閑話
閑話です。
私はマリーフレア・クレイハート。前世は日本の女子高生だった。飲酒運転の車に跳ねられ高校2年の春に死んでしまった。
思い出した時は確かにショックだったけど、優しく頼りになるお父様、厳しいけど本当は誰よりも愛情深いお母様、かわいい弟シュタム。いつもサポートしてくれるローズ、沢山の優しい使用人達に囲まれ私は幸せ。
前世の共働きで一生懸命働いていた両親や、しっかりもののお兄ちゃんやお姉ちゃん達、そしてお菓子作りの上手のおばあちゃん、元料理人のおじいちゃん。大好きな家族。
会えないのは寂しい、けど、今の家族も大好き。
前世の記憶がなぜあるか分からないけど、使わないと損、損よ。きっと役に立てるはずと、お父様にいろいろ言って見たら、はじめは相手にされなかったけど、必死にプレゼンしたわ。やっと聞いて貰えたら、再現に手間取ってたみたい。
そんな中、ナリミヤ様と出会う機会があり、お互いに日本人だと直感、ビビっと分かったわよ。でも、内緒にしてもらった。だって、気味悪いとか言われたり、今の家族に何があったら嫌だしね。
ナリミヤ様のアドバイスで、魔道具は飛躍的に発達し、比例してクレイハート家の財政も増えたらしい。いくらか分からないけど。
まあ、ジェイムズ様はね、はじめから、なんか引っ掛かることはあったけど、これはまた今度。
今はそんなことよりも、この、かわいい生き物よ。
「タスケテ」
お玉を握りしめて、見たことのないくらい、不安そうな顔のルナちゃん。
いつもあんなに余裕綽々なルナちゃん。ゴブリンの耳を平気な顔して切り落とし「これが出来ないと、戦闘許可出しません」なんて言っていたのをルナちゃん。学園でも、女の子なのに騎士みたいな礼をしていたルナちゃん。ナリミヤ様のお宅で、身を呈して私達を守ってくれたルナちゃん。
そんなルナちゃんが、お玉握りしめて青い目をぐらぐら揺らして訴えてきた。
かわいい、かわいい、かわいい。
シュタムだってかわいかったけど、最近生意気なのね。
前世は末っ子だったから、欲しかったねよ。
かわいい妹が。
学園でローズからもらった巾着のお礼のクッキーを食べた時から、ルナちゃんは私のストライクど真ん中だった。
だってだってだって。何でもないって顔してたのに、クッキーを口に入れたから、青い目を開いて、くうううぅぅぅ、みたいな顔したのよ、かわいいのなんの。あ、この子、私の妹にならないかな? なんて本気で思ったわ。でも、ルナちゃんはクッキーを一枚しか食べなかった。弟君と妹さんにあげたいって、なんていい子なの。で、めちゃくちゃかわいい。そんなルナちゃんが、助けを求めてきた。ここは答えたくてはならない、私はルナちゃんのお姉ちゃん(自称)なんだから。
リツちゃんもそんな感じで、すぐにルナちゃんの側に。多分、リツちゃんにとって、ルナちゃんはかわいい姪っ子ちゃんの位置かな。ルナちゃん、リツちゃんの作る料理を何でも美味しそうに食べるんだもの。すぐに、リツちゃんもルナちゃんのかわいさに落ちちゃった。
「何か足りない、分からない」
動揺しているかわいいルナちゃん。
鍋にはブラッディグリズリーのワイン煮込み。問題なさそうだけど、ルナちゃんは何か足りないらしい。
確かに高価なブラッディグリズリーのお肉だし、何よりアルフさんの好物らしいしね。
美味しく作り上げたいよね。
このアルフさん、かなり鍛治師として優秀。そして、何より格好いい。背丈はあるし、穏やかなイケメンだし、始めは槍なんて持っているから冒険者だと思ってたけどね。
うちのルナちゃんが、去ろうとするアルフさんの手を握るんだもの。ぴーん、ぴーん、ぴぴーん、と、来たわ。これは、一肌脱がなくては。すぐに、私、リツちゃん、ローズの連合結成。いまだに、作戦起動中。
でも、アルフさんにはみんな感謝している。だってルナちゃんを助けてくれた。ブラックトレントやブラッディグリズリーから守ってくれて、魔の森からルナちゃんを抱えて連れ帰ってくれた。知り合って間もないほぼ他人にそこまでしない、きっとアルフさんもルナちゃんが気になっているはず。ルナちゃんの話を聞いてそう思ったねよ。だって、普通「ルナもおるしな」なんて言わないわよ絶対。当のルナちゃんはちょっと鈍いみたいだけど、まあ、それはおいおい。
あ、鍋、グリズリーのワイン煮込み。うーん。どうしようかな、
「ケチャップ」
リツちゃん案。
「味噌」
私案。両方採用されました。
「あとは愛情よ」
その言葉に首を傾げるルナちゃん、考えて納得してくれていた。灰汁を採り、焦げないように時々鍋をお玉でゆっくりかき回す。何時間も。一人で。
無事にアルフさんの口に合ったみたいで良かった。ルナちゃん、グリズリーのワイン煮込みの前を行ったり来たりしてたしね。
「旨いぞ、ルナ」
アルフさんの好印象のポイントが上がっている、胃袋掴んだか? 浅いかな? いや、まず、初印象はよしよし。
どんな経緯か分からないけど、アルフさんも無事に冒険者登録したみたい。きっとルナちゃんだね。今度はじっくり聞かないとね。
まあ、アルフさんのステータスには、びっくりだった。よく、うちに来てくれたなあ。年がちょっと離れてるけど、人族にしてみれば、見たまんま二十歳くらいだろうし。なんとかなるでしょ。だけど、本職鍛治師ギルドが忙しいみたいで優先なのは、仕方ないよね。とにかく、私達との接点があれば、ルナちゃんが着いてきますよアルフさん。
水の日マルシェでお魚が売り出されるから、ルナちゃんにお留守番してもらう。もちろん、作戦ですよ。二人きり作戦ね。
でも、帰って来ても台所にはいない。どこかな、てなんとなく工房のドアを開けると、ルナちゃんの手を握るアルフさん。
あ、お邪魔ね。
私はドアは閉めて、リツちゃんとローズに報告して作戦に調整が必要になってくるかな。
あわててルナちゃんが誤解だって訴えてきたけど、ちゃんと分かってるわよ。照れ隠しだって。
さ、連合で、今後どうするか話を詰めないと。今度はどんな服にしようかな? 料理のレパートリーはリツちゃんに任せて、ルナちゃんの身支度はローズ担当。
うふふ、うふふ、楽しみ。
我らのルナちゃんの為に。
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