112.贈り物
——またパチンと音が鳴る……
「リーマー!当たりの実、貰いに来たよー」
「精霊さまーまた来てくれて嬉しいー!リマとたくさん作ったのー」
「おーえらいえらい」
花の精霊が、カーキの精霊の使いの頭をいいこいいこしているのが見える——
花の精霊が我が家の庭に当たりの実を貰いに来るのも、日常の光景になった。
少し前、パチンと音が鳴り、花の精霊が現れた……
「これ植えてくれるー?」
「わあ、立派なカーキの種!カーキの木を育てるの?」
「分かるー?当たりの実の木にぴったりの種なんだー」
花の精霊に選ばれたカーキの種を植えると、あっという間に私の背丈くらいに育った。当たりの実の精霊の使いは、毛並みが菜の花みたいな黄色、ミントグリーンのくりくりな目で、花の精霊を思わせる色味のたぬきさん。
「リマーこのコの名前つけたのー?」
「うん!たぬ吉って言うよ」
「………へー」
当たりの実の木に、青いカーキの実がなり始めた頃、花の精霊に質問された。
「リマはさー、氷の精霊と春の精霊はいつ戻すのー?」
「……ラルクと……その…結婚するときに…………」
「ふーん」
氷の精霊と春の精霊の加護がある私は、2人をこの世界に戻す手伝いが出来る……らしい。でも、その方法は、王族と結婚する時に、春の精霊の「春の杖」を使う儀式に関係があり、魔法学校を卒業するまでは、氷の精霊と春の精霊はこの世界に戻すことは出来ないとラルクが言っていた。
たぬ吉は、花の精霊の加護が強く、カーキの木を離れることが出来る。我が家の庭で、スゥやリュウ、カブとクワとよく遊んでいる姿はすごく愛らしい。
当たりの実が橙色に色づいて来た頃、花の精霊に質問された。
「リマーなんであの王子さまなのー?」
「………好きだから」
「ふーん、もうひとりの王子様だったらさーもう結婚出来るのにねー」
「え?」
「えーだって、結婚の儀式で、氷の精霊と春の精霊を戻せるんでしょー?あの王子さまより格好いいしー精霊の護りも増えるのにー」
「…………」
たぬ吉と大きく育ったカーキの実を収穫する。干し柿を作り終わる頃、花の精霊がパチンと音を鳴らし現れた。
「リマー当たりの実、もらっていくねー」
「こんなに沢山食べるの?」
「えー僕も食べるけどさー他の精霊にも食べてもらって、みんなで護りを強くするんだよー」
「……そうなの?」
「そうだよーリマが結婚の儀式をするまで、氷の精霊と春の精霊がいないからねーだからリマは当たりの実をどんどん作ってねー」
「…………分かった」
花の精霊が、たぬ吉の頭をいいこいいこしているカーキの木へ向かう。
最初は、花の精霊に言われた事で落ち込んだけど………
「風の精霊にあげたら喜ばれちゃったー」
「木の実の精霊におねだりされたー」
「また違う精霊に贈るんですか?」
「わートゲのある言い方だー!妬いてるのー?リマったらかーわいー」
「ちがいま……」
またパチンと音が鳴る…
パッと目の前に、美青年の花の精霊の顔があり、咄嗟に両手で口を押さえる。花の精霊が、頭に手を添えたので、思わず目をぎゅっと瞑る。
「まったく、何遊んでるんだ?」
パッと目を開けると、カイルが花の精霊の手をパシっと弾くのが目に入る。カイルが花の精霊との間に入ってくれて、ホッと息を吐く。
「えーふつう、精霊に手をあげるー?」
「くっくっ、こいつの執事ですので」
「まあいいやー、当たりの実できたー?」
「ほら、包装しておいたぞ。今回は3つだろ?分けておいたぞ」
「さっすがカイルー!気が効くよね」
「まあな」
「リマもまたねー」
花の精霊がカイルからにっこり干し柿を受け取ると、パチンと音が鳴り、去って行った……
ラルクと結婚したいけど、ラシャドル王国の護りが弱くなって魔物が増えるのは嫌だし……なにか私に出来ることがあればいいのにな……はぁ…とため息が溢れる。
「ほら、そろそろ行くぞ」
「カイルありがとう」
「お前、考え事に向いてないから考えるのやめた方がいいぞ」
カイルがニヤリと笑い、私の眉間の皺を伸ばす。エスパーカイル……!
カイルと王宮の話し合いの結果、王宮魔導士団と王宮騎士団に、たんぽぽ珈琲の回復薬と勇者の実を納品する事に決まった。
カイルが王宮に直接届ける事にしたと言っていたので、週末はカイルと王宮に向かうのだ。
◇ ◇ ◇
「リマ、こっちにおいで?」
今日のお妃教育を終え、ラルクの別邸に遊びに来た。ダンスも少しは上達したかな?乗馬もやりたいなとラルクに言ったら、何故か2人乗りの練習をすることになった……リマがひとり乗りすると、生きた心地がしないと言うからだ……むぅと睨むと、リマかわいいとおでこに口付けが降って来た……
初夏になり、少し歩くと汗ばむ。陽射しが葉っぱと遊び、キラキラと眩しいくらいの中、ラルクに手を繋がれて、別邸の庭に向かう。ラルクの手はゴツゴツした男の人の手になり、手を繋ぐと大きな手に包まれるみたいで、ドキドキする。見上げると喉仏が見え、男らしくてドキンと心臓が跳ねる。
くすりと笑われ、案内された先に……
大きな向日葵が一輪咲いていた。
私の背の高さくらいの大輪の向日葵は、太陽に向かって、真っ直ぐに笑うように咲いている。
「わあ、立派な向日葵だね」
「今日、咲いたんだ。リマの誕生日に少し早いけど、リマに贈りたくて、僕が育てたんだよ?」
「ラルクが育てた向日葵なの?」
ラルクが少し照れた様に笑った顔に、胸がきゅうと甘く締めつけられる……ラルクにぎゅっと抱き着く。
私の為に、育ててくれたことが嬉しくて、頬が緩むのが分かる。
ラルクを見上げると、黄金色の瞳が甘く、つま先を上げると、目を細めたラルクの顔が近づき、ちゅっと口付けをする。
「ありがとう……とっても嬉しい」
「どういたしまして」
ラルクの黄金色の瞳が甘く近づくので、瞳を閉じると、甘い口付けを何度も落とされる。角度を変え、落とされる口付けがどんどん甘やかさを増し、立つのがやっとになる頃……
「部屋でゆっくりしよう?」
ラルクの言葉にこくんと頷くと、ラルクに横抱きにされる。首にぎゅっと捕まれば、リマかわいいとおでこに口付けを落とされる。
最近、お妃教育の疲れもあるのか、ラルクの別邸で気付くと昼寝をしてしまう事も多い……起きるとベッドの上でラルクに、腕まくらをされている……全然慣れなくて、起きた途端に、顔に熱が集まるのがお約束になっている…
「リマ、おはよう」
「……おはよう…」
頬に熱を持った顔に、手のひらを当て、熱を逃がそうと思うけど、手も同じくらい熱い……
くすりと笑われ、おでこに口付けを落とされる。
ラルクの腕が腰に回され、ラルクと甘やかに見つめ合い、微笑み合う、甘やかで幸せな時間……
カイルのお迎えが来るまで、あと少し——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
ちょっと煮詰まっています(´-`).。oO
次はラルク視点で書いて、分かりやすくなるといいなと思っています。ただただ糖分だけになったらごめんなさい。
今日も頑張りましょう◎















