受け入れ準備⑤
個人差
「アルフさんは、あの一式を4、5日で仕上げるんですか?」
只今、商人ギルドの掲示板の前。次、いつ、魚が転移で輸送されるかのチェックをリツさんとマリ先輩がしている。
アルフさんが鍛治師ギルドで聞いてくれていた。
商人ギルドで見た方が早いとの事だった。
なので早速商人ギルドに来た。
「まあな、3日だと、意識飛ぶから、今は4日以上かけてしている」
「意識飛ぶって」
私は言葉を失う。
「今はそんなことはせんよ。ギルドマスターにこっぴどく怒られたからな。だが、リツ達に少しでも手伝ってもらえるなら有難い」
「…私、何も出来ない」
なんだか、すごく申し訳ない気持ち。
「仕方ないさ、こればかりは個人差があるからな」
「個人差?」
なにそれ?
「そうさ、付与に関してだけだかな。魔法はスキルレベルや魔力感知を上げて、呪文や術式をある程度理解できていれば使うるだろう? 付与はいくらスキルレベルを上げようが、自身のレベルを上げようができんものはできん。何故かは不明だがな。しかも、種類も個人差がでる。儂は金属は得意だか、革なんかはほとんどつかん。着けるにしても、何倍も魔力を消費する」
「そうなんですね」
初めて知った。
そういえば、ショートブーツに付与していた時、あんまり消費してなかった。
て、事は、私は基本的に付与は役に立たないのね。なんて、思っていると、マリ先輩がルンルンで戻って来る。お花、飛んでます。
「お待たせルナちゃん。お魚、次の水の日だってら。うふふ、何が食べたい?」
「えっと、西京焼きが食べたいです」
あの味噌を使ったソースが美味しいんだよね。
「分かったわ、任せてね」
マリ先輩の笑顔がまぶしい。
「さ、帰りましょう」
リツさんも笑顔。かわいいなあ。
屋敷に帰る途中でアルフさんが、聞いてくる。
「水の日なら、儂、来る時間ずらそうか?」
そう、月に二回の貴重な魚を手に入れる機会のため、朝イチに行かなくてはすぐに売り切れると。何でも転移の費用の一部を辺境伯が補助を出しているため、一般市民でも手にはいる額らしく、毎回大盛況と。もちろん朝イチで行く気満々なリツさんとマリ先輩。
「大丈夫ですよ」
「ルナちゃんにお留守番してもらいますから」
リツさんとマリ先輩が答える。
「ダメでしょ、すぐどっかに行くんだから」
私がバッサリ切る。
この二人、マルシェで気になるものがあると、左右にパーッと散るのだ。多分すごい人混みだろう、迷子必至だし、変なのに絡まれたりしたら大変だ。
「大丈夫ですよルミナス様、お二人には手を繋いでいただきますから」
ローズさんがそう言う。あ、マリベールでも同じ会話したな。アルフさんが少し呆れてる。
「これじゃ、どっちが保護者か分からんな」
「アルフさんも一度経験してみるといいですよ」
「遠慮しとこう。兄貴達のちび達で似たような目にあっとるから」
遠い目のアルフさん、なんだか寂しそうだが、やっぱり故郷が恋しいだろうね。
「一斉に五人ともいなくなって、血の気が引いた」
うわあ、大変だ。
そんな話をしていると、屋敷に到着。
当然のようにリツさんはアルフさんを夕食にご招待。
「いや、昼もご馳走になったし」
「どうぞ、食べていってください。アルフさんから頂いたグリズリーのお肉を焼きますから」
今日もご馳走だ。
「さ、ルナちゃん、作りましょうね」
私はリツさんとフリフリエプロンを装備し、台所に立っている。
なぜ私が?
アルフさんは、マリ先輩とローズさんに工房に連行された。アルフさん用のブーツを作るようだ。抵抗虚しく連れて行かれた。
「さ、まずは野菜ね」
仕方ない、こちらも諦めて従います。
キャベツやニンジン、筋を取ったインゲン豆を切る。
次にブラッディグリズリーのモモ肉登場。キャベツと同じくらいの大きさに切って、と。こんなものかな?
味噌や砂糖などの調味料をあらかじめ合わせる。
野菜と肉は別に炒めて、合わせて調味料を入れて軽く合わせる。
リツさんのアイテムボックスから出した熱々ご飯の上に、のせて、胡麻をぱらり。アルフさんは大盛。
おお、いい匂い。
野菜のスープを添えて、うん、いい感じ。
アルフさんがマリ先輩に連れられ台所に入って来た。
「いい匂いだな」
「どうぞアルフさん」
アルフさん用のスプーンを出す。
「いただきます」
ご飯とお肉とキャベツを一緒にぱくり。
うん、お肉の旨味にキャベツの甘味に、調味料のちょっぴり辛味、合わさってとても美味しい。
「これは米か、こんな風にして食べてもうまいな。粥くらい食べたことないが」
「ルナちゃんが作ったんですよ」
リツさんや、アルフさん誤解するから。
「切って焼いただけですよ。リツさんが教えてくれました」
「そうか、うまいぞ、ルナ」
ほら、誤解した。
マリ先輩もローズさんも、美味しいって言ってくれた。嬉しいな。
結構な大盛だったが、アルフさんはきれいに平らげた。良かった、良かった。
「ご馳走になってばかりで、すまんな」
「いいえ、グリズリーのお肉はアルフさんのものですからね。明日からお昼にお弁当お持ちしますから。ルナちゃんが」
リツさんが帰るアルフさんと話をしている。そんな話になりましたよ。
「三人作るのも、四人も一緒ですよ」
「本当にあの家賃でいいのか?」
「はい、大丈夫ですよ。これから、鍛冶や冒険者として、いろいろお願いしたいし」
「儂でできることなら、何でも手伝うからな」
じゃあな、と、アルフさんは槍の穂先に火を灯す。便利だな。
皆でアルフさんに見送った。
水の日まで、ホリィ一家とアーサーの上着やガーディアン、下着を製作。アルフさんの靴も無事できた、予想していたが、デカイなあ。付与は同じものだ。ただ爪先と靴底に薄い鉄板を入れて攻撃力アップ。魔鉄を含んだ鉄板には小の自動修復、硬化強化を付与。立派な武器だよ、こんなので蹴られたら、ゴブリンくらいなら仕留められるだろう。この鉄板を作るのに随分大変だったようだ。出来たとき、ハイタッチしていたから、相当嬉しかったんだろう。
私はせっせと、鍛治師ギルドと屋敷を往復。お弁当の配達ですよ。魔の森に行きたかったが、三人に静止された。ご飯削ると言われたので、引きました。
今日のお弁当はマリ先輩特製のロールパンに様々な具が挟まっている。卵サラダ、ポテトサラダ、ハムとレタスが綺麗に挟まっている。ラタトゥイユにカボチャのミニグラタン、ブラッディグリズリーの野菜巻き。見た目も美しい。いつも必ずおじいちゃんドワーフ、ダビデさんに捕まり、アルフさんが呼ばれ、手渡し。そこで、前の日の空のお弁当箱を受け取り帰る、もしくは冒険者ギルドで無料講座を受けて帰る。数日のちに水の日になった。
朝早くから、リツさん、マリ先輩、ローズさんに出陣準備完了。
「本当に気をつけてくださいよ」
私ははらはらしながら、三人を見送る。私は念のためにナリミヤ氏のナイフをローズさんに渡しておいた。
「じゃあ、行ってくるね」
私の心配をよそに、明るく笑って、マリ先輩が笑顔で手を振って出発した。
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