歓迎会⑤
美味しい
「では、アルフさんの歓迎会です」
リツさんの挨拶で歓迎会開始。
「なんか、ご馳走だな、気を使わせたな」
「いいんです。さ、グリズリーのワイン煮込み沢山ありますから」
リツさんがコンロの上の鍋を示す。
リツさんの特製のカンパーニュに、アボカドと豆、カボチャにゆで卵を飾ったサラダに、じゃがいもとキノコ、腸詰めのキッシュ。
そしてメインのブラッディグリズリーのワイン煮込み。新しいシチュー皿は中央にくねっとした仕切りがあり、右にリツさんのケチャップ入り、左にマリ先輩の味噌入り。アルフさんには、お肉大きいのを選んだ。お玉で掬うと、お肉が崩れそうになったから、かなり柔らかいはず。匂いもいいし、三人のお墨付きもあるから、きっと大丈夫なはず、うん、大丈夫、大丈夫。
「どうぞ、右がケチャップ入りで、左が豆の調味料の味噌入りです」
ちょっと不安だが、アルフさんに、シチュー皿を出す。
「旨そうだな」
アルフさんはまず右を一口。左の目が、ん、と開く。
「ん、柔らかいな。ちょっと酸味がある。これは旨いな」
良かった、良かった。言葉だけではなく、アルフさんの顔が美味しいって言ってる。良かった、灰汁を取って良かった。
「こっちは、おお、深みがあるな、ミソなんて初めて聞いたが」
左も一口。スプーンで簡単に切れるくらい柔らかいお肉。良かった、ことこと煮て、良かった。
「マリ先輩特製調味料です」
私は嬉しくて、知られると恥ずかしくて、説明する。
「ルナちゃん頑張ったものね」
「ねぇー」
リツさんとマリ先輩が顔を見合わせる。
何を言ってるのこの人達。
「ルナが作ったのか?」
アルフさんが聞いてくる。ほら、勘違いしてる。
「リツさんの指示通りにしただけです。味付けもリツさんとマリ先輩にしてもらったし」
材料切って、灰汁を取っただけ、焦げない様にしただけ。材料も、分量も、手順も、味付けも人任せ。
「そうか? でも、旨いぞ、ルナ」
優しいなアルフさん。
私も右のケチャップ入りブラッディグリズリーのワイン煮込みをぱくり。あ、柔らかい、ホロッとお肉が崩れる。うわあ、お肉の旨味が口一杯に広がる。ケチャップの酸味、確かにあるけど、全然邪魔してない。玉ねぎなんて原型ほぼないし、ニンジンは甘くて味が滲みてて美味しい、マッシュルームも美味しい。あ、後でカンパーニュ浸けて食べよう。
左はどうかな? 味噌入りの方は、ぱくり。ん、濃いが、くどくない。あ、これも美味しい。わあ、香りが抜けていく。しかし、お肉柔らかい。あれが、あの、グリズリーなのね。一鍋45万のブラッディグリズリーのワイン煮込み。
母もこんなふうに灰汁を取って、ことこと煮たのかな? 美味しかったもんな。
そんなことを思いながら、ぱくりぱくり。
うん、美味しい。リツさんに助けを求めて良かった。
昼間のような顔色の悪さがなくなったアルフさんは、きれいにワイン煮込みを平らげる。良かった、鍋の前をうろうろして、灰汁を取って良かった。焦がさなくて良かった。
「旨いぞ、ルナ」
うん、良かった、本当に良かった。
作って、良かった。
穏やかに歓迎会が終わり、食後のローズさんのお茶をいただく。
そんな中、リツさんがホリィ一家とアーサーの説明をする。
アルフさんが、考え込む。
「なあ、儂、その子供達に怖がられないか?」
録でもない父親のせいで、大人の男性は確かに苦手かも。アルフさん、しかも、背丈があるから、小さな子供にしたらまさに巨人だ。
「はじめはそうかも知れませんね。今度、商会に会いに行きますから、一緒にいきませんか? ここに来る初日に会うより、心の準備ができるかも」
「そうだな、いつだ?」
「えっと、次の水の日です」
「なら、大丈夫だ」
話が進む。うーん、紅茶美味しい。マリ先輩の果物入りロールケーキ美味しい。
「アーサーというのは、冒険者として、やって行けそうか?」
「どうでしょう? ルナちゃん、どう?」
リツさんに聞かれる。
「魔法の才能はあると思いますよ。あの歳で魔力操作がありますからね、後は、戦闘スキルがどうなるかですね」
「15で魔力操作か、それはすごいな。戦闘スキルはなんもないのか?」
「槍術がありました。確かレベルが5」
