受け入れ準備⑦
聞いて
「だから、誤解なんですって」
「いいのよ、ルナちゃん、私、なにも見てないから」
マリ先輩が、とても優しい笑顔を浮かべる。
「違うって、違う違う」
「うふふ、いいのよ、ルナちゃん」
「聞いて聞いて、マリ先輩、聞いて。違うから」
うふふと優しく笑うマリ先輩。
後ろで、アルフさんがぼつりと呟く。
「そこまで必死に否定されるとなぁ」
ちょっと、アルフさん、黙ってて。きっ、と見ると、アルフさん困った顔。く、涙目だから、威力がない。
「うふふ、うふふ。さ、リツちゃん達に報告しなきゃ」
「何も見てないんじゃないんですか?」
「私の目は皆の目」
ちょっとマリ先輩、何を言ってるの? リツさんや、ローズさんにも、話す気だ。
「やめて、マリ先輩、恥ずかしいからやめて」
私は必死に言う。
「うふふ、分かったわ。明日に報告ね」
「お願いだから、聞いてマリ先輩」
私の訴えはとりあえず、承認された。
良かった。
台所に戻ると、リツさんと疲労の浮かんだローズさん。お疲れ様です。
「お帰りなさい。いい、お魚手に入りましたか?」
「ええ、いろいろね。夕飯は魚介料理よ」
やった、西京焼きだ。
「お米も手に入ったし、ちょっと下拵えして、ティラ商会に行きましょう」
ぴっ、と手を上げる。
「お手伝いします。しかし、捌けないです」
「儂、力仕事ならできるぞ」
「じゃあ、ルナちゃんはパン粉作ってね。アルフさん、ちょっと作って欲しいのが、あってですね」
リツさんはアルフさんに紙に書いた何かを教えている。
「まあ、できるだろう。炉、借りるぞ」
アルフさんは紙を片手に台所から出ていく。
大きな背中を見送って、なんだか、ちょっと、ほっとする。
二つのコンロはお米を炊いている。もう一つの鍋には卵。
リツさんのアイテムボックスから出る出る、魚が出る。エビにイカまで。
ちょっと台所が生臭い。いや、このお魚達は、美味しくなるのだ。
ガリガリとパン粉を削る。
リツさんが次々に魚を捌く。マリ先輩とローズさんはエビやイカを処理している。しばらくしてアルフさんが戻ってくる。なんだろう、あれ? 四角の部品が付いた棒だ。
「鱗取りよ、こうして」
リツさんが説明してくれる。多分鯛かな? 一抱えある大きさ。リツさんがその鱗取りを、キラキラ光る鱗に当てる。
ガリッガリッ
おお、硬い鱗が、面白いように取れる。
「すごいな。儂がやろう」
アルフさんが出される魚をガリガリ始める。
足元のお掃除魔道具がフル回転で、チョロチョロしている。
「骨で出汁が出るわね」
リツさんが魚を捌きながら、骨を野菜と一緒に煮ている。
「ねえ、ふりかけできないかな?」
マリ先輩がエビに粉、卵、パン粉の順に着けながら聞いている。
「そうね、出来るか分からないけど、やってみましょう」
リツさんが鮮やかに魚を捌きながら答える。
私はパン粉を大量に作り、ぴっ、と手を上げる。
「終わりました。次は何をしましょうか?」
「そうね。ゆで卵の殻剥いてくれる?」
「はい」
冷やされたゆで卵の殻を剥き剥き。
きっと、タルタルソースだ。
それから、昼近くまで、魚を処理。
やっとお昼ご飯です。
「シーフードグラタンよ。熱いから気を付けてね」
リツさんのオーブンから出し、並べる。
うわあ、美味しそう。
エビにイカに、これは秋によく家で食べてたサーモンのホワイトソースのグラタン。チーズ、乗ってます。パクっ
ぐわあっつうっ
めちゃくちゃ、あっつう。
エビ、美味しい、エビ、あっつう、美味しい。チーズが、チーズが、あっつう。
ふうふう、しないと。そうだよ、さっきまでオーブンに入っていたんだよね。熱いはずだよね。
ふうふう。
「ルナは、本当に旨そうにたべるな」
う、また、しげしげ見られた。
「美味しいですから」
だって、本当に美味しいですもの。
「あら、嬉しいルナちゃん。また、作るね」
リツさんが優しく言ってくれる。
「何でもお手伝いします」
