復帰④
最後の剣
次の日、朝、何時ものようにアーサーと訓練。途中、アルフさんが参加。顔色がいい。良かった。
「おはよう、ルナ、アーサー」
「おはようございます、アルフさん」
アーサーが汗を拭きながら挨拶。
「おはよう、ございます」
昨日の今日で、アルフさんの顔をあまり直視できない。
基礎動作を繰り返し、朝の訓練終了。
朝ごはんとなる。
じゃがいものお味噌汁、いい匂い。ご飯と焼き魚でいただきます。
ずー、ああ、安定の美味しさ。
リツさんとマリ先輩はお箸使用、上手ね。アルフさんも驚いていたが、一応やり方を教えてもらったけど、上手くいかなかった。
なので、私、アルフさん、ローズさんはフォークとスプーンを使用している。
「アルフさん、付与は大丈夫なんですか?」
リツさんが聞いてくる。
「ああ、以前付与をしとったナナラという人が復帰することになってな。儂の負担はぐっと減ることになる。しばらく休めと言われたしな」
「私達は、どうすれば?」
「変わらず付与の仕事は続けて欲しいとさ」
「そうですか。お休みはいつまでですか?」
「次の水の日までだ」
「ゆっくりできますね」
「ああ」
アルフさんはしみじみとお味噌汁を飲む。
じゃがいもほくほくで美味しい。
「付与か、ねぇルナちゃん。ナリミヤ様から頂いた最後の剣の付与ってなんだったの?」
ブーッ
完全に忘れていたのに。
マリ先輩の一言で、私はお味噌汁を噴き出す。
「最後の剣? ルナ、あの剣以外の剣があるのか?」
「ああぁぁぁぁ」
ばれたあ。
人目につかないようにしてたのに、あっさりばれたよ。アルフさん、一番見たらいけない人だよね。
「いや、あの、ちょっと見ない方がいいですよ…」
「なんだ? 呪いの剣か?」
「そんな感じです」
よし、なんかスルー出来そう。
「そんな事ないでしょう? ナリミヤ様特製よ。オリハルコンとか竜の牙とか入っているんだよね」
ブッ
今度はアルフさんが噴き出す。
激しく咳き込む。
「マリ先輩、ちょっと、シーッです」
「今、ごほっ、聞いたらいかん言葉が聞こえてきたが」
「空耳です、アルフさん、空耳」
私が噎せ込むアルフさんの背中をさする。マリ先輩が首を傾げる。かわいいなあ。
「ルナちゃん、見てないの?」
「見れませんよ、恐ろしいあんなの」
とんでもない。
「でも、付与くらい確認するくらいしたら?」
諦め悪いなマリ先輩。
どうしよう、出した方がいいかな? 付与は結局リツさんの鑑定に頼らないといけないし。
「朝ごはんの後に確認しましょうね」
リツさんが軽く言う。
「儂、ちょっと興味あるが、見たいが、怖い気がするが」
結局、朝食後、工房に集合する。
仕方ない、私は最後の剣をテーブルに出す。
細身のロングソード。緑がかった黒革の鞘、鍔にはシンプルな翼の彫刻、柄も緑がかった黒革で覆われている。
うわあ、素人の私を見ても素晴らしい。
アルフさんなんて瞬きもしないで、凝視してるし。
「綺麗ね」
「本当、日本刀見たいな形ね」
リツさんとマリ先輩ののほほんとした会話。
「因みに、鞘の原材料は?」
私が恐る恐るリツさん聞く。
「えっとね、ちょっと待ってね。………風竜の革だって、少しオリハルコンも合成されてる」
やっぱり。
竜の革って、あの残念美形金髪なんてもん作ってくれたのよ。確かに頼んだの私だけどさ、ちょっと、私のレベルってもんをさ、考えてよ。隣のアルフさん頭抱えているよ。
「付与はね、中の自動修復、結界、解毒、全属性魔法補助、衝撃吸収、あ、衝撃斬刃もあるわね。もともとの潜在付与は大の風魔法補助」
本当に何を持ってきたのあの人。
「鞘なのにすごーい」
マリ先輩、マリ先輩、これね、鞘の概念じゃダメよ。
「武器だ、武器。鞘の凶器」
頭を抱えたアルフさんが唸る。
うわあ、鞘から抜きたくない。
「アルフさん、どうぞ」
「は?」
「抜いてください、さ、どうぞどうぞ」
「嫌だぞ、ルナの剣だろう。儂、触るの恐いぞ」
心底驚いた顔でアルフさんは首を横に振る。
「私だって嫌ですよ、ここは最高レベルのアルフさんどうぞどうぞ」
