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冒険者②

テンプレート?

 後ろでマリ先輩が「ルナちゃん、やり過ぎ」という声が聞こえるが、今は聞こえない振り。

 冒険者ギルドの地下訓練場に移動したあと、模擬刀を使った模擬戦。

 始まる前までに十分、身体強化しましたよ。

 そしてあっという間に男を叩きのめし、途中で参戦した男も叩きのめし。残ったのは、私の異変に気づいていた1人。その残った1人に笑顔を向ける。

「おじさんも遊んでくれるの?」

「ひっ」

 私の「ねえ様こわい、きらい」スマイルで、完全に怯えている。

 足元で模擬刀を握ろうとしている手を、ギリギリと踏みつける。威勢のよかった男の口から潰されような声しか出ない。

 心配してついてきた少年達まで、引いている。

「ねえ、おじさん、まだ遊んでくれるんでしょう? ねえ」

「ま、待ってくれ。すまない、すまない、勘弁してくれ」

 残った1人が必死に声を上げる。

「あら、もうおしまい?」

「頼む勘弁してくれ。もう、お前達に関わらないから」

「そう、さよならおじさん」

 残った1人は、後から参戦した男を立たせ、もう1人に肩を貸し立たせて逃げるように地上への階段に向かうも立ち止まる。副ギルドマスターが立ち塞がっていたからだ。

「あなた達、少しよろしいか?」

 穏やか表情を浮かべる副ギルドマスターに対して、男達は絶望的な表情。男達の返事を待たず、現れた数人の男性ギルド職員に連行されていく。

「もうルナちゃん、やり過ぎだよ」

 連行されていく男達を見送ると、マリ先輩が声をかけてくる。

「そうですか?」

「そうだよ。逆恨みしてルナちゃんにまたちょっかいかけてくるかも知れないよ」

 ああ、そうなるかも。まあ、そうなれば人気の無いところに誘い込み、いろいろ刈り取ればいい。後ろで見ていた少年達が「あいつ、顔がこわい」と囁いてる。

「その時は、その時ですよ。あんなのに遅れを取ることはありません」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

 マリ先輩を安心させるように、私は笑う。もちろん可愛い笑顔で。まあ今回あんな蹂躙劇になったのは一重に身体強化のお陰だ。レベル的には私とあの男達とは変わらないだろうが、純粋に力だけでは敵わない。向こうも身体強化したら、勝てなかったかも知れない。

「それより、今日はマリ先輩とローズさんの動きをチェックします」

「えっ、疲れてない?」

「まさか。ちょうど体が温まりましたよ」

「ああ、そう」

「ローズさんもいいですか?」

「はい、問題ありません」

 硬い表情でローズさんも頷いた。

「ああ、私、剣を持つと人が変わるらしいので、始めに言っておきますね」

 その言葉に、ええ~とマリ先輩が呟いた。


「そんな大振りだと脇を斬られるぞっ、そこ、動きが硬いっ」

「ひーっ」

 マリ先輩が悲鳴を上げる。ローズさんも必死に無言で模擬刀を振るう。

 何故か4人の少年達まで並んで模擬刀を振ってる。

「バランスがなってないっ、腕の力だけで剣を振るなっ」

「「「「ひーっ」」」」

 少年達も悲鳴を上げる。

 ビシビシバシバシ。

 ビシビシバシバシ。

 マリ先輩は大振り、ローズさんは動きは硬い。少年達はまあ剣に振り回されてる感じだ。

 ビシビシバシバシ。

 ビシビシバシバシ。

「脇を締めろっ、踏み込みが甘いっ」

「「「「「ひーっ」」」」」

 動きをチェックしたが、マリ先輩には剣は危ない。あれでは自分の足を切りつけてしまう。ローズさんは几帳面な動きで硬い。しかし、今日の助言でだいぶ動きが良くなっている。筋がいい。