「微妙だな」
私もそう思いますよ。魔力系のスキルがなければ、普通の男の子みたいだったし。
「そういえば、アルフさんってレベルは?」
マリ先輩が聞いてくる。
私も気になっていた。
「儂か? 儂は、あ、レベルが上がっとる」
アルフさんがステータスをチェックして、驚いてる。そりゃ、ブラッディグリズリーにブラックトレント倒したからね、上がると思いますよ。
「見るか? あんまり期待するなよ」
アルフレッド レベル61
38才 ドワーフ族+人族 魔槍士 鍛治師
スキル・火魔法(26/100)・土魔法(42/100)・無属性魔法(21/100)・魔力感知(36/100)・剣術(19/100)・槍術(42/100)・短剣術(12/100)・盾術(30/100)・体術(20/100)・棍術(10/100)・斧術(18/100)・気配感知(33/100)・索敵(26/100)
予想してたけど、高いね。
三人ともすごい形相だよ。
戦闘スキル、ほとんどあるんじゃない? 国では魔法職扱いだったらしいが、立派な戦闘員だよ。スキルレベルは20を超えた辺りからなかなか上がりにくくなる。槍と土魔法が40超えしているし、しっかり盾術もある。やはり盾のドワーフだ。ただ、スキルレベルに対して、アルフさんのレベルが少し低い気がする。まあ、正規のドワーフの騎士ではなく、たまに遠征に駆り出されていたなら、仕方ないのかな?
「すごい、ルナちゃんの倍だわ」
リツさんが言うので訂正せねば。
「倍以上ですよ」
「ルナ、レベルは?」
「24、いえ25です」
私も上がってた。あ、ゴブリンにコボルトを調子に乗って狩ったからね。
「どうぞ、アルフさん」
加護は隠してと。
ルミナス・コードウェル レベル25
14才 人族 剣士
スキル・火魔法(11/100)・風魔法(19/100)・魔力感知(34/100)・剣術(27/100)・槍術(14/100)・短剣術(16/100)・弓術(14/100)・体術(17/100)・盾術(10/100)・双剣術(2/100)・気配感知(19/100)・索敵(11/100)
「ルナ、すごいな」
「アルフさんの後だと、あんまり、大したことはないかと」
「いやいや、立派だと思うぞ」
私の後にリツさん、マリ先輩、ローズさんのステータスチェック。全くかわりなし。まあ、しょうがないよね。戦闘してる訳じゃないし。
「なるほど、物理の攻撃がルナに片寄っていたのか」
「そうです、なので、アルフさんには前衛をお願いしまいんですが」
「ああ、構わんさ。それでアーサーはどうするんだ?」
「前衛と後衛の間で動いてもらいたいかと」
「状況判断能力と現状把握能力が必要だな。まあ、本人のやる気次第だかな。会ってみんとわからんな」
多分それは大丈夫かと思いますよアルフさん。アーサーはリツさんにどうも惚れているようだから、リツさんの名前出したら了承するはず。ふっふっふ。
それから付与の話になり、もちろんお手伝い希望していた。自身のスキルアップにもなるしね。アルフさんがギルドマスターに話を持って行くこととなった。
アルフさんの部屋に関してだが、断固二階は拒否された。まあ、二階は女ばっかりだしね。結局使用人部屋になる。使用していない食堂を改装する案もでたがこれも却下。アルフさん曰く、寝ればいいと。一番端の使用人部屋となる。
「本当にご馳走になったな。ルナ、ワイン煮込み旨かったぞ」
もう、勘違いしてる。説明するのも、もう、いいや。
「まだ、沢山ありますから、食べたいときはいつでも言ってください」
大鍋二つ、まだ、ワイン煮込みがしっかりある。時間停止のマジックバッグに入れてあるから、腐ることはないだろうけど。
アルフさんに、お土産のクッキーとパウンドケーキを渡し、皆でお見送り。
「じゃあ、次の水の日だな。朝から来ても大丈夫なのか?」
「はい、良かったら朝食の準備しておきますから」
「それは楽しみだ、じゃあな」
槍の穂先に炎を宿して、アルフさんは帰って行った。
さあ、明日から、受け入れ準備、私もお手伝いしないと。
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