の部屋に気を取られていたが、ラルクとカイルの会話から同じ部屋に大きなバルコニーがあったことに気付く。ラルクを引っ張る様にして、白い手すりのバルコニーに出ると、柔らかな風が頬を撫で、とても気持ちいい。バルコニーからお庭も見る事が出来るので、お庭を眺めながらお茶をするのもいいな……と顔を上げると、甘やかな黄金色の瞳と目が合った。
「カイルとピオーネは、下で少し打ち合わせするみたいだよ?」
いつの間にかカイルとピオーネさんが居なくなっていた……! 勿論、2人は気を利かせて席を外したのだけど、リマは気付いていない。
「リマを補充してもいい?」
こくんと頷く前に、甘やかな口付けが落とされる。何度も角度を変えて、大人の口付けを交わすと、自分で立っていることが難しくて、ラルクに縋るようになってしまう……
最近のラルクは公務を任される事も増え、忙しくて会うことが出来ていなかったので、久しぶりに会えたことが嬉しくて、自分からなんて、はしたないと思うけど……もっともっと……と口付けをせがんでしまう。「リマかわいい」とくすりと笑われ、ちゅ……最後に優しく音を鳴らし、「今度、別邸でゆっくりしようね?」とラルクの口付けが離れていった……
息が上がったのが落ち着き、ラルクに愛し子の家のお庭を見せると、「リマの庭より、小さくてかわいい庭だね」と頭をぽんぽんと撫でられる。その後、カイルとピオーネさんがいる部屋へ移動をすると、今後の打ち合わせをしていた。
カイルと目が合うと、「思ったより早かったな?」ニヤリと笑われ、あっという間に顔に熱が戻ってしまった……ピオーネさんにも「久しぶりに会ったんだろう?」とパチっとウィンクされてしまった……恥ずかしくてラルクの後ろに隠れると、2人に笑われる。
なんとか気持ちを切り替え、カイルとピオーネさんから今後の流れを聞いた。6歳の時に商業ギルドに仮登録したものを、誕生日後に本登録に変更する。本登録した後に、愛し子の家の契約と回復薬販売を行う契約を商業ギルドと交わすという流れらしい。
「あとはお店の名前だな」
「愛し子の家だから……」
「回復薬の家じゃない名前がいいと思うぞ?」
「…………!」
エスパーカイルに思い付いた名前を当てられて、どうしようかな……? と悩んで、ラルクを見上げると、「僕が決めてもいい?」と髪を梳き撫でながら聞かれ、こくんと頷くと……「そうだな……」と少し考え、
「小春の小庭はどうかな……?」
………!
「ラルク……! 素敵な名前だね……ありがとう」
嬉しくて思わずラルクに抱き着くと、ラルクが少し驚いた顔を見せた……黄金色の瞳を少し細め、私の頭をぽんぽんと撫でる。「ありがとう……」ともう一度、ラルクを見上げてお礼を言うと、ラルクの手が髪を梳き撫でながら頬に添えられた……蜂蜜のように甘やかな瞳に見つめられる……
「あー……後ろ向いた方がいいか? それとも看板の注文に向かってもいいか?」
「カイル、黙って後ろを向くものだろ?」
「カイル、看板のお店に行こう!」
お店の名前が「小春の小庭」に決まり、真っ赤な顔の私は、看板のお店へ向かうことになった——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
少し短めですが、キリが良いかな?
糖度欲しくなりました……もっとイチャイチャした話しも入れたい……!
今日もお疲れさまでした。
穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。















