受け入れ⑦
皮鎧
私は工房のドアをノック。
「アルフさん、おはようございます。朝ごはんですよ、アルフさん」
もう一度ノックするが、返事がない。ドアノブを回すが鍵がかかっている。
「アルフさん、アルフさん」
おかしいな、いるはずだけど。あ、もしかしたら中で倒れてないよね。まさか、ね。
………
「アルフさん、アルフさんッ」
あ、まずいかも。どうしよう、鍵は、あ、リツさんが持っているはずだから、それを借りよう。
私が屋敷が向かおうとすると、ガチャンと鍵が開く音。
「よう、ルナ」
「アルフさん大丈夫ですか? 返事がないから」
「すまん、うつらうつらしてた」
ドアから顔を出したのは、寝起きのアルフさん。眠そう。
「徹夜したんですか?」
「まあな、だが、アーサーの鎧できたぞ」
アルフさんが工房に入れてくれる。
「ほら、いい感じだろう?」
トルソーに着せられた黒い皮鎧。おお、本当にいい感じ。籠手やすね当てまである。
「カッコいいですね」
「後は付与だが、これはリツ達に頼むかな。儂は皮には付かんし」
「一晩でよくできましたね」
「調子がよくてな。ふあぁ」
アルフさんがあくびをする。さすがに連続徹夜はきついみたい。
「あの、朝ごはんどうします? 寝ます?」
「いや、頂こう。腹減っとるし」
目をこするアルフさんと、台所に戻る。
「あの、アルフさん」
アーサーが駆け寄ってくる。
「おうアーサー、工房に鎧あるから、サイズ確認しておけよ」
「自分は奴隷なのに、鎧なんて…」
恐縮するアーサー。
「気にするな」
ポンポン、とアーサーの肩を叩くアルフさん。
朝ごはんの準備済んでる。
ピザトーストとスープだ。
しきりに恐縮するアーサーをホリィ一家が待つ部屋にやり、私達も朝食となる。
いただきます。パクっ。
うん、ホワイトソースとキノコが合う。パンも美味しい。パクパク。
あ、そう言えば。
「ゴブリンと従魔の件どうなりました?」
「あ、そうね。ルナちゃん知らなかったわね」
リツさんが紅茶を一口。
「ゴブリンの件は調査依頼を出すって。辺境伯様にも報告がいって周辺の警戒をしてもらうって。城門を出る人達にも注意してくれるって」
「そうですか」
パクパク。
「従魔は?」
マリ先輩がスープを飲んで答えてくれる。
「無事に登録できたわよ」
マリ先輩の話は続く。
グリフォンの名前はショウ、カラーシープはノゾミにしたと。カラーシープは珍しくないが、やはりグリフォンには驚かれたようで、注目の的だったようだ。まあ、アルフさんがさりげなく、ガードしていたようだけど。冒険者ギルドの職員いわく、このグリフォン、カラーレス・グリフォンらしく、劣化個体らしい。グリフォン自体の生態は正確にわかってはないが、劣化個体とわかった時点で親個体は育児を放棄し、次の繁殖に励むらしい。
「ショウ、もう大丈夫だかね」
マリ先輩が、優しくショウに声をかける。
グリフォン、ショウだね、頭をマリ先輩の手にすりすり。うん、かわいい。魔物の世界もシビアだね。
ショウとノゾミは、マリ先輩特製の餌を平らげている。蒸した野菜だ。
「なあ、アーサーの鎧の件で、少しいいか?」
アルフさんが二枚目のピザトーストを食べて、リツさん達に話しかける。
「儂は革系に付与は苦手でな。任せたいんだが」
「大丈夫です。何をつけた方がいいですか?」
「土の補助だな。後は、魔法防御か衝撃吸収か、そうだな、自動修復出来るか? コブラの皮だから、かなり硬度はあるし、軽いしな。硬化や重量軽減はいらんだろう」
「わかりました」
リツさんが早速どうするか、マリ先輩とローズさんと相談開始。
アルフさんは朝食後、シャワーを浴びて就寝。リツさん達はアーサーの皮鎧の調整に入る。
「わあ、よく似合うじゃない」
フォレストダークコブラの皮鎧を身につけたアーサー。うん、髪も黒だし、綺麗な鱗模様によく似合う。籠手やすね当ても全て着けると、うん、冒険者だ。
「そ、そうですか?」
リツさんに言われて顔を赤くするアーサー。
「サイズはよろしいようですね」
胴回りの細かいチェックをするローズさん。
「手は痛くない? 足は大丈夫?」
マリ先輩が、手足のチェック。
わあ、かわいいリツさんマリ先輩、美人のローズさんに囲まれ、アーサーがわたわたし始める。うん、かわいい。
「アーサー君もブーツ作った方がいいかしら? デザインはアルフさんと同じで」
「あの、リツ様、自分はこの靴だけで、十分です」
「でも、走り回るなら、それじゃね。靴底減りそうだし。そうだ、アルフさん、まだコブラの皮持ってるかしら? 起きたら、聞いてみましょう」
アーサーの装備が揃っていくなあ。
しきりに遠慮するアーサーそっちのけで、三人の話が進んでいった。
「メエメエ~」
ノゾミが庭を走り回る。
「待ってノゾミちゃん~」
「ノゾミちゃん~」
「きゃははは」
そのノゾミを追いかけるちびっこ達。
ショウは近くに芝生に伏せて寝ている。さすがに劣化個体とはいえグリフォン、怖いようで、母親のホリィさんからも近くによらないように注意されていた。
私はアーサーと剣の稽古をして草むしり。
「え、薙刀に魔力流せたの?」
「はい、絞ってと言われたので」
昨日のゴブリンとの戦闘を聞いてみると、なんと、魔力を流せたと。さすが魔力操作を持つだけはあるのか、二代目を使いこなすのに結構苦労したのに、なんだか悔しい。
「あの槍すごいですね、ゴブリン切るのになんの反動ないから」
「衝撃吸収の付与があるからね」
「あれもアルフさんが?」
「違う人よ、頂いたの。アーサー、あの槍、あんまり人に知られたくないから話さないでね」
「あ、そうなんですね、わかりました。今、リツ様が持ってます」
良かった素直で。
三人は工房に籠り付与の作業している。
「アーサー、魔力系のスキルあるから、付与もできそうね」
草をむしりながら話をする。
「付与ですか? どうでしょうね、やったことないから分かりません。ルナさんは?」
「私はダメね。リツさんに教えてもらったら?」
「リツ様のお手を煩わせたくないです」
「そう」
草をむしる。むしる。
一瞬アルフさんの顔が浮かんだが、今は忙しいようだしね。負担だね。私が教えられたらいいんだろうけど。残念。
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