 少年達は省略。

 しばらくして訓練場には倒れ伏した6人。

「マリ先輩に剣は危ないので、杖かメイスにしましょう。ローズさんはこのままで、って聞いてます?」

 力なく返事を返すマリ先輩とローズさん。

「あの、俺達は?」

 少年の1人が、顔を上げずに聞いてくる。3人の男達に絡まれた時に声を上げた少年だ。男だしきっとまだ行けるだろう。

「そうだな。よし、今からは模擬戦を」

「「「「結構です」」」」

 おう、ハモった。

 全員が動くまでに時間がかかった。その間に水をもらってきたり、それを飲ませたりした。

「ありがとうございました。姐さん」

「「「ありがとうございました、姐さん」」」

 少年達は丁寧にお礼を言って、よろよろと帰って行った。ちょっと待て、姐さんって何? まあ、いいか。前世を含めたら結構な年だし。

「お二人とも立てます?」

「ルナちゃん、変わりすぎ、鬼教官みたい」

 それ、前世の愛称です。

 起き上がるマリ先輩に手を貸す。

「治癒の術は明日筋肉痛に使ってください。自然回復力を鍛えないと」

「鬼~、筋肉痛確定じゃん」

「はいはい、お詫びにおんぶしてあげますよ」

「自分より小さいルナちゃんにそんなことさせられないよ」

 よいしょと立ち上がるマリ先輩。ローズさんもなんとか立ち上がる。

「まあ、指導をお願いしたのは確かに私だけど、ちょっと手加減してほしいな」

 ぷくっと口を尖らせるマリ先輩。はいはい、可愛いから手加減しますよ。多分。

「考慮します」

「お願い実践して」

「はいはい」

 本当にお願いよ、と念押しするマリ先輩。

「私はこのままでお願いします」

「えっ? ローズ本気?」

 驚いた様にローズさんを振り返るマリ先輩。

「はい、私は実感しました。実力不足を。なのでルミナス様、今後も宜しくお願いします」

 お、根性あるな。

「ローズ、大丈夫なの?」

「はい、大丈夫ですマリ様」

 心配するマリ先輩に、大丈夫だと言い張るローズさん。そんな2人を連れ階段を上ると、副ギルドマスターが待っていた。

「お帰りですか?」

「はい、そうですが」

「少し、お話があるのですが」

 私に? きっとろくなことない。

「私はまだ冒険者ではありません。未成年ですよ。まさか、さっきの連中のことですか?」

「いいえ、そうではなく」

 ガイズの町のことで、と小声で言われ、私は眉を跳ね上げる。

「わかりました。ただ、彼女達を宿に連れ帰ってからでよろしいですか?」

「はい、構いません」

「ちょっと待って、そうしたらルナちゃんが帰る頃真っ暗だよ。駄目だよ」

 優しいマリ先輩が、待ったをかける。

「大丈夫ですよマリ先輩」

「駄目、駄目。ルナちゃん未成年よ」

「帰りは私がお送りしますよ」

「ほら、副ギルドマスターもこう言ってくれてますし」

「じゃあ、今からお話したら? 待ってるから」

 心配するマリ先輩。ウーン、暴漢くらいなら撃退できるけどなあ、しかも今の私は未成年。今の私に手を出したと分かれば、一発で奴隷落ちだよ。そんなことを思っているとローズさんが助け船を出してくれる。

「マリ様、私達が待っているとゆっくりお話できません。帰りは副ギルドマスターにルミナス様を送っていただけるのです。何の心配もありません。今日は帰りましょう」

「う~分かった」

 しぶしぶ頷くマリ先輩。

「では、後で」

 見送る副ギルドマスターに会釈して、冒険者ギルドを後にした。夕方直前の時間帯、帰る間はみんな無言で、20分程で春風亭に着いた。2人を部屋に戻すと、マリ先輩はすぐにベッドに倒れ込む。

「私はすぐに冒険者ギルドに戻ります。何時になるか分からないので、先に休んでくださいね。食事もちゃんと取ってください」

 ベッドのマリ先輩はくぐもった返事を返した。あれは寝るな。ローズさんは部屋の入り口で見送ってくれる。

「お気をつけて」

「ローズさんも休んでくださいね」

「はい」

 私はローズさんに見送られて、再び冒険者ギルドに向かった。


 本日2度目の冒険者ギルド。もうすぐ報酬を受け取る窓口が閉まるのか、長い列ができていた。副ギルドマスターの姿は見えない。さあ、どうするか、とりあえず依頼板でも見てますか。

 常時依頼。クロエ草5束 500G ライモ草5束1000G ホウリン草5束 2000G ゴブリン5体で2000G 討伐部位右耳。左耳は対象外。

 まずはここら辺だね。箱入り娘の伯爵令嬢とメイドさんに、ゴブリン退治は早いよね。明日は朝早くギルドの馬車で移動、帰りは徒歩でもいいかな。薬草をある程度摘んだら、魔法の試し撃ちしよう。つらつら考えていると、昼間の受付の女性が声をかけてきた。

