100.記念樹と卒業
遂に100話目になりました(*^_^*)
春風祭りも終わり、魔法学校の庭の雪も溶け、明日は魔法学校の卒業式の日——
卒業式の前日に植物所属員は卒業する4年生を見送る会、『植樹の儀式』を行う。
4年生は、魔法学校の庭にまだ魔法学校にない植物を植える伝統なのだ。木の年もあれば、花の年もある。王道のものを植える年、珍しいものを植える年もある。この伝統のお陰で魔法学校の庭は多彩な植物が生えている素敵な伝統。
残される下級生は植える場所や範囲から卒業する4年生が何を植えるのか予想し合いながら上級生との思い出を語り合う……今年は魔力の泉の近くに植えるらしく、予想が難しい。
「リマは何だと思う?」
「そんなに広くないから木だと思うけどな…」
「エド様のご実家は珍しい種や苗を扱いますから予想が難しいですわね」
「ローズ様もお花に詳しいし、何かな?」
チェダ、アミー、フローリアと今日植える植物について話していると、エド様とローズ様、他の4年生が布を被せた鉢植えを持って来た…!ドキドキするな。
「こほん…今から植樹の儀式を行う」
ローズ様が鉢植えのカバーを外すと『金木犀』が現れた。
「今年は金木犀を植えようと思う」
下級生がわぁと歓声をあげた。
実は金木犀はラシャドル王国に殆ど生えていない木なのだ。
雪降らしの雷以降、エド様が空き教室を借りてくれて色々な植物講座を開いてくれた。その中で、他国の植物講座があり、隣のアルブル王国に多く生息する金木犀の香りが忘れられない様な素晴らしく良い香りだと所属員が知り、植物所属員の憧れの香りの木になっていたのだ。
前世の記憶を持つ私は、憧れの香りではなく、懐かしい香りだと思う。
小学生の頃、友達との帰り道で、高校生の頃、文化祭の準備で、いつか嗅いだ懐かしい香り。
懐かしくて、でも、もう会うことの出来ない人達や場所を思い出す金木犀。
4年生が土を掘り、金木犀を植え、下級生全員で土をかけると植樹の儀式は終わりだが、今年は魔力の泉の魔力水がある。
エド様とローズ様がジョーロから魔力水をかけた………
苗がミントグリーン色に光ると、弾ける様な強い光を発した……
小さな苗は小さな金木犀の木に育ち、あの懐かしく甘い香りを辺りに漂わせた——
「すごく良い香り……」
「確かにこれは忘れられない香りだな」
「香水などで嗅ぐ香りとはまた違って感じるわね」
植物所属員、全員がわぁと歓声を上げ、金木犀の樹の周りに集まる。
私は少し下がりその様子をぼんやりと眺めていた。
「こほん…リマニーナ、君は金木犀の花を見たことがあるのではないか?」
「……はい」
「この香りに思い出があるのかい?」
「………もう会えない人達の思い出です」
金木犀の香りが漂って来た時に強烈に思い出した…
小学生の時、隣に住む「かなちゃん」とキンモクセイの花を集めてお母さんに見せたこと。お母さんが良い香りねと言って、大事にしている小さなお皿にキンモクセイの花を飾ってくれたこと。お兄ちゃんとお父さんも秋の匂いがするなってくんくん嗅いで、みんなで夕ご飯を囲んで食べたこと。
高校生の時、文化祭の準備で放課後までみんなで残っていた時にキンモクセイの香りがしたこと。仲良しの美希と莉緒といちごみるくを買って、あと少しだから頑張ろうねと話していたこと。
リマになって、少しずつ小春の記憶が曖昧になっていること…………に気付いてしまったこと。
「それは悲しい思い出なのか?」
「……忘れていたけど、大切な思い出です」
「…そうか…」
エド様が私の頬にハンカチを当てる。
もう片側の頬に手を当てると涙が流れていたが、泣いている自覚がないので止めることも出来ず、ハラハラ溢れる涙を黙ってエド様がハンカチを当ててくれる。
「リマニーナは金木犀の話しをした時、懐かしい様な泣きだしそうな困った顔をしていたのを覚えていてね」
「………」
「金木犀は嫌だったかい?」
「……思い出させてくれて、ありがとうございます…」
エド様のハンカチが頬から離れ、エド様が私の手を開くとそっとエド様のハンカチを握らせる。
「私は明日で卒業だ。これはリマニーナが持っていなさい」
「え…?でも…」
「もうリマニーナの顔に土が付いても拭けないからね。最後の所属長命令だよ」
「……ありがとうございます」
エド様の悪戯が成功したみたいな笑顔に思わず笑ってしまう。
「…こほん…ひとつお願いがあるんだが…」
「はい!」
「リマニーナの金木犀の香りの思い出に植物所属の事も入れてくれないか?私は、君と植物所属で活動した事が楽しかったからな。金木犀を見て、思い出して貰えたら嬉しい」
「エド様……私もこの1年間、とても楽しかったです。秋になったら絶対に思い出します」
「私は、リマニーナの土のついた顔を思い出すことにするよ」
2人でくすくすと笑い合い、エド様を真っ直ぐに見る。
「エド様、ご卒業おめでとうございます」
「…こほん、リマニーナ、ありがとう」
穏やかな雲ひとつない青空の下、上級生は卒業式を迎え、卒業をした。
私は、まもなく2年生になる——
本日も読んで頂き、ありがとうございました!
100話まで書くなんて想像していなかったです!
ブックマークや評価、アクセス数を見て、励まされる様に書いています。
もう少しで完結予定なんですが、書き溜めが全く出来ない性分の為、ふわっと思い付いてはゆるゆる脱線を繰り返しています(´∀`)
このエド様の恋のあとに、入れようか悩んだ恋の結末があるのですが……うーんうーんと悩み、今回はやめました。が、書きたい………とまだ悩んでいて、足すかもしれません。
引き続き、暖かく見守って頂けたらと思っています◎