歓迎会①
家賃
「ただいま戻りました」
「あ、お帰りルナちゃん」
工房のドアをノックし、開ける。
近くにマリ先輩がいて、笑顔で迎えてくれる。
リツさんもローズさんも迎えてくれる。
ああ、ほっとする。
工房の中央のテーブルの上に大量の布、近くの小さな棚には出来上がった服。
「リツさん、アルフさんが来てます」
「あら」
私が言うと、後ろからアルフさんが顔を出す。
「よう、リツ」
「アルフさん、いらっしゃい」
「悪いな作業中に、差し入れありがとう、旨かったよ」
「いえいえ。ルナちゃんの恩人ですもの」
さっとローズさんがお茶の準備に入る。
「あの、リツさん、実は…」
私はアルフさんの冒険者登録の経緯を説明する。
「まあ。そうなんですね。もちろん大歓迎ですよ」
リツさんが手を叩いて喜んでいる。
ローズさんがお茶を出す。
「だが、儂は鍛治師ギルドとの関係もあるから、そう、冒険者に専念はできんぞ」
「全然大丈夫です。私達も今冒険者は休止しているようなものだし。あ、そうだ。アルフさん、うちに来ません? 部屋、空いているし」
「うーん…」
アルフさんはローズさんのお茶を啜る。手が大きいから、取ってを持たず、カップを縁辺りを直に持ってる。
やっぱり、小さいな。
「確か、奴隷が来ると。ルナに聞いたが」
「はい。女性とその子供三人、男の子一人です」
うーん、と悩むアルフさん。
「リツ、ちょっと条件があるがいいか?」
「はい」
「まず、儂は鍛治師ギルドが優先」
「それはもちろんです」
「ここに来るのは構わんが、その男の奴隷がくるまでは伸ばしてもらえんか?」
「それは、構いませんが」
最後に、と。
「儂、いくら家賃払えばいい?」
「えっと、もらっていいんですか?」
「さすがに、タダではいかんだろう。確か食事付きって言っていたし」
「では、ルナちゃんと同じ5万で」
え、みたいな顔のアルフさん。
「安くないか? 儂、この体だから食べるぞ。もうちょっと」
「アルフさんには、武器や装備でご相談に乗ってほしいし。アーサー君が冒険者になるなら、男同士だろうからいろいろお願いしたいし。この値段で。あ、炉も必要時使ってもらって構いません」
「本当にこの額でいいのか?」
「大丈夫ですよ」
アルフさん、本当に大丈夫なのかって顔。
分かりますよ、アルフさん。私も始めそんな感じだったし。
「なら、お言葉に甘えるが、あ、儂そろそろ帰らんとな。茶、ご馳走になったな」
「アルフさん、アルフさん」
私はアルフさんの袖を引く、付与のことだ。
しかし、アルフさんは首を振る。
「それは、また、今度な。リツ、明日の昼過ぎに来るな」
「あ、はい」
「私、迎えに行きます。トレントの買い取りもあるし」
「なら、待っとるぞ」
頭、ポンポン。
もう、慣れてきた。
玄関までアルフさんをみんなでお見送り。
「じゃあな。ルナ、楽しみにしとるぞ」
「はい、きっと美味しくできますよ」
何の事かわからない三人。後で説明しなくては。
アルフさんの広い背中を見送って、振り返ると、すごい笑顔のリツさんとマリ先輩。
「さ、ルナちゃん、おうちに入りましょう」
「ローズ、フルーツタルト、まだある?」
「はい、ございます。お茶の準備を」
素早い動きで、私は屋敷のなかへ。
さっと、お茶の準備が整う。
作業、いいのかな?
「さ、ルナちゃん、フルーツタルトよ。フルーツの下にはカスタードがあるの」
「わあ、綺麗ですね」
マリ先輩が差し出したのは、宝石のように輝くフルーツが載ったタルト。オレンジにブルーベリーにリンゴにマスカット、あ、高級品のイチゴまで。なんか、高そう。
ローズさんが紅茶を出してくれる。
「さ、話ながら、ルナちゃんの話を聞きましょうね」
わあ、怖い。
目が怖い。
仕方ない話すか。
「昨日トレントの件のあと、ブラッディグリズリーに襲われましまて」
「「「はあ?」」」
三人の口からちょっと間抜けな反応。
私はフルーツタルトを一口。オレンジの部分。オレンジの酸味もいいが、下のカスタードとクッキー生地の美味しいこと。うふふ。他のフルーツはどうだろう?
