受け入れ③
発熱
「あうぅ…ごほっ」
「熱が出てる。風邪かしら? 昨日汗かいたままにしたからよ」
額のリツさんの手が冷たい。
次の日、私は発熱した。前日の夕方あたりからおかしいおかしいて思っていた。食事の味がしなかった、いつも美味しいはずのスープの味が分からなかったし、何故か食欲なくて、おかしいと思った。久しぶりの発熱に、私は気持ちが付いていけず、ダウン。情けない、熱くらいで。起き上がろうとすると、リツさんが私をベッドに戻す。
「寝てなさい」
「でも、今日、薬草…」
「大丈夫よ。近くにしか行かないから」
「延期、してください…」
私が着いていけないのだ、戦力が激減。しかもアルフさんは昨日帰って来なかった。なんでも急ぎの仕事が入って徹夜らしい。今日の夕方には帰ると連絡が来た。なので、最大戦力のアルフさんもいない。ダメだ、ダメ。近くとはいえダメだ。
「ルナちゃんは心配性ね。大丈夫よ、一般の人でも行くような場所しか行かないから。大丈夫、すぐに帰ってくるから、寝ててね」
マリ先輩が冷たいタオルを額にのせてくれる。冷たくて気持ちいい。
「ルミナス様。お茶です。ウサギの角と蜂蜜入りです。飲める時に飲んでください」
「ローズさん、ごほっ、ありがとうございま、これを…」
私はマジックバックからナリミヤ氏のナイフを出して、ローズさんに渡す。
「アーサーに、これ…魔力はギリギリ絞って使うように…」
薙刀も出す。
「槍の初心者に何を貸し出してるの? 熱が高いのね、判断力が落ちてるわよ」
リツさんが呆れているが、念のためにアイテムボックスに入れてくれた。盾まで引っ張り出すが、誰も使えない。リツさんの言う通り、判断力低下してる。アーサーに、魔力絞ってなんて、まだ無理なのに。
「何かあれば、この呼び鈴を鳴らしてね。ホリィさんには、言ってあるから」
「はい…」
リツさん達が私の部屋を出ていく。本当に大丈夫かな?
ああ、いかん、眠気が、来た。
一眠りして起きて、ローズさんのお茶を飲む。喉に染み込んでいった。外で、賑やかな声が響く。
カーテンから外を覗くと、ルドルフが駆け回っていた。アンナとクララもだ。見守るホリィさんも、楽しそう。
アンナやクララを見ていると、どうしてもジェシカを思い出してしまう。胸がずきずきする。きっと熱のせいだ。
寝よう。
私はベッドに潜り込んだ。耳を塞いで。
再び目を醒ますと、汗をかいていたが、体が軽くなっていた。熱が下がったみたいだ。しかし、すごい汗。時間的に夕方近い。
「シャワー浴びよう」
リツさん達は帰って来てないみたい。何処まで行ったのかな? まさか、魔の森に入っていないよね。まさか、ね。
スリッパを履き、着替えをもつ。心配になりながら、階段を下りる。
「お、ルナ、熱は大丈夫なのか?」
風呂場の方からアルフさんが出てきた。肩にタオルかけて。仕事、終わって帰って来たんだね。
「はい、だいぶいいです」
「ならいいが。ルナ、何か着ろ」
「? 着てますよ」
パジャマ。マリ先輩デザインのキャミソールとゆったりとして、足剥き出しだが、動きやすいホットパンツ。
「そうじゃない、何か羽織れ」
アルフさんが額に手をおいて、視線を外す。
羽織れって、言われても、ガーディアンに汗をつけたくないし。
私は階段を下りる。
「はあ、後で、リツにしつけをしてもらわんとな」
「え。なんで?」
「お前なあ」
頭をかくアルフさん。
メエメエ
「肌を出しすぎだぞ」
そう? だって冒険者ギルドに足剥き出し、胸がこぼれ落ちそうな上着の人いるのに。
「あれは別、お前は特別、頼むからなんか羽織れ。アーサーだっているんだぞ。目のやり場に困る」
確かにアーサーには、刺激強いかも、純朴そうだったし。
メエメエ
「そうですね、アーサーには気の毒ですね」
私は薄っぺらいし、見てもがっかりだよね。
ぼそっと続けると、アルフさんはため息。
「いろいろ、自覚が足りん、どうしたものかな」
メエメエ
「さっきから、メエメエメエメエ、なんだ?」
メエ~
アルフさんの足元に、小さな白い生き物が。つぶらな黒い目、白い毛に覆われた小さな体、細い尻尾の先には白いぼんぼん。
「カラーシープの子供か? 何でこんな所におる?」
か、かわいい。多分、私が抱っこしても小さいカラーシープの子供。
ぼんぼんの付いた尻尾をフリフリしながら、アルフさんの足元にいる。
アルフさんが膝を付くと、後ろ足で立ち上がり、差し出され手をはみはみする、カラーシープの子供。
なつっこいな。
私も触りたいなあ。
ちょっと屈んでみて、私もそっと手を出すと、カラーシープも気がついたのか、とてとて、近づいて来て私の手をはみはみ。
か、かわいい。かわいい。
でも、何でこんな所に?
「ルナちゃん、ルナちゃん、なんて格好なの? 何か着て」
「あ。皆さん、お帰りなさい」
視線の先に皆さん勢揃い。
だけど何故か、アーサーの目をリツさんが両手で覆っている。なぜ? アーサーの顔色が離れた場所からも赤くなっているのが分かる。
「お帰りなさいじゃなくて、アルフさんッ」
リツさんの鋭い声。何事かとアルフさんを見ると、膝を付いた状態で私を凝視している。リツさんの声に弾かれるように立ち上がる。何事? 何事?
立ち上がったアルフさんが手で目を覆う。
「ルナ、頼むから、なんか着てくれ」
「ルナちゃん。早く早く」
「はあ、はい。あれ、マリ先輩、マリ先輩の後ろのはカラーシープの親ですか?」
マリ先輩とローズさんの間に、白いモコモコみたいのが見えた。
「あ、この子はね、ちょっとね」
マリ先輩が歯切れ悪く答える。
「ルナちゃん、大丈夫なの? 熱は?」
「はい、汗かいて、熱下がりました」
答えると、その時、マリ先輩の後ろからぴょこんと顔を出した。鷹の顔、体は獅子。
「なんで、グリフォンなんているんですかッ」
「ひ、拾った…」
「すぐに返してらっしゃいッ」
「ルナちゃん、早く、何か着てッ」
私とリツさんの叫びが屋敷に響き渡った。
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