受け入れ準備③
チュウカ
リツさんが手際よく細かく刻んだ具材と卵、ご飯を炒める。あっという間だ。最後に出来立てのごま油をひとかけ、わ、香りがいい。蒸籠ではカボチャやニンジン、じゃがいも、玉ねぎ、薄切りするのオーク肉が蒸されそれぞれの皿に盛られる。隣の鍋には卵スープ、最後にちょっとごま油にぱらりとごまがふりかけらる。
「さ、いただきましょう」
リツさんの挨拶で夕食開始。
まずはチャーハンをぱくり。おお、パンと同じ位置的なご飯がしっかり味がついて、これだけでも十分。あと、ごまの香りが高い。スープはさらに高い。だが、一番衝撃だったのは蒸し野菜にかけられた茶色のドレッシングだ。なんとも言わせない甘味と香り。蒸し野菜と絶妙に合ってるのなんの。
「この野菜にかかっているのは?」
「ごまドレッシングよ。美味しい?」
マリ先輩が答えてくれる。
「はい、何にかけても美味しいと思います」
キリッ
「ルナちゃんったら」
うふふ、と笑うマリ先輩。うん、かわいい。
「ドレッシングとごま油、もうちょっと作っておきましょう」
マリ先輩が提案。
私もそれがいいかと思います。パクパク。
「まだ、ごまある?」
リツさんが確認している。
今日大分使っていたみたいだけど。ずー。
「あと、ドレッシングと油、今日作った分です」
ローズさんが在庫確認報告。
半分使ったんだ。パクパク。
パクパク、ずー。
今日も美味しくいただきました。
次の日、三人が工房に籠り魔道炉で四苦八苦している間に、私は掃除をしていた。とは、言ってもマリ先輩達が作ったお掃除魔道具が出来ない隅を掃くくらいだが。このお掃除魔道具、これがなかなか優秀で、始めは薄い丸太みたいのが、独りでに動いているから不気味だったか、通ったあとは綺麗なのだ。始めは不思議で不思議で、一日中見て、最近愛着まで沸き始めている。そんな優秀なお掃除魔道具は四隅が難しいみたいで、私がせっせと掃いていると、ちりんちりんと呼び鈴がなった。
誰だろう? ここを訪ねてくるのは、ナリミヤ氏くらいだが、リツさんを心配して様子を見に来たのかな?
私は玄関に向かい、外の様子が見れる水晶を覗くと、困った顔のアルフさん。頭にタオルを着け、鍛治師のエプロンつけている。
何事かと、私は玄関を出ての門を開ける。
「すまんな、急に訪ねてきて」
「アルフさん、どうしました?」
「ちょっと、リツ達に話がな。無理なら帰るが」
「大丈夫かと思いますよ。工房で作業してますから。どうぞ」
申し訳ない顔のアルフさんを、工房にご案内。
ノックをして、ドアを開ける。
「リツさん、アルフさんが見えてますよ」
「え、アルフさんが? 入ってもらって」
汗だくのリツさんが、タオルで拭きながら顔を上げる。マリ先輩とローズさんもだ。
「すまんな、リツ、急に来て」
「いえ、大丈夫ですよ。どうされたんですか?」
リツさんが、アルフさんに椅子を勧める。
ローズさんがアイスティーをさっと出す。
「実は、付与の件だ。ギルドマスターに話をしたら、食いついてきてな。どんな付与を1日何回出来るか詳しく聞いてこいと言われてな」
紙とペンを持たされ、鍛治師ギルドを追いたてるように出されたと。あ、なんか分かる。槌を振り回す鍛治師のギルドマスターの姿。
「1日何回ですか。どうだろう、今までそこまで追い込んでしたことないですから」
リツさんが、考え込む。そうだよね、普通そうだよね。ブーツだって作業分担して、やってたし。リツさんが、それを説明。
「それに、私達ではまだ小の付与ですよ。多分、中の付与なんてしたら、一回で魔力枯渇するかも」
マリ先輩とローズさんも頷く。
「いや、それでも構わん。基本的には、無属性の物理防御、魔法防御、硬化強化を使えればいい。儂も来てくれたらありがたいし、ギルドマスターも報酬を通常より上乗せすると言っておった」
「そうですか。どうする? 午後からでも行ってみる? 魔道炉以外の炉も見てみたいし」
リツさんが、マリ先輩とローズさんに相談。
「午後から伺います。よろしいですかアルフさん」
「助かる。本当にすまんな」
「いいえ、私達もスキルアップできるし。そうだ、アルフさん、お昼食べていってください」
確かにもう少しでお昼だ。
遠慮するアルフさんを、リツさんは押しの強い笑顔でご招待。
マリ先輩特製のコッペパンにいろいろ挟む。
コロッケ、ポテトサラダ、メンチカツ、ブラッディグリズリーのロースト。私はコロッケとブラッディグリズリーのロースト。アルフさんは全種類をいわれる前に並べる。昨日作ったパンプキンスープもよそって、いただきます。
「本当にここの飯は旨いな。いくらでも入りそうだ」
そうですよね、私もそう思います。コロッケのコッペパンをかぶり付きながら、頷く私。コロッケ、美味しい。
「でも、トウラは魚介がなくて。魚のフライとか挟みたいんですけどね」
リツさんが、パンプキンスープを飲みながら並んでいる。
「ん? 前、ここで、魚を食べた記憶があるぞ」
あ、タルタルソース付きの川魚のフライね。
「あれはアイテムボックスにあったんです。てっきりここでも手には入ると思っていて」
「ここでも手に入るぞ。確か、どこかの漁港と転移門があって、そこから月に二回運ばれて、マルシェで売り出されると聞いたぞ」
アルフさんの言葉に食いつくリツさんとマリ先輩。
「「それ、いつですかッ」」
あまりの勢いに、アルフさんが引く。
「えっと、確か、水の日だったかな? すまん、分からん。鍛治師ギルドの誰かが知っとる筈だから、聞いておく」
「お願いします。あ、おかわりいかがですか?」
リツさんが、アルフさんに新しいコッペパンにソーセージとミートソースを挟んでさっと出す。あ、それも美味しそうだな。でも、私はお腹一杯。
「デザートいかがですか? 昨日アップルパイとパンプキンパイ作ったんです」
マリ先輩が言うと、ローズさんがアップルパイとパンプキンパイを出す。さすが時間停止のマジックバック、熱々です。
「な、なんか、すごいな。こんなにいいのか?」
「「どうぞどうぞ」」
いいなあデザート。そんな事を思っていると、マリ先輩がアップルパイとパンプキンパイを私に出してくれた。
はい、お腹一杯ですが、いただきます。あっつう。
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