109.山の宝石
「リマお姉ちゃん、これはどれなの?」
「それはね、この植物図鑑に書いてあるよ」
「あ、これのこと?」
「よく分かったね」
「すごい?すごい?」
「うんうん、すごいよー」
「やったーなでなでして?」
「仕方ないな…よしよし、すごいよ」
「リマお姉ちゃん、大好きー」
この春、3年生に進級しました。
またラルクとクラスは離れてしまったけど、アミーとエイミと同じBクラスなので、とっても楽しい。ラルクとチェダとフローリアも同じAクラスなので、そちらも楽しそう。
そして、私に可愛い弟が出来ました!
と言っても、本物の弟じゃなくて、アユーラの里で遊んだルッツが新入生として入学して来たの。
最初に会った時は、あの小さな可愛いルッツと同じだと気付かなくて、リマお姉ちゃーんと抱き着かれた時は、本当に驚いたけど…!
ルッツは、植物所属に入りたいけど、筆記試験が難しいみたいでなかなか合格出来ない。
「リマお姉ちゃん、勉強教えてもらえない?」
ルッツに海の様な深い蒼い目でおねだりされて、可愛すぎて悶絶したのは内緒。
私の植物活動をしない朝に、こうやって2人で教えてるんだけど、ルッツは弟なのもあって、とっても甘えんぼうさんなんだよね。
問題が出来たり、分かったりすると、なでなでしてよーと可愛くおねだりされたり、難しくて悩むと、私にぎゅーと抱きついて、わかんないよーと甘えたり……弟が出来たみたいで、とっても可愛い。
「ルッツ、そろそろ授業が始まるからここまでね?」
「リマお姉ちゃん、ありがとう」
ぎゅーと抱きついて来るルッツに、ちょっと苦笑いしつつ、遅れちゃうよ?と促すと、リマお姉ちゃん良い匂いがするーと更にぎゅうぎゅう抱き着かれてしまう。もうっ困った弟だっ。
「はーい、リマから離れてねー」
コーフボールの朝練を終えたエイミがルッツを引き離すと、ルッツは渋々下級生棟に戻って行った。
今度はエイミにぎゅーと抱きつかれる。エイミもいつも抱きついて来るので、私もぎゅうと抱きしめる。
「エイミ姉さんはリマが心配」
「おはよう、エイミ!なにが心配なの?」
「そういうとこ!」
……エイミはお姉さんかな?抱きついて来るから妹っぽい感じなんだけどな?身長はエイミが高いけどね。
抱きしめたまま小首を傾げていると、植物の朝の水やりを終えて戻って来たアミーにくすくすと笑われてしまった。
「アミー、おはよう」
「リマ、エイミ、おはよう。放課後の植物活動は、リマが前から楽しみにしてた宝石の味見するって言ってたよ」
「ほんとう?楽しみ!」
あっという間に放課後になり、アミーと植物活動に向かう。
今日は楽しみにしていた「山の宝石」や「果実のルビー」と言われる『山桃』のちょっと早い味見の会が活動なの。
初夏の山で熟れる真っ赤な山桃の実は「山の宝石」や「果実のルビー」と呼ばれている。甘酸っぱさと深々とした香りが特徴で、旬は梅雨の時季のほんのつかの間。果実が雨に濡れると水っぽく美味しくなくなるので、熟した果実が出来ると、みんなでちょこちょこ味見の会を開き、食べている。
今日は今年最初の味見の会なのだ。
植物所属員が数粒ずつ収穫して、みんなでパクリとするのが楽しい時間。
「ん〜甘酸っぱくて美味しいね」
「本当ですわね、この季節だけですものね」
「うんうん」
フローリア達と今年も山桃に舌鼓を打つ。山桃は収穫すると傷みやすく、ラシャドル王国では殆ど出回る事はない。植物所属員で良かったなと思う、果実のひとつなの。
「リマ、今日も剣術所属に行かなかったですわね?」
「フローリア、なんで知ってるの?」
「Aクラスの者は、全員知ってますわ」
「………?」
「なあリマ、ルッツに勉強教えてどれくらい経つ?」
「2ヶ月くらいかな?でもルッツ、頑張ってるからあと少しなんだよね!いつも78点ですっごく惜しいの」
そうなのだ。ルッツはいつも78点であと2点で合格なのに、最後の最後で間違えて、合格出来ないんだよね。合格出来たらこの山桃も一緒に摘んだり、食べたり出来るのに………もったいない。
「いつも78点っておかしいだろ」
「黒ですわ、黒」
「だな…まあリマは弟みたいに思ってるんだろ」
「チェダ、弟と弟みたいは、全然違いますわ」
「だな…っていうか、俺はAクラスが凍えそうになってるからどうにかしたい」
「私もですわ。春なのに羽織りものや膝掛けが必要ですもの」
「だな。俺なんて、家にも氷の王子が来るんだぞ」
「それは大変ですわね」
「だろ?剣術所属員の奴らにも道場が凍えそうだし、氷の王子の剣から吹雪が出るから助けてくれって言われてるんだよ」
「私も春の訪れのために力を貸しますわ」
「じゃあ作戦会議開くぞ」
「望むところですわ」
考え事をしている内に、フローリアのぷんぷんが収まっていた替わりに、フローリアの迫力ある笑顔とチェダの悪そうな笑顔が目の前にある。
あれ?いつの間に…?
「リマ、今日の植物活動は、もう終わった様なものですもの、剣術所属に行ってらっしゃい」
「え?でも今日はフローリアと買い物に行く約束だったでしょう?」
「ごめんなさい、リマ。私は、大事な用事が出来ましたの」
「そうなんだ?」
「だからラルク様と一緒に帰るといいですわ?ほら、私の分の山桃もあげますわ」
「俺のもやるよ、ラルクと食べてくれ」
ラルクも山桃好きかな?
ラルクの事を考えると、ふにゃりと頬が緩むのを感じた……
王宮でしかゆっくり会えてないから久しぶりにゆっくり会うの嬉しいな……
頷きあうチェダとフローリアに山桃を小さなカゴに入れて渡して貰うと、2人にぐいぐい押される様に、剣術所属に向かうことになった——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
ルッツはいつか出したいなと思っていた子です。
波風立つような立たないような……どうなるのかな?ここから先は殆ど考えてなくて……あと2年間、どうなるのか自分でもわくわくです(´∀`*)行き当たりバッタリですみません。
引き続き、暖かく見守って頂けると嬉しいです◎
今日もお疲れ様でした◎
穏やかな夜が訪れますように。お休みなさい。















