111.蜂蜜屋の娘
ゾロ目だ!
ルッツも正式な植物所属員になり、梅雨も明け、夏休みの足音が聞こえる頃——
「やっぱり今年もアカシアの蜂蜜は難しいですのね」
「そうなの、アカシアの花が咲く辺りに魔物が多く出ていて、父も蜜蜂を放さないみたいなの」
「アカシアの蜂蜜、アルベルゴ家の宿場でも人気ですのに、でも、魔物が出るんじゃ仕方ありませんわね」
「今年は、ザクロの谷の竜も元気で、ザクロ蜂蜜も期待出来ないのよね」
「まあ、ザクロ蜂蜜もですの?竜も食べないなら退いてくれたらいいですのに」
「本当よね」
今日は植物所属の活動が早く終わり、アミーの家にフローリアとルッツの3人で遊びに来ている。
魔物が国境付近によく出る様になり、アミーの実家のミエーレ蜂蜜屋さんは養蜂する先に支障が少しずつ出ているらしい…と言っても、ラシャドル王国は広いので他の花などで対応し、蜂蜜の生産量自体は変わらないみたいだけど。
ラシャドル王国のザクロは、ザクロの谷でのみ育つ。ザクロの実を蜂蜜に漬けた物が、美容や健康にとても効き、ミエーレ蜂蜜屋さんの人気商品のひとつなのだが、ザクロの谷に竜が住んでおり、ザクロを採ることが難しい。
ザクロの谷の竜は、ザクロを採ろうとする者を嫌い、ザクロを守るように容赦無く退けるのだが、ザクロの実がなると今度は狂った様にザクロの実を叩き落とす。何がしたいのかさっぱり分からない竜なのだ。
「ねえねえ、リマお姉ちゃん、まだー?俺、お腹空いちゃったよー」
「ルッツは食いしん坊だね?一緒に手伝ってくれる?」
アミーがこの前、蜂蜜をたくさん使ってくれる食べ物があったらいいのになと言っていたので、今日はみんなに試食してもらうことにしたのだ。
「まず、この薄力粉をふるいでふるうよ」
「こう?」
「うん、ルッツ上手だね。次に、薄力粉を入れたボウルに砂糖を入れるよ」
「これでいい?」
「うん、ありがとう。あと、ベーキングパウダーと塩を入れて、よく混ぜてね」
「上手に出来た?」
子犬みたいな顔でルッツの海みたいな深い蒼い目に見上げられると、かわいくて頬が緩む。よしよし、と頭を撫でると、ぎゅーと抱きつかれる。かわいい弟なんだよね。
「もうっ、リマったら!ルッツはみんなの弟ですのよ!」
「えへへ、つい可愛くて」
「フローリアお姉ちゃんも大好きだよ」
「もうっ、ルッツったら」
ルッツの可愛い人懐こさに植物所属員の女の子達は母性本能をくすぐられてしまっている。フローリアはルッツをすごく気に入っているみたいで、今日の試食会にルッツを誘ったのもフローリアだ。勿論、反対はしていないけどね。
今もフローリアに抱き着くルッツの頭を撫でている。ルッツの青い髪は柔らかくて、手触りがとても良い。
「それでリマ、あとはどうするんですの?」
「あとは、これに卵を入れて、よく混ぜて、次に牛乳を入れて混ぜて、焼けば完成だよ」
「簡単ですわね」
「うん!簡単で美味しくて、大好きなの」
その後もルッツにぐるぐる混ぜてもらい、アミーにフライパンを借りて焼いていく。
もったりとした生地を、おたまでひとすくい入れる。白い生地の表面にぷつ、ぷつ、と空気の穴が出来るのを待つ、フライ返しで裏をみる、まあだだ、もう少し焼いて、もういいよ、裏返して、生地が膨れるのを待つ。
あっという間に……
美味しいホットケーキの出来上がり!
「私も焼いてみたいですわ」
フローリアのひと言をきっかけに、自分の分はそれぞれで焼くことになった。家庭科の時間みたいに、わいわい言いながら焼いていく。
アミーはお家のお手伝いをしていると言っていたので、美味しそうなキツネ色に焼けた。
ルッツとフローリアは………うん、ちょっと、濃い目のキツネ色になったけど、黒くないから、大丈夫だよ、きっと。
フローリアは、フライパンを持つのも初めてだと言い、驚いた。アルベルゴ家のお嬢様ってすごいねと言うと、リマはエディンリーフ家なのに、……と何故かため息をつかれてしまった。
お皿に熱々のホットケーキを乗せ、甘い蜂蜜をたっぷりかけて、バターを乗せる。とろりとバターが溶け出す。みんながぱくりとひと口食べるのを見る。
「美味しいですわね」
「リマお姉ちゃん、これ大好きだよ」
「蜂蜜とバターがとっても合うね」
みんなが美味しいと言ってくれて、ほっとする。私も切り分け、ぱくりとひと口食べる。ミエーレ蜂蜜屋さんの蜂蜜は花の香りがする甘い蜂蜜なので、バターととっても合う。
「お店で出すなら、好みの蜂蜜を選んでかけてもらったらいいかなと思うよ」
アミーの蜂蜜屋さんでホットケーキが売り出され、行列が出来るようになるのは、もうすぐのこと——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
ばば抜きをしました。
毎回配られるカードにババが入っていて、ババ運が凄かったです。
本日もお疲れ様でした◎















