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受け入れ⑤

小刀

「じゃあ冒険者ギルドに行ってくるからね。ルナちゃん。大人しくね。病み上がりなんだから」

 リツさんが心配してくれる。

「あ、ホリィさん、遅くなるかしれないから、先に食事済ませてくださいね。これ、夕食にしてください」

 小さな子供達の生活時間をずらしたくないと、リツさんはアイテムボックスから白パンとキッシュを取り出しホリィさんに渡す。

「ありがとうございます。お帰りをお待ちしております」

「はい、本当に遅くなるなら、先に休んでくださいね。ルナちゃんもよ、冷蔵庫いろいろあるから食べるれるなら食べて寝るのよ」

「待ってますよ」

 心配性のリツさん。

 玄関でホリィさんと二人で見送る。

「私、部屋で寝てます。皆さんが戻ってきたら、教えてください」

「畏まりました」

 私は自室に上がり、ベッドに潜り込んだ。


「ん………」

 目を醒ますと、真っ暗。

 ベッドサイドの小さな明かりの魔道具に魔力を流し、明かりをつける。

 随分寝てしまった。

 そっと部屋を出ると、しんと静まり返っていた。

 気配はあるが、おそらくみんな眠っているんだろう。私が寝ていたから、声をかけなかったんだろう。

 お腹、すいた。

 ガーディアンを羽織り、明かりの魔道具を片手に、足音を立てずに階段を下りて台所に入る。

 ダイニングテーブルの上に白いフキンのかかった山。メモもある。

『ルナちゃん。もし起きたら温めて食べてね。冷蔵庫にお茶もあります』

 リツさん、本当に優しい。ローズさんもありがたい。

 フキンを取ると、小鍋。中は野菜を小さめに刻んであるスープ。冷えてても、いい匂い。小鍋をコンロにかける。お茶を出し、スープ皿を出す。

「いただきます」

 こくん、あ、味がする。野菜は柔らかくて甘味がある。スープも美味しい。空腹なため、あっさりに平らげる。お茶も飲んで、ふう、満腹。片付けて、さて、また一眠りしよう。ゴブリンの件や従魔の件を聞きたかった、明日だね。

 部屋に入る前に、廊下の窓から小さな明かりが見えた。外を見てみると、工房に明かりが灯っている。

 きっとリツさんやマリ先輩達ではないはず。疲れているだろうし。なら、一人しかいない。

 アルフさんだ。確か、昨日徹夜じゃなかったっけ?

 鍛冶師ギルドの仕事かな? 本当に仕事熱心だね。あ、お茶を持って行こう。お湯沸かして、この辺に茶葉あったはず、あったあった。これくらいかな? お茶うけどうしよう? あ、大量に作ったクッキーがまだあったはず、何枚か並べて、と。お茶淹れて、よし。

 お邪魔じゃないかな? でも、もう準備したしな。よし、顔みてダメそうなら、引き返そう。

 溢さないようにお盆に載せて、工房に向かう。

  コンコン

『誰だ?』

 中からアルフさんの声。やっぱり。

「ルナです。お茶持って来ました」

 そう言うと、すぐに鍵が開く。

「どうしたルナ」

 優しい笑顔のアルフさん。あ、良かった、お邪魔じゃないみたい。

「お仕事してそうだったから、お茶持って来ました」

「そうか、ありがたい」

 アルフさんが工房の中に入れてくれる。

「ギルドのお仕事ですか?」

 お茶をテーブルに置きながら、私が聞くとアルフさんは首を振る。

「いや、アーサーに皮鎧を作ってやろうと思ってな」

 そう言って出したのは、黒い何かの革。

「なんの革です?」

「コブラだ。フォレストダークコブラの。ワイバーン程ではないが、かなりいい部分をもらってな」

「もらった?」

「ああ」

 アルフさんは私の淹れたお茶を飲む。

「覚えとるか? マルコフさん」

「はい」

「魔の森で彼らが苦戦しとったから、ちょっと援護したら感謝されてな、討伐報酬まで渡そうとしたから、代わりにこの革をもらったんだ。そのうち、何か作ろうかと思っていたが延び延びになっていたから、いい機会だから作って見ようってな」

