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冒険者③

「そういえば、冒険者ギルド間の連絡ってどうなっているんですか?」

 春風亭までの間に、疑問をグライスさんに聞いてみる。ガイズでの出来事が驚く程の早さで伝わっているのが、どんな手段を用いたか知りたい。

「ああ、魔道具ですよ。通信用の。この10年で飛躍的に発達しましたよね」

「通信用?」

「はい、離れた場所でも話ができたり、メッセージを送ったりできます。隣国の首都までなら話ができますよ」

「隣国ですか、へぇ、画期的ですね」

 素直にすごい。情報が何ヵ月も待たずに手に入る。

「ええ、本当にすごいですね。クレイハート製の魔道具は」

 マリ先輩の言葉を借りると「キター」だ。

 通信用の魔道具なんかも作ってましたか。基本的にクレイハート製の魔道具は、生活に密着している。水洗トイレを皮切りに照明に冷蔵庫にコンロ、オーブン、空調。始めは高級品だったが、少し性能を抑えて、価格を下げて一般市民でも頑張れば手にはいるようになってからのクレイハート伯爵の躍進が始まった。コードウェル家にもあります、水洗トイレとコンロ。クリスタム王国にも輸出してるから名前を聞くこともあるかと思っていたが、まさかここで聞くとは。しかし通信用とな、昨日のドライヤーといい、いろいろ手を出してるね。

「その通信用の魔道具で、ガイズのギルドマスターから連絡が来ましてね」

 そうか、ガイズの冒険者ギルドで首都行きの馬車チケットもらったし。私が首都に向かったのは分かっていたはずだ。

「ガイズで何があったか、それと黒髪の少女をね。冒険者の心構えを聞いているのを見てピンと来ましたよ」

 一息ついてグライスさんは更に続ける。

「まさか未成年とは、思っていませんでしたが。あなたは剣士として優秀なようですし、無事成人を迎え冒険者ギルド登録をすることを祈ってます」

「副ギルドマスターにそう言ってもらえるのは光栄です」

「出来れば、トラブルは避けて」

「向こうからやって来るんです。私は迎撃するだけです」

「…なるべく穏便に対応してください」

 そこで春風亭に到着。送ってもらったのでグライスさんにお礼を言って春風亭に入った。


「あ、ルナちゃん。お帰り、早かったね」

 春風亭の食堂でマリ先輩とローズさんが食事をしていた。手招きされ同じテーブルに着き、食堂にいた宿の従業員に声をかける。

「副ギルドマスターさんは?」

「送っていただきました。帰りましたよ」

「やっぱり、さっきの人達のこと?」

 心配そうにマリ先輩が聞いてくる。

「まあ、そうですね」

 これもちょっと気になっていたから、グラウスさんに聞いておいた。多分マリ先輩にも聞かれると思っていたし、ガイズの話をする訳にはいかないからね。

 あの三人組は、若い女性冒険者に絡むことが多く、そんな女性達から苦情が何件も出ていたと。注意されていたが今日も私達に絡んできたので、とうとう警告をしたと。次回のランクアップ査定にも影響し、また問題を起こすようならランクダウン、ペナルティーで罰金。以上を説明すると、ふーんと気のない返事のマリ先輩。あんたが聞いたんでしょ。

 夕食が運ばれてくる。昨日と同じメニューだ。お、スープにじゃがいも入ってる。私、じゃがいも大好きなんだ。うふふ、うれしい。

「ねえ、明日はクエストだよね?」

「そうですね。冒険者ギルドから、朝早く馬車が出てますから、それで行きましょう。そうだ、お二人も実戦経験なんてないですよね」

「ないよ」

 念のために聞くと予想していた返事が。ローズさんも頷く。

 と言うことは対人戦も、ないよね。まあ、当然だ。マリ先輩は世界を見て回りたいと言っていたが、対人戦は避けられない。この世界は魔物だけが、脅威ではないのだ。今日絡んできた男達は下心があったろうが、質が悪い輩は、狼藉を働いて隷属魔法をかけて奴隷として売り払う。大事に育てられたマリ先輩にそれに耐えられるとは思えないが。そうなれば、冒険者を続ける気力も湧かないかもしれないし、伯爵令嬢に戻るだろうし。まあ、何があっても二人だけは守り抜こう。