私とアルフさんが押し付けあう。
「私が抜こうか?」
「ダメ」
「ならん」
危険をわかってない、マリ先輩を一喝。
結局、アルフさんが抜刀する。
私が恥を捨て、アルフさんの手を取り、何時間でも肩をお揉みしますと言ったら、頷いてくれた。昨日のこと? はい、最後の剣の前にしたらぶっ飛びました。
アルフさんが小さく生殺しと言ったが、スルーです。
「魔力流さないでくださいね」
「わかっとる」
額に汗を浮かべてアルフさんが、ゆっくり、鞘から剣を抜く。
ああ、思っていたように、美しい刀身。片刃で波の模様が走り、淡く輝くそれは、息を止めて見つめる価値がある。角度によって赤や緑の輝きがある。
「綺麗…」
リツさんが呟く。マリ先輩もローズさんもだ。後ろで立って見ていたアーサーも言葉を失っている。
抜刀したアルフさんも赤い目を、限界まで広げて見ている。
あ、いかん、いかん、付与。聞いたらいけない気が激しくするが、聞かないと皆止まったままだ。材質はスルーね。何となく予想してるから。火竜や風竜の牙とか使っているんだろうね。
「リツさん、付与は?」
「あ、ちょっと待ってね。えーっと、中の自動修復、全属性魔法補助、衝撃斬刃、浄化、魔力吸収、衝撃吸収。あ、衝撃斬刃は大ね。潜在付与は大の火・風魔法強化、硬化強化、中の精神打撃」
アルフさんが鞘に刀身戻す。
「見てはいけないものだな、儂、何も見とらん」
「私も」
私とアルフさんは悟りの表情で明後日を向く。
「アルフさんもルナさんもつかわないんですか?」
アーサーが首を傾げて聞く。
「「ご冗談を」」
ハモる。
「アーサー、儂とルナは身体強化の魔法を使う。魔力を秘めた武器はそれに反応するんだ。魔鉄や少量のミスリルくらいなら影響は少ないが、上級の魔法金属や魔物素材。まあ、この場合竜とオリハルコンだな。魔力系スキルが甘いと一瞬で魔力を持っていかれるし、暴走させるから儂らには扱えん」
そう、アルフさんの言う通り。本当になんてもん持ってきたの残念金髪美形は。てか、あの赤髪エルフ、そんなに魔力系スキル高いの?
「アルフさんでも無理なんですか?」
マリ先輩が聞く。確かに魔力感知はアルフさんが最高数値だ。
「まあ、そうだな、一撃くらいならなんとかなりそうだが。自信ないなあ」
「ルナちゃんは?」
「無理です」
きっぱり。
「こいつを扱える可能性があるなら、アーサーだろうな」
「え、自分ですか?」
アーサーが心底驚いている。
確かに、可能性があるとしたら、アーサーくらいだ。なんと言っても魔力操作のスキルが生まれつきある。おそらくこれからも、私やアルフさん以上に伸びる可能性がある。
「確かに、この中じゃ魔力操作持っているのアーサーだけだから。あ、アーサー、レベルがそこそこ上がったら、これ、あげる」
よし、押し付けてしまえ。
「私はもう一本剣あるからそれで十分だし」
「ええぇぇぇ」
「良かったなアーサー、儂の国にある国宝以上の剣だぞー」
アルフさん、完全に他人事だ。てか、ドワーフの国宝以上って何?
「そんなおっかなそうなのは、自分、いりません」
アーサーがブンブン首を振る。
あはは、無視しましょう。
「もうちょい、アーサー自身のレベルを上げんとな。せめて30、いや50は欲しいな。魔力感知と操作もそれくらいか?」
「そうですね、アルフさんが休みの間に実戦しましょう。大丈夫よ、アーサー、ガッチリ頑張りましょうね」
「ああぁぁぁ、アルフさんとルナさんが怖い…」
完全に引いているアーサー。
「早速、明日辺り、魔の森に行くか」
「そうですね、まずは浅い所で。私とアルフさんいるから、ゴブリンくらいならなんとかなりますよね。あ、アルフさんはゴブリンの上位種と戦ったことは?」
「ルークやナイトなら問題ない。ジェネラルはちょっときついかな」
「あの、あの、自分、まだ、死にたくないですッ」
アーサーの悲鳴が工房に響いた。
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