復帰③
休め
私が一人で勝手に悶えていると、しばらくしてアルフさんが戻って来る。
「ルナ、待たせたな」
「いえ…」
いかん、顔が見れない。
「さあ、帰ろうか」
「はい…」
カチカチ動きながら、アルフさんの後ろにつく。隣は無理です。
そういえば、次の水の日まで休めってダビデさんが言っていたけど。
「ほっほっほっ、お嬢さん、気をつけてお帰り。アルフ、わかっておるな?」
ロビーで副ギルドマスターのダビデさんが見送ってくれる。
アルフさんはちょっと苦そうな顔をして答える。
「わかっとる」
「ゆっくり休めよ。しばらくナナラと付与を分担してもらうが、もう少しだ、頑張っておくれ」
「ああ」
「お嬢さん、豆だよ、持っておゆき」
「あ、ありがとうございます…」
ダビデさんが白い袋をくれる。お弁当はアルフさんが持つ。
鍛治師ギルドを出て、屋敷に向かう途中で、前を歩くアルフさんにぶつかる。いかん、いかん、集中力散漫だ。
「ルナ」
「は、はい、すみません…」
私がぶつかったんだから、謝らないと。
反射的に顔を上げると、アルフさんがこちらを見ている。
あ、いかん、顔に血がのぼる。
一歩下がろうとすると、アルフさんに私の手を掴む。
「儂のこと、嫌いか?」
本当に何を聞いて来るのこの人。さっきのことで、パンクしかけた私の頭は、全く回転しない。
あわあわ、言葉にならない声が出る。
「ルナ、儂のこと、嫌いか?」
もう一度聞いてくる。なんだか、寂しそうな顔で。
「あ、あの、嫌いとか、じゃなくて、その…」
わたわた。言葉、出てこない。
「その、よく、分かりません、アルフさん、疲れているんですよ」
私の答えに、アルフさんは小さくため息。
「ルナ」
「は、はい」
「疲れて手を出すほど、儂は落ちていない。ルナ、早く、気がついてくれ」
何に?
非常に混乱している私の頭は、返答不可能。
なんで、アルフさん、辛そうなんだろう? ダメだ、分からない。
「アルフ、さん、あの、今はちょっと、頭が回らなくて…嫌いでは、ないですから…」
なんとか出た精一杯の答え。
「そうか」
一つ息をつく。
まともな、返事ができない、申し訳ない、なんで私脳筋なんだろう。何か答えた方がいいけど、何を言ったらいいのだろう?
「あの、アルフさん」
「なんだ?」
「私、アルフさんに触られるの、嫌じゃないですよ」
ちょっと、掴んでいたアルフさんの手に力が入る。
「アルフさんに頭、撫でられると、嬉しいような、感じしますから、嫌いじゃないです」
いつも、頭を撫でてくれる。嬉しい、でも、ちょっと寂しい。しょうがない、私は子供の位置だから。それで納得しないといけない。わかっているけど、寂しい気持ちは変わらない。でも、寂しいなんて、言えないから。嬉しいことだけは伝えないと。
そう、言うと、アルフさんはガックリ肩を落とす。
「そうか、頭か、そうか、まあ、よしとするか」
「アルフさん?」
「帰ろうか、ルナ」
「あ、はい」
何故か、アルフさんに手を握られたまま屋敷に戻る。ちゃんとついていくに、アルフさんも心配性だね。まあ、少し嬉しいのは、恥ずかしいから言えないけどね。
屋敷に帰りつくと、皆驚いていたよ。
「アルフさん、どうしたんです? ルナちゃんも目が腫れてるわよ」
リツさんが心配そうに駆け寄り、マリ先輩もショウを連れて駆け寄る。
アルフさんが頬をかく。
「儂が、魔力枯渇してな。ルナが動揺したんだ」
「そうですか、アルフさん、魔力回復ポーションありますよ」
リツさんがアイテムボックスから魔力回復ポーションを取り出す。
「大丈夫だ、さっき飲んだ」
「なら、いいですが」
「アルフさん顔色悪いですよ、ローズ、お茶を」
「はい、マリ様」
マリ先輩の指示でローズさんがお茶の準備。
アルフさんはローズさんのお茶を飲み、やはりきつかったのか、何も食べずにお風呂にも入らず眠った。魔力枯渇もあったろうが、徹夜の疲労もあったと思う。
手付かずのお弁当は私が夕食でいただきました。お弁当箱に入っているとはいえ、落としたしね。
ちょっと食欲に本日は不安があったが、半分ちょっとで腹がきつくなる。
残しそうだったが、何故か足元によって来たショウにお裾分け。
「ピイピイ」
…なんだろう。天地の王者がおにぎりつついているよ。
うん、かわいいかな。
「ねぇルナちゃん」
私がショウを撫でていると、マリ先輩が心配そうに聞いてきた。
「アルフさん、随分疲れていたけど、やっぱり付与関係?」
「多分そうかも」
「なら、付与に行く回数増やした方がいいかな」
マリ先輩の考えにリツさんも賛同。
「そうね。私達じゃあんまり役に立たないかもしれないけど、少し位アルフさんの負担軽減にならないと」
もっとよこせと、ショウが私の手をつつく。痛いって。おにぎりをショウの皿にのせる。
「確か、誰か復帰するって言ってましたよ。その人の話をアルフさんから聞いてからでもいいんじゃないですか? 痛いって、はい、おにぎり」
つつく。つつく。ショウがおにぎり欲しさに私をつつく。
残りのおにぎりを皿にのせる。もうないからね。
グリフォンって肉食のイメージだけど、なんでも食べるねショウは。おやつタイムになると、よくマリ先輩があーんしているし。
私のあーんの位置が、脅かされる。
「そうなのね。じゃあ、明日アルフさんの様子を見て話を聞きましょう。ルナちゃん、卵焼き、ショウにあげて、また作ってあげるから」
リツさんがショウと最後の卵焼きを巡って激しい攻防を繰り返す私に、呆れたように声をかけた。
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