 フォレストダークコブラって、闇属性の霧を吐き出し、長い体で巻き付いて獲物を締め上げる。ちょっとした木くらいなら、簡単に薙ぎ倒す力を持つ強力な魔物。その魔物を相手にしてたのか、マルコフさんの『ハーベの光』ってランク高いんだろうね。あのアルフさんに執着していたバーンも、マルコフさん曰く優秀らしいし。

「アルフさん、革の扱いもできるんですね」

「ある程度な」

 鍛冶師して、革職人して、本当にすごい。

 感心していると、アルフにはお茶を飲み干す。

「さて、作業するか。ルナ、旨かったぞ」

「ローズさんには、及びませんけど」

 何故か教えてもらっても、ローズさんには、敵わない。まあ、経験の差だろうね。

 ふわっと、アルフさんが私の頭に手を置く。

「儂は気持ちが嬉しいだんだよ。わざわざ、持って来てくれたのがな」

 撫で撫でする。本当に子供扱いだね。仕方ないけど、ちょっと、ほんのちょっと、寂しく思うのは、私がおかしいんだろうな。

「病み上がりだろう? 早く寝ろ。また、熱が出たら皆心配するぞ」

 確かに、そうかも。でも、なんだか、よく分からないが、少しだけここにいたい気がする。

「作業、ちょっと見てもいいですか? すぐに部屋に戻りますから」

 ここにいる適当な理由が思い付かず、咄嗟に言葉が出る。

「構わんよ。ルナ、そこに座れ」

「はい」

 帰れって言われるかもしれないと思った私は、ほっとして示された椅子に座る。

 アルフさんは黒い革をテーブルに広げる。細かい鱗模様の美しい革だ。白い線が引かれている。それに沿って裁断するのかな。アルフさんは丸めらるた布を出し広げる。中には小刀や針などが入っている。アルフさんは小刀を取り出し、迷いなく白い線に刃を当て走らせる。

 すごい切れ味。

 次々にパーツを切り出していく。あの小刀、すごいなあ。

 ……………あれ、あの、小刀。なんか黒い。いや、黒ずんではないけど、あの落ち着いた黒い色、これだけの切れ味。

 よく見たら二代目の色に似ている。

 まさか、アダマンタイト? あれ本物なら、かなり純度が高そう。

 よく見たら針も同じ色。小刀はアルフさんの手のサイズにぴったりだし、まさか、作った? アダマンタイトの小刀を? 一流と呼ばれる者しか扱えないアダマンタイトを?

 パーツが切り出されているのをそっちのけで、私の頭はぐらぐらし始めた。

 え、アダマンタイト扱えるのって、すごいことじゃなかったっけ? 私が古いのかな? なんせ前世の記憶だし、古いのかな? でも、アルフさん、国では貴重な魔法職、騎士隊の遠征に駆り出されたって、よく考えたらあり得ないよね、一般人なんだし。なんで駆り出されたの? 魔法が使えるだけ? あれ? 違うよね、戦闘スキル、高かったし、確かステータスに魔槍士ってあったし。立派な戦力だし。あれ? なんで、この人、こんな所にいるの? 国を出たって言うけど、よくそのまま国が出したよね。アダマンタイト扱えて、魔法職として頼りにされていたのに、なんで? そんなにこの金属を扱える鍛冶師はいないはずなのに。

「なんで」

「ん、どうしたルナ」

 手を休めず、小刀を走らせるアルフさん。

「なんで、ここに、いるんですか? それ、アダマンタイト製ですよね」

 私の言葉にアルフさんの手が止まる。一瞬の間をおいて、上げた顔はちょっと感情の消えた顔だった。

読んでいただきありがとうございます

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