キリッ、とスプーン片手に返事をして、リツさんにまた優しく笑っていた。
「サイズどうです?」
「ぴったりだ、もらっていいのか?」
アルフさんは三人の作ったブーツを履いている。私達のショートブーツより、ちょっとごついけど、おしゃれだ。デザインはローズさん。
「あれだけのお肉頂いたから、これくらいしないと」
リツさんがブーツをチェックしながら言う。マリ先輩は心配そうに聞いている。
「重くないです? 鉄板入ってますけど」
「問題はないぞ、これくらいなら。これなら、攻撃にも使えるな」
ゴブリン一撃ですよ。
そういえば、ちょっと気になっていたこと聞いていいかな。悩んでいると、マリ先輩が聞いてくれる。
「アルフさんって、遠征のとき、鎧とか着たりしたんですか?」
「いや、着ないな」
「でも駆り出されたって」
「まあ、儂は後方支援だからな。何より、サイズがなくてな」
だよね、その背丈なら、通常のドワーフサイズはツンツルテンだよね。それから新しく作ったシャツやカーゴパンツが出てくる。アルフさんは遠慮していたが、作ってしまったからと、押し付けられていた。
ホリィ一家とアーサーの衣服をチェックして、ティラ商会に出発。
門番は以前と同じ二人。直ぐに応接間に案内される。
ティラ氏が挨拶に来て、ホリィ一家とアーサーが連れてこられる。
「「リツ様」」
アンナとクララが、リツさんに駆け寄る。当然のようにしゃがんで抱き止める。
「こら、アンナ、クララ」
ホリィさんがルドルフを抱えて、幼い二人を離そうとするが、リツさんは笑顔で答える。
「大丈夫ですよ」
「リツ様、クララ達はいつ、リツ様のおうちに行くの?」
クララがリツさんの服をちょいちょいと引く。かわいいなあ。
「来週よ。今日はお洋服と靴持って来たから、ちょっと着てみてくれるかな? 後ね、家にはもう一人いてね。あの人よ、アルフさん。優しい人だからね」
リツさんが、壁に寄りかかっていたアルフさんを示す。
ちょっと硬い表情のアンナとクララ。アルフさんもしゃがんで声をかける。
「儂はアルフだ、よろしくな」
優しく言うが、アンナとクララは答えない。まあ、暴力をふるっていた父親のせいだね。
「アンナ、クララ、ご挨拶なさい。申し訳ありません旦那様」
ホリィさんの言葉に、何故か、チクリ、とする。
「儂は居候だ。畏まらんでくれ。大体の事情は知っとる。なるべく、近づかんようにする。リツ、儂外で待っとるから」
アルフさんが立ち上がる。
「お前がアーサーか?」
「あ、はい。そうです」
リツさんをチラッと見てうつ向いていたアーサーに、アルフさんが声をかける。
「男同士仲良くやろな」
「はい、お願いします。アルフ様」
「儂は居候だ。様、着けんでくれ。ルナ、後でな」
「はい」
そう、アーサーに冒険者の話をしなければならない。
私が言い出したのだ。
アルフさんが応接間を出たあと、試着会が始まる。ワイワイガヤガヤと試着。アンナとクララはお揃いの薄茶のワンピースを気に入ったようだ。チョキチョキしたもんね。
ホリィさんは濃紺のメイド服に白のエプロン。よく、似合う。ルドルフはお昼寝しているので、延期される。
アーサーはシャツにベスト、ズボン、靴、サイズいいみたい。うんうん、なかなか、顔立ちがいいから品よく見える。
「どう、アーサー君、きついとかない?」
「はい、大丈夫です」
リツさんが聞くも、直視できないアーサーの顔が赤くなる。
かわいいが、ちょっと急いでもらわないと。アルフさんが外で待っているし。
「リツさん、アーサーを借りてもいいですか?」
「ええ、いいわよ。アーサー君、ルナちゃんよ、ちょっと話をしてもらえるかしら」
「はい」
私は試着を終えたアーサーを連れ、外に出る。
アンナとクララの試着が未だに終わってない。まだ、小さいからね。とにかく楽しそうだ。
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