歓迎会②
肉
お茶の後、ワンピースからいつもの服に着替える。そして、あのフリフリエプロンをマジックバッグから出し装備する。
なんか、似合わない。
「まず、煮込みのレシピのチェックね。ルナちゃん覚えてる」
ででん、と置かれた肉の塊を見ながら、お揃いのエプロンのリツさんが聞いてくる。
「えっと、ですね」
記憶を引っ張りだし、リツさんに伝える。
「牛肉とほとんど同じね。それで大丈夫だと思うわ」
「でも、他にも入れていたと思うんです。ハーブだってなに使っていたかも、分からないし」
「何とかなるわよ、大丈夫」
うーん、男前。
「まず、煮込みからする? 部位はどうするの?」
マリ先輩が肉塊を見ながら聞いてくる。
「そうね。もも、使いましょ。半分かな」
「この量を?」
リツさんの言葉に、私が聞き返す。
一抱えあるよこの肉。半分でも凄い量。
「そうよ、作りましょう。作りおきしておきましょう」
「…味の調整してくださいね」
私とリツさんは肉に取りかかる。マリ先輩とローズさんは、粉系を分け、混ぜている。
「まずは玉ねぎね、あとはニンジン。マッシュルームは明日でいいわね。お肉は贅沢に大きく切りましょう」
リツさんの指示で玉ねぎを切る。薄くなんて無理。ザクザク、あ、染みる。ニンジンも皮剥いて、一口より大きく。ざんざん。
何故かリツさんはスジ肉に取りかかってる。
「スジ肉どうするです?」
「柔らかくなるまで煮るの。美味しいわよ」
「あの、ワイン煮込みは?」
「大丈夫よ、分からないことがあったら聞いて。ハーブはこれにしましょう」
ハーブはタイムとローリエみたい。
結構な量の玉ねぎを終え、次は肉。赤身の肉だ。肉になると、あのグリズリーだとは思えない。リツさんは贅沢にって言ってたから、このくらいかな? ざっくりざっくり。
「リツさん次は?」
「野菜とお肉をボウルに入れて、たくさんだから二つに分けましょう。一番大きなボウルね。バランス良くね。ハーブもいれて。入れたらワインを入れて蓋して冷蔵庫よ」
「はい」
指示通り、玉ねぎ、ニンジン、肉を入れて、ハーブ入れて、ワイン入れて、専用の蓋して、と。リツさんとマリ先輩いわく、この蓋はラップ代わりだと。なんだろう、ラップって?
結構な量よ。失敗したらどうしよう。
何とかボウルを冷蔵庫に。やはり手際悪いね、時間かかる。
「ルナちゃん、クッキー作るよ」
「はいはい」
マリ先輩に呼ばれ、手を洗って向かう。
すでに第一陣がオーブンのなかだ。何を焼いているんだろう?
「混ぜるだけよ、大丈夫だから。せっかくだし、パウンドケーキとロールケーキも作りましょう」
「そんなに?」
「今、オーブンにロールケーキの生地焼いているわ。さ、ルナちゃん、ピーナッツを荒く砕いてね」
「はい」
ごんごん。
「ねぇルナちゃん、ブラッディグリズリーって、強い魔物で」
マリ先輩が聞いてくる。
「ええ、私じゃ倒せない魔物ですね」
「ルナちゃんでも?」
「無理ですね。グリズリーは足も早いし、もし、遭遇したらマリ先輩達は逃げてくださいね」
「ん? ルナちゃんは?」
「足止めですよ」
ごんごん。
「え、一緒に逃げましょうよ」
「誰かがそうしないとダメな魔物ですよ。それでも生還率は低いと考えてください。ブラッディグリズリーの一撃で、首、吹き飛びますよ。生還率を上げるなら、それが一番です。私くらいしか、まともな戦闘は不可能でしょうから」
「ルナちゃん…」
絶句するマリ先輩。リツさんとローズさんも手を止めている。
「まあ、本来なら、あんな浅い所にいる魔物じゃないですけどね」
ごんごん。
「でも、アルフさんが、倒したんだよね?」
「はい、槍でほぼ一突きですよ。多分、火魔法の身体強化と武器強化してたと思いますが、さすがに総魔鉄製の槍ですね。アルフさん自身の力もあるし、かなり槍の使い手だと思います」
よし、こんなもんかな?
