第1話 塾講師と、ある受験生
私の名前は高橋大和。塾講師をやっている。担当教科は数学、理科、社会。
今から俺が実際に体験したことを話そうと思う。ぜひ、聞いてほしい。
ある寒い日、うちの塾に新しい生徒がやってきた。笹山瑠璃といい、中学1年生。見た目はメガネにぱっつん前髪、長い髪をポニーテールで結んでいる。中学受験をしたため、ここら辺では有名な白蓮中学校に通っている。
俺はまず自己紹介をすることにした。
「こんにちは。高橋大和っていいます。これから一緒に頑張ろうね。」
俺は男の先生は“怖い”というイメージがなんとなくある。だから、俺はなるべく丁寧な口調で話すように心がけていた。
「…」
彼女はただ、めんどくさそうに頷いただけだった。
そのあと、定期テストなどの今までの成績を見せてもらう。
定期テストは6段階評価で、上からA、B、C、D、E、Fまである。彼女の前回の定期テストの結果を見ると、“E”だった。つまり、80〜100位だということだ。
白蓮中学校はひとつの学年に120人いるが、そのうちの80人は小学校から持ち上がりだ。残りの40人が中学受験をして入学する。去年、つまり今の1年生は倍率が過去1番に高かった年だ。その年に彼女は合格したのだから、当然、彼女も頭が良いのだと思っていた。
だから、その成績は正直驚いた。だが、よく考えてみれば、こういう子はやる気が出れば上がると思った。自分が教えてきた中でもこういうタイプの子はいなかったので、少し俺は燃えた。教育魂ってやつが。
だからとりあえず、俺は彼女に聞いてみた。
「どこができないの?」
彼女は少し考えてからこう言った。
「全部。」と。