116.王子のお姫様
〜葉っぱがゆれる〜ゆらゆら揺れる〜風さんとなかよし〜私となかよし〜
〜きらきら光る〜きらきら揺れる〜どこまで飛んでいく〜
かわいいリマが、かわいい歌を口ずさみながら歩いている。リマはよく歌を口ずさむ。僕はその柔らかな声も幸せそうな横顔も見るのが好きだ。これはリマの創作曲か小春の世界の歌か、どっちかなと思いながら、結婚の儀式までの憂いがなくなったのもあり、とても幸せな気持ちで、一緒に王宮の銀杏並木を歩く。
◇ ◇ ◇
夏のはじまり、花の精霊に恋の相談に乗るよと言った後、
「ひひひひ、火のせせ、せいれい?な、ななんのこと?」
分かりやすく慌てた花の精霊がバチン!と大きな音を立てて消えた。
「やっぱりあの竜が、火の精霊で間違いないな」
「そうでございますね」
精霊の使いの噂を纏めると、花の精霊は、火の精霊の髪の毛にそっくりな魔力百合を丘に集め、火の精霊に待っていると告げた。火の精霊は、ザクロの紅色が自分の瞳みたいだと言われたことがあり、お互い違う場所で数百年待っていた。数百年の間、他の精霊達が勘違いを伝えても、意地を張った2人は違う場所で待ち続ける内に、花の精霊は火の精霊が現れない哀しみから魔力百合になりかけ、火の精霊は花の精霊が現れない怒りから竜になってしまったという。
花の精霊がそのまま魔力百合にならなかったのは、竜がザクロ谷のザクロを、火の精霊の瞳にそっくりなザクロを焼き尽くそうとしているのを聞き、止めに向かった為だった。
魔力百合になりかけていた花の精霊は、竜が火の精霊だと知らず、火の精霊の瞳にそっくりなザクロを焼き尽くそうとする竜を倒しに来た人間に力を貸したのだ。
幸いなことに、竜は倒れたが、死ぬことはなかった。
その後、他の精霊に竜が火の精霊だと聞いた花の精霊は、記憶がなくなると完全に竜になる火の精霊に、謝ることも出来ないまま、数百年を過ごしているらしい。
「さっさと謝ればいいのに」
思わず本音を零すと、リマの向日葵が目に入る。今日のリマの可愛さを思い出し、はぁ……としゃがみ込む……
今日のリマは積極的だった……いつもは横抱きも恥ずかしがるのに、自分から正面抱きの位置にやって来た……あの位置は色々と刺激が強い……リマの香りも、首に回される細い腕も、口付けに跳ねる動きも、吐息も、くびれた細い腰も、柔らかな膨らみの感触も…………
「 氷 水 」
あっと思う間もなく、バッシャンと凍えそうな冷水が頭から浴びせられた……はっと立ち上がり振り向く頃には、赤い光が包み込み、洋服も髪の1本も濡れていない……犯人であろうマタルをじろりと睨む。
「熱でお困りかと思いまして」
「………」
「そろそろ、陛下と王妃、ハルト様との約束の時間でございますよ」
「………支度して向かうよ」
マタルが居たことを忘れていた……
引いた熱にほっとしつつ、再び熱を持たない様に、向日葵を見ないで後にした。
◇ ◇ ◇
「これ使うと落ち着くの」
「花の精霊に渡したら竜が寝ちゃったみたい」
さらっと凄い事を言うリマに驚いた。
火の精霊の竜が眠る程の威力を持つラベンダースプレーは、直ぐに王宮騎士団へと渡り、魔物討伐で採用されている。リマのラベンダーの効果もあり、火の精霊も戻りつつあると花の精霊が喜んでいた。
作ったリマは、ラルクも使うかな?と言って、ひと吹き試してくれた。甘いラベンダーの香りが広がると、早速効果が出たのか、リラックスした様子で、リマがこてんと頭を預けて来る。
「大好きなの」
「ラルクの手も声も、本当はみんなみんな独り占めしたいの」
「ラルクに触られると、すごくドキドキして、この辺がきゅうってして、火照って変なの……」
ああ……リマ、これ絶対違う効果もあるよ?何を思って作ったの?