「どうぞ、こちらへ。副ギルドマスターがお待ちです」

 大人しく女性に続く。少し奥の部屋に案内されると、中で副ギルドマスターが待っていた。中に入るとソファーに促される。素早くお茶が準備される。でもローズさんの淹れてくれたお茶の方が美味しそうだ、何故って? 香りだよ。

「お待ちしておりました」

「なるべく手短にお願いします」

 警戒心を隠す事なく感情を露にする。ガイズの町は首都マリベールの前に訪れた。そこの冒険者ギルドでトラブルがあった。

 私はガイズの町では教会で寝泊まりしていた。教会の人達とそこの孤児院の子供達は、とてもよくしてくれた。多分、台所事情は厳しいだろうに、私にまで食事を分けてくれた。少しでも恩返ししたくて、キリングボアと言う魔物を狩った。この魔物の皮は革鎧、牙や骨は工芸品や矢尻等に使用される。そして肉が美味しい。なんとか狩って子供達とキリングボアを大八車に乗せて冒険者ギルドに持ち込んだ。そこそこの大きさで、肉にしたら、孤児院の子供達だけでも何日分にもなるし、保存用に燻製肉にすればかなりの量になるはずだった。小型の鳥や兎なら私でも解体できるが、大型はさすがに1人では出来ず、冒険者ギルドに持ち込んだ。肉は柔らかいところを戻してもらっても、皮や牙、骨だけどもそこそこいい値がするはずと思ったら、渡されたのは臭いスジ肉と僅か2000G。

 かちん、ときた。

 多分私が子供だと足元を見たんだろう。対応した受付嬢は、にやつく顔で、さも当然の様に言い放つ。

「皮は傷が多いし、骨はすかすか、牙も使い物にならないそうです。肉も腐敗していて食べられる部位はそこだけです。解体手数料を引いてその額でもかなり考慮されたものです」

「手前はなめてるのか?」

 ぶちんときた私は、受付嬢の襟を掴むと締め上げる。

 目を見開きくぐもった悲鳴を上げる受付嬢、そして騒然になるギルド。

「一撃で仕留めたのに傷が多い? 仕留めて間もないのに腐敗? しかも明らかにこれはボアの肉じゃあないだろ」

 冒険者の1人が、掴みかかろうとするが、失せろと一喝。

 私の迫力に、たじたじと下がる冒険者を一瞥。

「おい、なんとか言え」

 ギリギリと締め上げる。受付嬢はまさかこんなことになると思わなかっただろう、目を白黒させてる。

「なんの騒ぎだ」

 そこに駆けつけたのは、ガイズのギルドマスター。私はその足元に臭いスジ肉を叩きつける。気絶しそうな受付嬢の襟を離すと、受付嬢は激しく咳き込む。ガイズのギルドマスターはそれを見て声を荒げる。

「ここは冒険者ギルドだぞ、職員に手を出せば。どうなるか」

 はん、と鼻で笑う私。

「なめた真似をするからだろう? その臭いスジ肉をボアの肉と誤魔化す奴等に払う敬意はない」

 それを聞いてギルドマスターに戸惑いの表情が浮かぶ。

 更に銀貨2枚、2000Gを放り出す。

「キリングボアの皮と牙がたったそれだけ? どれだけなめてるんだ? ずいぶんとクリスタム王国の冒険者ギルドは質が悪いな」

「ち、違います、ギルドマスター…」

 なんとか声をあげる受付嬢に締めるぞと言って黙らせる。ギルドマスターは臭いスジ肉と銀貨を拾い上げる。

「キリングボアを持ち込んだ子供はお前か?」

「そうだ」

 臭いスジ肉を見るギルドマスターの顔が険しくなる。

「これはボアじゃない、ウルフの肉だな」

 だろうね。匂いからして。

 それからギルドマスターの動きは速かった。談笑していた解体職員を召集し、ウルフの肉を突きつける。素知らぬふりをするが、調べれば足がつくのは目に見えてる。キリングボアが持ち込まれたのは、久し振りのはず。皮や牙は需要が高く、どこも品薄、ガイズの冒険者ギルドにはストックがなく助かったと、直接言われたのだ。解体職員は牙や骨は使い物にならないからと破棄したととぼけていたが、別の職員が倉庫の奥に隠されていた牙を見つけ出しようやく諦めた。肉や皮や牙を個人で売り払い、その金を懐に入れようとしていたと、当然受付嬢もグル。

