歓迎会③
煮込み?
次の日、朝早く起きて、朝食後ブラッディグリズリーのワイン煮込みに取りかかる。
フリフリエプロン装備する。
リツさんの指示の元、作業開始。
「まず、オリーブオイルと刻んだニンニクを炒めて、お肉を焼いて。お肉は表面を焼く感じね」
「はい」
じゅー。じゅー。じゅー。
じゅわー。じゅわー。じゅわー。
「お肉は一旦取り出して、玉ねぎを炒めて」
「はい」
じゅじゅじゅじゅじゅ。
「炒めたら、お肉と玉ねぎ鍋に入れて。浸けていたワインを入れてね」
鍋二つに入れて。ワインを入れて。
「後は時間をかけて煮るの」
よし、最強火力で。
チョップが来る。
「ダメよ。掻き回してもダメよ。灰汁を取りながら、焦げ付かないように、ゆっくり、ゆっくり混ぜてね」
「はーい」
弱火でことこと。
灰汁を取って、と。
「ルナちゃん、後はお願いね」
そう言われましても。なんだろう、すごく不安。
リツさんは昨日から仕込んでいた、ローストビーフをてきぱき作っている。
マリ先輩とローズさんは、野菜を様々な大きさに刻み、肉の処理をしている。4つのコンロは二つはブラッディグリズリーのワイン煮込み。もう一つはケチャップ用の鍋、最後の一つはコンソメスープ。
不安だ。
「今日はアルフさんの歓迎会ね。ワイン煮込みとパンはカンパーニュがまだあったし。サラダはどうしましょうか?」
リツさんがローストビーフの焼け具合を見ながら、聞いてくる。
「卵を飾ったらどう? 見栄えいいかも」
マリ先輩が答えながらケチャップ用の鍋を掻き回す。
不安だ、何か足りない。
「あ、キッシュなんてどうかしら?」
ぽんと手を叩いてマリ先輩が思い付いたように言う。
「それ、いいわね」
「じゃあ、何種類か作りましょう」
不安なんだが。
「何にする? キノコにマメに、ほうれん草にソーセージもあるし」
リツさんがアイテムボックスから食材を出す。
あの、不安なんです。
「あと、チーズにじゃがいも、チキンもいいわね。ん? どうしたのルナちゃん」
私はリツさんの袖を引っ張る。
「タスケテ」
多分、かなり情けない顔で、リツさんに救援を求める。
さっと寄ってくるリツさんとマリ先輩。
「「どうしたのルナちゃん」」
「何か足りない。分からない」
私はお玉を握りしめて訴える。
どれどれと、鍋を覗き込む二人。
うーん、と考えた二人の答え。
「ケチャップ」
リツさん案。
「味噌」
マリ先輩案。
両方採用。
右の鍋にケチャップ、左の鍋に味噌が投入される。
なんだろう安心感。
「ルナちゃん、後は愛情よ」
「はあ?」
リツさんの言葉に聞き返す。
「じっくり、ことこと。よ」
「はあ」
マリ先輩まで、あ、母もそんな感じで作ってたのかな?
時間、かかって作っていたもんな。
「分かりました」
私はおとなしく従う。
せっかくの高級品の肉だ。美味しく作って、食べてもらいたいもんね。
鍋の前をうろうろしながら、灰汁を取り、たまにそっとかかき回す。他のお手伝いしながら鍋をチラチラ。ニンジンとマッシュルームも加える。
ローストビーフも焼け、キッシュも次々焼き上げ、そこらじゅうにいい匂いが漂う。
あ、なんか、ワイン煮込みをいい感じになってる。
昼になり、出来立てのほうれん草とチーズ、リツさん特性の腸詰めのキッシュに、軽く焼いた厚めのトースト、コンソメスープ。
キッシュ美味しい。あつあつて、チーズがトロリ。
トーストもサクッふわっ。スープもほっとする。
昼食後、ある程度片付ける。
鍋が心配だが、かなり美味しい匂いが漂って来てるから大丈夫だろうけど。結構煮込んだ。でも、心配だから、三人に味見してもらう。私は自分の舌は信じません。
「うん、美味しいわよ」
リツさんが優しく頷いてくれる。
「ばっちりよ、ルナちゃん」
マリ先輩もグッと親指を立てる。
「いいお味ですよ」
ローズさんも、うんうん頷いてくれる。
大丈夫みたい、良かった。私のマジックバッグにワイン煮込みを鍋ごと入れる。
お昼の片付け後、鍛治師ギルドにいざ、という時にトラブル発生。