「強いのねアルフさん、よく、うちに来てくれたね」
「ええ、他のパーティーに誘われていたようですが、何故か運良く」
細かい小麦粉に卵、柔らかいバターに砂糖を混ぜる。分量はマリ先輩が計ってくれているから大丈夫。
「多分、リツさんやマリ先輩のご飯が美味しいし、ローズさんのお茶、最高ですからね。それがあるかと」
私の言葉にマリ先輩とリツさんは照れてる。ローズさんも分かりにくいが、嬉しそう。
「でも、アルフさんも私が料理できると勘違いしてましたし」
「そうなの? なんて言われたの」
ルナもおるしな。
「だったかな? 私はどちらかというと、原材料確保向きかと、あれ、皆さん」
何故か一斉に台所の隅に集まる三人。
「なんか、ルナちゃん、もしかして鈍いの?」(リツ)
「ええ、でも、アルフさん、脈あるんじゃない?」(マリ)
「私も同感です」(ローズ)
「皆さん、聞こえてますからね、私、気配関知あるし、生きていたら脈があるでしょう」
ぐりん、と首をこちらに回す三人。わ、ちょっと気持ち悪いよ。
小声でゴニョゴニョ。
「ルナちゃん、お料理、頑張りましょうね」
リツさんが優しい笑顔。
「アルフさんは、お菓子大丈夫かな? ルナちゃん分かる?」
「さあ、どうでしょう?」
「アルフさんに聞いてね」
「はあ、はい」
マリ先輩まで優しい笑顔。
「ルミナス様、本日の入浴後はヘアパックいたしましょう」
ローズさんまで。
なんなの?
私は砕いたピーナッツ入れ、混ぜ混ぜした。
結局、貰ったピーナッツは半分クッキーになった。凄い量よ。プレーンもあるが、ピーナッツ、クラウンベリーのドライフルーツ、レモン味。本当に凄い量。
ロールケーキの生地を冷ましている間に、パウンドケーキを焼く。プレーンとレモンとオレンジ、カボチャ味、はい、冷えたらあーんです。
生地を冷えたら生クリームを作って、中央付近に生クリームにオレンジとブルーベリーを載せ巻く。マリ先輩が手本を見せてくれた。
「はい、ルナちゃん」
「自信ないんですが…」
「何事も挑戦よ、はいはい、やってみて」
はあ、出来るかな?
生地にあの3ヶ月の時に作っておいた、プラムのジャムを塗り、生クリーム塗って、端持ってと。
「ゆっくり、ふわっと巻くのよ。そうそう上手によ、優しく巻くのよ。ルナちゃん上手」
マリ先輩誉めすぎです。勘違いしそう。
あ、歪んだ。
「大丈夫、大丈夫よ。最後は切るからね。大丈夫よ」
く、マリ先輩優しい。
ちょっぴり不恰好なロールケーキができた。
お菓子を作っているその間にリツさんはグリズリーの肉を切り分けている。
よくよく考えたら、グリズリーの肉って高級品だよね。半分まるまる貰ったけど良かったのかな? 買い取りに出したら、いい額になっただろうに。
アルフさんには、お肉、一番大きな所を出そう。
出来上がったロールケーキやパウンドケーキは、ローズさんのマジックバッグに。端しっこ貰ったけど、おいしかった。
クッキーは冷ましてから箱詰めされる。
「あーん、ルナちゃん」
「あーん」
餌付けされているため、素直にマリ先輩からいただきます。
ピーナッツクッキー、香ばしくて、いい感じ。混ぜただけだけで分量はマリ先輩任せ。うん、安定の美味しさ。
「ルナちゃん、この箱詰めクッキーは明日鍛治師ギルドにね。たくさんピーナッツいただいたし」
マリ先輩が箱詰めクッキーを渡してくれる。
「はい、分かりました」
マジックバッグに入れる。マリ先輩は別にクッキーを入れてる。
「どうするんです?」
「あ、これ? アンナちゃん達にあげようと思って、今度、服のサイズが合うか、商会に行くから」
「そうですか。喜びますよ」
「そうかな?」
「マリ先輩のお菓子より美味しいお菓子なんて、食べたことありませんよ」
嬉しそうなマリ先輩。うん、かわいい。
エリックとジェシカに、もらえないかな? いや、ライドエルには戻らないから、仕方ないよね。
なんて思っていると、しっかりクッキーを入れた箱を渡されました。
「はい、弟君と妹さんに、ね」
マリ先輩に笑顔で渡され、一瞬、涙腺が緩んだのは内緒。
いろいろ作ったため、すでに夕方。
夕食は早速、ブラッディグリズリーの肉を野菜と共に焼いた、グリズリーの野菜炒めがメインと、ご飯と味噌汁だ。
グリズリーって美味しいのね、赤身だけど、柔らかい。肉臭くない。きっとリツさんが焼く前に何かしてたからね。それかな? そして甘い、肉なのにすっきりした甘さ、いくらでも入りそう。ご飯が進む進む。
「なんだか、いいお肉ね。たくさん頂いたけど、良かったのかしら」
リツさんがグリズリーの野菜炒めを食べながら、悩んでいる。確かに美味しいお肉だしね。
「アルフさん、うちに来るから、沢山食べてもらいましょう。ローストビーフとかいいんじゃない?」
マリ先輩もグリズリーの野菜炒めを食べながら言う。
「そうね、明日、作っておきましょう」
ローストビーフか、ソースが美味しいんだよね。マッシュポテトが合うんだよね。うふふ、楽しみ。
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