107.婚約破棄
「婚約破棄………?」
涙を零さない様に凛とした顔で婚約破棄を迫る女と、目を見開く驚愕した男の姿が目に入る。
フローリアとレイモンド様だ………
私とラルクは顔を見合わせ、話し掛ける事も出来ないまま、上級生棟の教室で話す2人を見ている。
今日はカイルが登校して直ぐにリックに渡して欲しいと頼まれた物があり、先に上級生棟に来たのだ。とても大切な物らしく、万が一、リックに会えない時は、正門に馬車を停めて待っているから戻って来て欲しいと言われていた。
「……リア、理由を聞かせて、貰えないか…?」
「……私の力不足です…レイモンド様は何も悪くありません……」
「リア……?」
レイモンド様がフローリアの側に行くが、フローリアは避ける様に離れる。
「私はレイモンド様のお隣に立つ資格がありませんわ……」
「資格…?」
「……ハズレの実……でしたの…」
「まさか…?」
「私もまさかと思いましたの…たまたまこの実だけが甘くないのでは?と諦め切れず、何個も何個も試してみましたけど……私の育てたカーキは、ハズレの実でしたの……これでは、私がアルベルゴ家を継げる筈がありませんもの…アルベルゴ家の娘でなければ、レイモンド様と婚約など…むりっ………」
「…リアを愛しているよ」
レイモンド様がフローリアが言い終わらない内に強く抱き締めるのが目に入る……
やっぱりレイモンド様は政略結婚とか関係なく、フローリアが好きなんだね。良かった……いや、良くないのか…?
「フローリア、ハズレの実って本当?」
教室の中のフローリアに向かって話し掛ける。
「…リマっ?」
フローリアとレイモンド様が驚いた顔でこちらを見た…あ、立ち聞きしてたのが分かったかも?まあ、立ち聞きしてたし…仕方ない、よね?
「ごめん、リックに用事があって来たら2人が話しているのが聞こえたの。それで、フローリア、ハズレの実だったの?」
「……隠しても仕方ないありませんもの……ええ、私の育てたカーキは、ハズレの実でしたわ」
「フローリアはたぬたぬに何て言って育ててたの?」
「……勇者様が食べていた様な立派な実に育ててと言ってましたわ……たぬたぬは私を気に入ってくださっているとばかり思っていましたのに……いつの間にか嫌われていたんですわ………カーキの実は、アルベルゴ家の象徴ですのに」
「やっぱり!たぬたぬはフローリアの事、気に入ってるよ!」
「じゃあ、どうしてハズレの実ですのよっ!」
「はずれの実が勇者様の食べていたカーキだからだよ」
「あんな実、食べれませんわっ、もう放っておいてちょうだい」
「絶対にいやだよ!フローリアのカーキの実、見せてくれる約束でしょう?今から行こうよ」
「……馬車がありませんわ」
「カイルが待ってるからあるよ!レイモンド様もご一緒に」
強引にフローリアをエディンリーフ家の馬車に乗せ、フローリア、レイモンド様、ラルク、私の4人で乗り、カイルにアルベルゴ家へ向かう様にお願いする。
カイルにリックに渡せなくてごめんねと謝ると、気にするなとニヤリと笑っていた。
フローリアの顔は真っ青のまま、レイモンド様が気遣う様に、フローリアの手を握っている。
「フローリアのカーキの木はどこにあるの?」
「こちらよ…」
まだ幼いカーキの木に鈴なりに実がなっている。
やっぱり精霊の使いに嫌われている筈がない。こんなに幼い木に、こんなに実がつくのは、精霊の使い、たぬたぬが張り切ったからだもん。
カーキの木に不安そうな、精霊の使いのたぬたぬが見えた。
「あ、フローリア?たぬたぬの作った実、もうたべないの?だめだったの?」
「…違うわ、たぬたぬは頑張ってくれましたわ」
「ほんと?ならどうしてそんな顔してるの?大好きなれいもんどさまに、よろこんでもらえなかった?」
泣き出しそうなフローリアを見て、益々おろおろするたぬたぬ……とレイモンド様。
精霊の使いの言葉は、気に入った者と花の精霊の加護がある者にしか聞こえない。たぬたぬの言葉はレイモンド様には聞こえない。
「たぬたぬ、カーキの実、ひとつ貰ってもいい?」
「うん、いいよー!あ、キミ、花の精霊様みたいなとってもいい匂いがするーこれが大きいから、これあげるね」
「ありがとう」
たぬたぬがカーキの実をひとつくれたので、ぱくりとひと口食べてみる。
「………渋い」
「…やっぱりハズレの実ですのね」
「ううん!フローリアもたぬたぬもすごいよ!」
「リマニーナ様、詳しく聞かせて貰えますか?」
「リマ、どういうこと?」
「……ハズレの実じゃないのですの…?」
「これは、渋柿だよ」
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
たぬきの尻尾をもふもふしてみたい。
一気に書こうと思いましたが、長くなりそうなので、分けます。2人の恋の結末。
ちょっと気が早いですが、クリスマスの小さな飾りを飾ってみました。
今日もお疲れ様でした☺︎