 すでに肉は大部分売り払われるか、解体職員が食い散らかしていた。

 当然ガイズのギルドマスターは激怒。職員の不正はご法度。ギルドの信頼を潰したことは、他のギルドの面子まで潰すことになる。ここのギルドだけの問題ではないのだ。持ち込んだ魔物の横領、依頼料の着服。冒険者の生活を守るべきギルドが、絶対にやってはいけないことだ。普通に犯罪だ。

 ギルドマスターは受付嬢と解体職員を倉庫に押し込め、兵を呼んで引き渡した。受付嬢も解体職員も何か喚いていたが、ギルドマスターは無視。

 私はそれからギルドの来客用の部屋に通される。

「我が冒険者ギルド職員が無礼を働き申し訳ない」

 見た目子供の私に深々と頭を下げるギルドマスター。うん、ちゃんとしたギルドマスターだね。でも、そんなことはどうでもいい。肉だ、ボアの肉。せめて子供達にお腹いっぱい食べさせたいと思っていたのに。

 ギルドマスターは迷惑料と皮や牙、骨の正規の買い取り料金を払うことと、ボア肉の代わりは鹿系やオークの肉を、持ち込んだボア肉と同じ量になるように孤児院に渡すことになった。交渉し迷惑料はいいから肉を増量してもらうこととなった。肉は一度ではなく、数回に分けてもらった。最後に首都に向かうチケットも手に入れた。今日最後に出る馬車だ。ギルドマスターから金貨の詰まった小さな麻袋を受けとる。皮が20000、牙が50000、骨が15000。合計85000。何故か金貨10枚入っていた。まあ、ギルドからの気持ちかと受け取っておこう。職員に見送られて冒険者ギルドを後にした。教会に戻り肉の件を伝えると、しきりに感謝されたが、こちらがお礼を言わないといけないのだ。挨拶し、馬車の出発時間があり、あわてて馬車の停留所に向かい、馬車に乗り込んだ。わざわざ子供達は町の門まで来て手を振って見送ってくれたのは、5日前の話。情報が早すぎる。何かからくりがあるだろうが、今はいい。

「そうですね。まず、ガイズの冒険者ギルドでの不手際、不在のギルドマスターに代わり謝罪します」

「そんなに簡単に謝って、いいんですか? この国の本部でしょここ。そこの冒険者副ギルドマスターでしょう?」

「それだけだけのことをしたのです。信頼で成り立っていると過言ではありませんからね冒険者ギルドは」

 横領、着服した受付嬢と解体職員はギルドを除籍の上に軽犯罪の犯罪奴隷に落ちたと。へぇ、ギルドからの除籍は当然として、てっきり罰金位かと思っていた。

「結構重いですね」

「ええ、ギルドの顔に泥を塗ったのです。彼らの行為はすべてのギルド職員に対して、そして長い時間を築いた信頼、本来の設立理念に反します」

 静かに続ける副ギルドマスター。

「本当に、申し訳ない」

「はあ、もういいですよ。キリングボアの皮とか高い値段で買い取ってもらえたし、肉の配慮もしてくれたし」

「それでは足りませんよ、本来はね。ギルドマスターと話し合い、正式に慰謝料をお支払することになりました」

 差し出されたのは、ガイズでもらったより明らかに大きな麻袋。

「…口止め料?」

「今回のことは秘匿するつもりはありません。余罪もあるようなので、すべて揃えば、公表する予定です。それまでは、お願いします」

 まあいいか。いずれ冒険者ギルドに登録する時のために、恩を売っても悪くないかな。では、麻袋を受けとる。うん、30枚は入っている。

「ところで、未成年とお聞きしましたが、どちらから?」

「話が以上なら失礼したいのだか」

「そうですが。お送りしましょう」

 お断りするが、副ギルドマスターは引くことはなかった。自分から送ると言っていたしね。仕方なく副ギルドマスター、グライスさんに付き添われて春風亭に戻った。

読んで頂きありがとうございます

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