ああ……今日このまま帰せるかな……
◇ ◇ ◇
「お義母様に美肌水を渡したらすごく喜んでくれたの」
リマが作った美肌水は凄い……
使うと美肌になるのがあっという間に噂になり、リマ印の美肌水として、ラシャドル王国で大流行をしている。アミーが可愛くなったか?とチェダが言っていたのを思い出す。
作ったリマは、つるつるして気持ちがいいからラルクも使う?と呑気なものだ。
「試していい?」
「これがラルクの分ね」
美肌水の瓶を持つリマの手を無視して、リマの頬に触れる。
ああ…これは気持ちが良くて、手が離せなくなる。するりするりと頬やまぶた、首すじを撫でると、とろんと甘やかな瞳と目が合う。それに気付かない振りをして、するりするりと触り心地を楽しんでいると、リマがいじわる……と小さく零す。
「リマかわいい」
優しく見つめると、嬉しそうに目を閉じるので、甘い口付けを落とした。
◇ ◇ ◇
秋の日、魔力百合を花の精霊と一緒に見た火の精霊が精霊に戻れたらしい。
これで、ラシャドル王国の精霊の守りも強化され、魔物も減る筈だ。リマの憂いも減ったみたい。
「火の精霊は美人だからねー王子さまが好きになったらリマが可哀相だから会わせないよー」
「リマ以外に興味はない」
「リマには感謝してるんだー王子さまがきっかけだったしさー2人には幸せになって欲しいんだー」
「はいはい、良かったな」
火の精霊に会ったリマ曰く、魔力百合みたいな髪型で、ザクロの実みたいなルビー色の瞳のスラリとしたスレンダーな美人さんだったらしい。
胸の大きな子が良いって言ってなかったか?全く素直じゃないやつ。しばらく2人で魔力百合の丘で過ごして、数百年分の時間を取り戻すそうだ。
◇ ◇ ◇
かわいい歌を口ずさむのを止めたリマに聞いていなかった事を質問する。
「どうして火の魔法適性を上げて貰ったの?」
まだ精霊に戻ったばかりの火の精霊は、加護を与える事が出来ないが、リマが望んだ火の魔法適性をあげるのは元々が上級適性だから出来たらしい。
けれど、火の上級魔法は、王宮魔導士など攻撃に使う魔法が多く、リマにはあまり必要がないのだ。
「……火花の魔法、一緒に使いたいの……だめ?」
「楽しみにしてる」
第二王子の僕と結婚しても、火花の魔法を使えるのは結婚の儀式を行った年にする、たった1度のお披露目だけだ。たった1度の為に……。
ああ……かわいい。
恥ずかしくなったリマが少し先に走っていった。リマがひらひら舞う落ち葉を掴もうと、くるくる踊る様に舞っている。銀杏の黄色に光が煌めき、まるで絵画のようだ。それにしても、リマがひらひら舞う落ち葉を捕まえるのは、難しそうだ。ほんの少し、風魔法を操り、リマの手の平に落ち葉を落とす。
「ラルク、見て!捕まえたの」
銀杏の葉っぱを僕に見せて笑うリマの愛らしさに目を細める。葉っぱと楽しそうに踊るリマに少しあてられたみたいだ。
リマの葉っぱを持つ手を握るように、膝をついた。リマの細い手首を持ち、口付けし、見上げる。
「僕と踊って頂けませんか?」
紅葉したみたいに真っ赤に色づいたリマと、煌めく葉っぱと一緒に踊るのは、この口付けのあと——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
誤字脱字の訂正ありがとうございます(*^^*)
嬉しいです♫
これで花の精霊編は終わりです。
次から4年生編に入りたいと思います。
今日もお疲れ様でした◎
穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。