リツさんデザインのワンピースと白のボレロを、有無を言わせず着せられた。いや、なんか、着る前からなんか嫌な予感がしたんだけど。
「あら? あら? なんかおかしいわね?」
リツさんがデザイン画と私を見比べる。
「なんか、小学校の入学式みたいな感じになっているわよ。アルフさん、完全に保護者に見えちゃう」
ショウガッコウ?っ何? 異世界言葉? まあ、多分、初等教育を受けられる所だろうけど。
「ヘアスタイルだけ、大人っぽくしたら、おかしくなります」
ローズさんも櫛片手に困っている。
そう、リツさんデザインのワンピースは、私が着るとまさにお子様感が半端ない。
なんだろう、ちょっと、絶望。まさに、子供だ。お子様だ。
結局、いつもの冒険者スタイルで。
悔しがる三人。
「あの、行ってきますね」
髪だけはローズさんの手によりきれいにアップされた。
明らかにがっかりした三人に見送られ、私は屋敷を出た。
私がアルフさんを迎えに行っている間に、アルフさんやホリィ一家とアーサーの木皿やフォーク類を作るらしい。
確かに、アルフさんには、私達の食器は小さいし、アンナ達には大きいしね。頑張ってね、皆さん。しかし、リツさんのワンピースは勘弁してください。お世話になってて申し訳ないないけど、あれはちょっとない。
鍛治師ギルドに入ると直ぐにおじいちゃんドワーフ、副ギルドマスターが寄って来た。
「いらっしゃい、お嬢さん。アルフかな?」
「はい。あの、ピーナッツありがとうございます。クッキーを焼いたのでどうぞ、皆さんで召し上がってください」
私はクッキーの詰まった箱をおじいちゃんドワーフに渡す。この人、喉に詰まらないよね?
「おやおや、お嬢さんが焼いたのかい?」
「お手伝いしただけです。頂いたピーナッツのクッキーも入ってます。あの、私、外で待ってますから」
「何を言っとる。さ、こちらでお待ち」
優しく誘導され、昨日の応接間に。
「アルフが冒険者登録したと聞いたが」
座りなり聞かれた。
うわあ、働き手のアルフさんをとられたと思われたかな?
「あの、すみません。私がお誘いしてしまって」
「構わないよ。こちらの事情も汲んでくれると言うし、何より、安心しておる。アルフが腰を据えてくれるし、それに飯も旨いと。昨日の差し入れは本当に旨かった。お嬢さんなら、アルフをちゃんと休ませてくれると思うしな」
なんのこと?
首を傾げる私。
ほっほっほっと笑うおじいちゃんドワーフ。
「これ以上言ったらアルフに怒られるからな。さて、お嬢さん、爺は仕事があるからの。さ、豆だよ、お食べ」
おじいちゃんドワーフは昨日とは違う豆を出し、部屋を出た。
なんだろう、アルフさんを休ませるって?
アルフさんは確か、宿暮らしだよね。ベッドが小さいとか? 仕事が忙し過ぎるとか?
なんだろう、本当に。
「ルナ、待たせたな」
しばらく考えていると、アルフさんがやって来る。
疑問を隠して、振り返る。
少し顔色が悪い気がした。
「アルフさん、具合悪いんじゃないんですか?」
「そうか? 大丈夫だか。ルナ、冒険者ギルドに行こうか」
アルフさんはそう言っているが、なんだか心配。
「はい」
おじいちゃんドワーフの言葉も引っ掛かるが、アルフさんと鍛治師ギルドを出て、冒険者ギルドに。
「そういえば、鍛治師ギルドにクッキー差し入れてくれたらしいな」
「はい。マリ先輩がほとんど焼いてくれました」
「ルナは?」
「ちょっとお手伝いしただけです。ピーナッツのクッキーだけですが」
「ふーん、儂、食べとらんが」
「えっ?」
頭をかく、アルフさん。結構な量のクッキーだったはず。
「直接もらえ、とな」
「屋敷にありますよ。お茶と一緒に出しますから、食べてください。アルフさんは甘いの大丈夫なんですね」
「酒を飲む以外なら、好き嫌いはないぞ」
「そうですか」
よし、アルフさんは甘いの大丈夫と、頭でメモ。
顔色が心配だな、ローズさんに体にいいお茶をお願いしよう。
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