「それをアルフさんが、倒して、冒険者ギルドに解体依頼をだしたんです。そこで、肉と肝を私にくれるから、アルフさんが、グリズリーのワイン煮込みが好きみたいで、作ってくれと。なのでリツさんお願いします」
「何を言ってるの? ルナちゃんが作るのよ」
リツさんや、何を言ってるの?
「私に出来ませんよ」
「だって、雰囲気的にアルフさん、ルナちゃんが作るの楽しみにしてるみたいじゃない?」
「リツさん達なら、美味しくできるって言ってあります。大体、私熊系なんて食べれるなんて知らなかったし」
「私だって熊鍋くらいしかしらないわよ」
お互いにえーみたいな感じで言葉のやり取り。
「まあまあ、とにかく、お茶してから、お肉の確認しましょう。ねぇ、他に何かなかった?」
マリ先輩に話を振られる。
「そうですね」
ブルーベリーの部分を一口。甘酸っぱい。
「冒険者ギルドで」
マルコフさんとフレナさん、後はバーンの事を説明。
「あ、そうそう。鍛治師ギルドの副ギルドマスターから、豆もらいました」
マジックバッグからおじいちゃんドワーフから貰った白い袋を出す。
「マリ先輩、これでお菓子できます?」
「見せて。あ、ピーナッツだね。まず、クッキーにしましょう。ルナちゃんも一緒に作りましょうね」
「あの、私は作るのは、その」
「作るよね」
「…はい」
かわいい笑顔で迫られ仕方なく頷く。
「じゃあ、ワイン煮込みも行けるんじゃない?」
リツさんが言い出す。
「無理ですって」
「確か、お母さんが作っていたって言ってなかった?」
「ほとんど手伝ってないですよ。下の妹が台所に入らないように、ストッパーしてましたから」
そう、火を使うし、刃物もある台所。ジェシカは好奇心旺盛だったから危なかったから、外で遊んでいた。
「なら、一緒に作りましょう。何となく覚えているんでしょ。多分、向こうのワイン煮込みとレシピは行けると思うし。ね、作りましょうルナちゃん」
「………はい」
逃げられない笑顔のリツさんに迫られ仕方なく頷く。
えっと、どうやって作ってたっけ? 確か、前の日から仕込んでいたはず。玉ねぎを切って、ハーブと一緒に一晩おいて、焼いて、ワインを入れて煮る。だったはず。うん、自身ない。
マスカットの部分を一口。甘い。甘いけど、カスタードとは違う甘さ。
「アルフレッド様はお酒はダメだったのでは?」
新しい紅茶を注いでくれたローズさんが聞く。
「煮込みは大丈夫のようです」
「左様ですか」
さて、最後にイチゴを回そう。
「ねぇルナちゃん。鍛治師ギルドってどんな感じだった?」
マリ先輩が興味津々で聞いてくる。
「忙しいようです。アルフさんに頼りにしている所がありますし、副ギルドマスターはなんか勘違いしてるし」
「勘違い?」
「はあ、なんかアルフさんの宣伝してくるし、西通り東通りに物件があるとか、子供は三人くらい余裕持って養えるとか、あと」
デートは楽しかったかい?
は、言わないでおこう。
アルフさん、迷惑だろうね。
「ちょっと勘違いした方でしたね。悪い人では、ないかと。あれ、皆さん?」
一斉に顔を合わせる三人。
ゴニョゴニョ。
振り返る三人。何故か輝く表情の三人。ローズさんまで、目がキラキラ。
「何ですか?」
「ルナちゃん、お茶終わったら、お料理しましょうね」
有無を言わせない笑顔のリツさん。いや、かわいいけどさ。
「さ、エプロン着けてね。クッキーは簡単だからね」
嫌とは言わせない笑顔のマリ先輩。いや、かわいいけどさ。
ローズさんに姿勢を向けると、悟りの表情。
はい、受け入れます。
最後に残したイチゴをぱくり。あ、甘い、すごく甘い、酸味がごくわずか、しかし、甘い。あ、飲み込んでしまった。
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