受け入れ準備⑥
朝ごはん
心配だが、三人を見送り、私は台所に入る。
私とアルフさんの朝ごはん確認だ。コンロの上に鍋。あ、ポトフだ、リツさん特製腸詰め入り。マリ先輩特製の食パンもあるし、分厚く切って軽く焼いてもいいな。あ、食パンの横に冷蔵庫にジャムありますのメモが。確認っと、リンゴのジャム、オレンジジャム、ブルーベリージャム。よし、全部出そう。
お湯も沸かしておこう。
慣れないためにわたわたしたていると、ちりんちりんと呼び鈴がなる。
アルフさんだ。
お出迎えしないと。
「アルフさん、いらっしゃい」
「ああ、ルナ、お邪魔するよ」
伸びた髪を縛ったアルフさんを台所までご案内。
「マルシェの前を通ったが、すごい人だったぞ。リツ達は大丈夫か」
「ローズさんがいるから、大丈夫、かな?」
「疑問系だな」
私は鍋の乗ったコンロに火をつける。
「アルフさん、食パン、厚い方がいいですか?」
「食パン?」
「これです」
そうか、食パンなんてクリスタムでは、まだ知られてないし、アルフさんに山型の食パンを見せる。
「へえ、初めて見るな」
アルフさん、興味深そうに覗き込む。
なんで私の肩越しなんだろう?
まあ、背が高いから仕方ないのか。しかし、近い、近いって。
「好きな厚さに切って食べるんです。そのままでもいいですけど、軽く焼くのが好きで」
「ルナに任せる。何か手伝うか?」
「えっと、座っててください。すぐに出来ますから」
アルフさんを座ってもらい、食パンを厚めに切って。オーブンに入れる。ポトフをよそって、お茶入れて、ジャム出して。よし、オーブンからいい感じに焼けた食パンを出す。アルフさんは二枚、私は一枚。
「どうぞアルフさん」
ジャムの説明もして、いただきます。
リンゴジャムを塗って、食パン一口。サクッ。うん、焼いた所が香ばしく、中はふわふわ。ジャムも甘くて美味しい。
「柔らかいパンだな」
でしょう? マリ先輩の食パンは美味しいのよ。サンドイッチにしても最高なんだよ。もくもく。
「ルナ、ジャム着いとるぞ」
「はむ?」
食パンにかぶりついていると、アルフさんが口元のジャムを親指で脱ぐってくれる。また。やらかした。そのまま、アルフさんはその親指ペロリ。
……………ん?
あ、ポトフ食べよう。じゃがいもほくほく、腸詰めはプリッとして、あれ? あ、あれ?
なんか、味がわからなくなる。
顔に血がのぼる。
多分、アルフさんに深い意図なんてないだろう。リツさんみたいに、口元を拭いてくれただけだ。そうだ、そうだ。
しかし、恥ずかしいと思うのは、私がおかしいんだろう。そうだよ、私、脳筋だから、おかしいのだ。
「どうしたルナ?」
「なんでもないです」
アルフさんが聞いてくるが、私は情けなく小さな声しか出なかった。
味がよく分からなかった朝食を終え、私は皿を片付ける。
アルフさんは包丁を研いでいる。さすが、手際がいい。
たいした量の食器ではないので、あっという間に終わる。
…マリ先輩達、早く帰って来ないかな。
なんとか、間を持たせないと、あ、そうだよ。
「アルフさん、剣、見ます? ナイフはローズさんが持ってますが」
約束していたしね。丁度いいかも。
「そうだったな」
「台所では、あれなんで、工房で」
工房に移動し、テーブルに二代目をマジックバックから出す。
「触って大丈夫か?」
「どうぞ」
アルフさんは手に取り、鞘からスラリと抜く。
赤い目を細め、真剣な表情で、見つめている。
「素晴らしい拵えだな。アダマンタイトが入っているようだな」
さすが鍛治師。見ただけで分かったみたい。
「付与も、あるな。火となんだ?」
本当に優秀な鍛治師なんだね。付与まで見抜いている。しかも二種あることに気がつきているし。まあ、ばれているなら、隠してもしょうがないか。
「風です」
「そうか、魔力流しても大丈夫か?」
「いいですが、絞って流してください」
「分かった」
アルフさんは、魔力を絞って流している。軽く刃のない方に指を走らせる。なんだろう、格好いいな。
「芯にミスリルか、豪華だな」
「そうらしいですね。いただきものですが」
「いただきもの?」
アルフさんが剣から顔をあげる。
「これを?」
「そうです」
「鞘も、この革、ワイバーンじゃないか?」
「よく分かりますね」
ため息をつくアルフさん。
「あのな、ルナ。この剣な、普通手に入らんぞ。拵えだけもすごいが、この付与、ただの補助ではなかろう? それ以外にも何かついとるようだし」
「そうです、本当によく分かりますね」
私はただただ感心する。ちょっと魔力を流しただけで、ここまで分かるなんて。
アルフさんは剣を鞘に納め、私に渡すそうと、差し出す。
「誰からもらったか、予想は付くがな。ん? ルナ」
二代目を受け取ろうとした、私の手をアルフさんが掴みしげしげと見る。
「な、何ですか?」
あまりにも見るので、私が手を引くもびくともしない。
ちょっと、恥ずかしいというか、なんというか。ちょっとだけ、嬉しい、いや、違う違う。違う。
「あの、アルフさん?」
「ルナ、お前、剣胼胝あったよな? なくなっとるが」
あ、なんだ、そんなことか。
「治ったんです。エクストラヒールで」
「はあ? エクストラヒールだと」
「そうです、その影響で古傷まで綺麗になくなって」
アルフさんの顔が徐々に厳しくなる。あれ、どうしたのだろう。あ、エクストラヒールなんて、言ったからだ、あ、ヤバイ、口がすべった。
「エクストラヒールが必要な程のケガをした、というのか?」
「あの、それは…」
私はごもごもと、口ごもる。
手を引っ込めようも、アルフさんは離してくれない。
「ナリミヤ殿絡みか? こんな剣、簡単に譲り渡すわけない。ルナ、一体何があった?」
アルフさんが聞いてくるが、私は答えられない。そんな事出来ない。リツさんの事も話さなくてはならなくなるからだ。
「私、言えない、です」
「ルナ」
じっと見つめられて、手を離さしてもらえず、私は身を固くする。
しばらくして、アルフさんがため息をつく。
「そうか、分かった」
え?
「言えないなら、仕方ないな」
「聞かないんですか?」
あまりにも理解ある、いや、諦めてるのが早いのか、興味ないのか、アルフさんは引いてくれる。手、離してくれないかな? 汗、かいてきたし、恥ずかしいし。
「話してくれるのか?」
「それは、できないけど」
「なら、聞かん。聞かん代わりに、この剣に付いとる付与、教えてくれるか?」
それなら、いいかな。
「中の火、風魔法強化と自動修復、衝撃斬波、衝撃吸収です」
「…そうか。ルナ、言っとくが、この剣な、普通騎士団なんかの将軍クラスが持つもんだ。パッと見、分からんかも知れんが、あまり人に見せるな」
あ、やっぱり。
「はい」
素直に頷いておこう。手、離してくれかいかな。
ガチャ
工房のドアが開く。
あ、マリ先輩。
数秒、沈黙。
「あ、ごめんなさい。お邪魔でしたね」
そそくさ、とマリ先輩がドアを閉める。
あ、手、握られたままだ。
私はあわててマリ先輩を追いかけたのは、言うまでもなかった。
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