「薬草摘みは、一般市民でもできますが、何が起こるか分かりませんからね。慎重に行きましょう」

 念には念を入れて。

「うん、わかった」

 返事はいいが大丈夫かね? 危機感が伝わってこない。きっと念願のクエストだからだろう。ローズさんだけ神妙な顔をしている。

 食事を終え、お風呂(大桶)に昨日の順番で入る。最後の私が出てくるとマリ先輩がしきりに誰かと話していた。

「本当だって、ちゃんとルナちゃんを見つけて今日冒険者ギルド登録したんだから、本当よシュタム」

 シュタムってマリ先輩の苦労人気質の弟さん。

 えっ、ここクリスタム王国ですよ、シュタムさん、どこにいるの? 気配全く感じないんだが、はっ、もしかしたら気配遮断や隠密スキル持ちなのか? 姉が心配で付いてきたとか?

 なんてことを考えているが、マリ先輩は右耳に当てた、ギルドカードの倍くらいの薄い箱に話してる。???

「あれは通信用の魔道具です」

 ローズさんがそっと説明してくれる。

「えっ、あんなに小さいの?」

 グラウスさんから通信用の魔道具のことは聞いていたが、大きな石盤のような魔道具を想像していた私は、驚きを隠せない。

「あれは試作品です。あの魔道具は対で造られ、クレイハート家にある通信用の魔道具としか話はできません」

「はあ、そうですか。それだけでもすごいけど」

 一体幾らなんだあれ。さすがお金持ち。

 ぼーっと思っているとマリ先輩が振り返る。

「あ、ルナちゃんお風呂上がった? え、何シュタム、いるわよ同じ宿に泊まっているから。え、ええ。ちょっと待ってね」

 マリ先輩は困った顔でこちらに振り返る。

「あのねルナちゃん、シュタムがルナちゃんにご挨拶したいって。いいかな?」

「はあ、いいですよ」

 その魔道具すごい気になる。めちゃくちゃ気になる。

「ここに耳当てて、向こうからの声が聞こえるから。話は、普通に話してくれればいいよ」

「はい、お借りします」

 マリ先輩から薄い箱を受け取り、言われた通りに耳に当てる。

「えっと、ルミナスです」

『お久しぶりです、ルミナス嬢』

 うわっ、本当に声が聞こえる。思わず落としそうになるも、あわてて持ち直す。壊れでもしたら、弁償できない。

「お久しぶりです、シュタム様」

 彼とは学園の同級生で、クラスが違うがマリ先輩経由で話をしたことがあった。驚いたがなんとか返事をする。

『この度は姉が大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。今両親は留守にしており、両親に代わりお礼申し上げます』

「いいえ、シュタム様、お気になさらないでください」

 クレイハート家と比べたらコードウェル家なんて吹けば飛ぶ。木っ端微塵に。だって私が冒険者に、なんて言わなければ、マリ先輩はライドエル王国から出ることはなかったかもしれない。それを突かれて慰謝料なんて言われたらどうしよう。うん、興味本意で魔道具借りなきゃ良かった。

 しかし、格下の元貧乏貴族によくこんなに丁寧にお礼が言えるね、ご両親の教育方針なのかな。

『ルミナス嬢、ルミナス嬢にお願いがあるのです。姉の我が儘に少しお付き合い願えないでしょうか? しばらく冒険者をすれば姉も国に戻ると思うのです。姉は世間知らずな人です。伯爵家でなに不自由なく過ごした人。大変な生活を経験すればさすがの姉も戻ると思うのです。それまで、姉を守って頂けないでしょうか?』

 わあ、心配してる。私も思っていたことだよ。

「もちろんわかってますよ」

 そっとマリ先輩から離れて、聞こえないようにして話を続ける。

「私もシュタム様のお考えに同意します。私の出来る限りのことはしますので」

『ルミナス嬢、よろしくお願いいたします。ローズに代わってもらえますか?』

「はい。ローズさん、シュタム様が」

 薄い箱をローズさんに渡す。

「シュタム、何か言ってた?」

「姉を守ってくださいって」

 これ本当だし。

「本当に? すぐ帰るだろうからそれまで付き合ってくださいって言われなかった?」

 うん、鋭い。

 私はうーんと誤魔化す。

「ああ、マリ先輩、あの魔道具なんて言うんですか?」

「あれ、あれね」

 ローズさんが今もっている薄い箱。気になる。

「あれね、携帯電話っていうの」

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