差し入れ⑥
付与?
マルコフさんとフレナさんが、気絶したバーンを連れ帰って行った。
「アルフさん、今さらですけど、私達の所に来てくれるの、本当に良かったんですか? 私はJだし、マリ先輩達はHランクだし」
パーティーすら組めない底辺冒険者よ。
「何を言っとる。儂は構わん。ルナが口説いてきたんだろ? 別に儂はランクとかこだわりないしな」
「それなら、いいですけど」
ありがたい。その口説いたってのは、やめてくれないかな。確かに、私が勧誘したけどさ。
それから、チラチラ好奇の視線をもらいながら時間が過ぎる。あれから見られはするが、誰も声はかけてこない。
「どうしたルナ?」
「いえ、なんだか、じろじろ見られているけど、避けられているみたいで」
「それか、多分、マルコフさんのせいだろう。このトウラじゃ名の知れたパーティーのリーダーだからな。マルコフさんと知り合ったおかげで儂も変な連中から絡まれなくなったし」
なるほど。
「フレナも女ばかりのパーティーだが、なかなか有能だしな」
へえ、すごいなフレナさん。バーンが絡んで来た時助けてくれた時、大の男をガッツリ殴ってたし、しっかり入っていたから体術レベル高そう。
「ルナ」
「はい」
ちょっと、表情を消したアルフさんが聞いてくる。
「バーンに何かされたか?」
「いえ、フレナさんが助けてくれましたから」
「そうか」
「マルコフさんも助けてくれました」
「そうか、良かった」
ほっと、息をつくアルフさん。
何を心配しているんだろう。
ちょっと待ってブラッディグリズリーの解体が終わる。
解体窓口で、でんと置かれた肉と肝。白い紙と肉の間に腐敗予防に使われるミリスカキの葉が挟んである。
しかし、すごい量。
「持てます?」
窓口の職員さんが心配してくれる。
「大丈夫です、マジックバッグあるので」
私はナリミヤ印のマジックバッグに肉を次々入れる。あんまり知られたくないが、ブラックトレントやブラッディグリズリーの件でばれるだろうしね。
職員は驚いていたが、営業スマイルで対応してくれる。
最後に魔石。私の拳くらいの大きさだ。かなり綺麗。
いくらだろう?
「買い取り査定は明日になります」
「わかった。ルナ、帰ろうか」
「はい」
魔石を無造作にポケットに入れ、アルフさんが私に声をかけてくる。
二人で冒険者ギルドを出て、鍛治師ギルドに向かう。
「ルナ、グリズリーの煮込み、楽しみにしておるからな」
「きっと美味しくなりますよ」
料理するのは、リツさんとマリ先輩だけどね。
「そうだ。ルナ、今度でいいから、ナイフとあの剣見せてくれんか?」
さすが鍛治師、ちらっとしか見てない筈なのに、普通のナイフや剣でないことに気付いている。まあ、アルフさんになら、見せても構わないかな。
「はい、大丈夫ですよ。次にいらした時に」
「本当に楽しみだな」
アルフさんは嬉しそうだ。
鍛治師ギルドに着くと、おじいちゃんドワーフ、副ギルドマスターが待っていた。
早速、アルフさんが鍛治師ギルドのドワーフ達に拉致される。
「お帰り、アルフ、お嬢さん」
ほっほっほっと笑うおじいちゃんドワーフ。
「お嬢さん、儂らまでご馳走になったな。豆だよ、持ってお帰り」
渡されたのは、ピカピカに磨かれた差し入れの箱に、綺麗に畳まれたピンクの包み。そしてパンパンの白い袋。豆だよね。
「ありがとうございます」
私は周りを見て、マジックバッグに箱と包み、豆を入れる。
さ、帰ろう。
「お嬢さん」
おじいちゃんドワーフがやんわり止めて来た。
「冒険者ギルドはどうだった?」
「はい、特に問題はありませんでした」
良かった、変な事聞かれなくて。差し障りなく、返事をしよう。
「アルフとデート楽しかったかい?」
「はああぁぁぁ?」
思わず声が出た。
「あいつはな、いい男だ。東通りに、広めな庭のある物件がな」
「副ギルドマスターッ、ルナに変な事を吹き込まんでくれッ」
アルフさんが飛んでくる。
「ルナ、家まで送る。さあ、行こう行こう」
アルフさんが肩を押す。
「ほっほっほっ」
「おい、アルフ、この付与は?」
「帰ってからするッ」
「ほっほっほっ」
「副ギルドマスター、帰ってから、話があるからな」
「ほっほっほっ」
私は再びアルフさんに肩を押され、鍛治師ギルドを出た。
「本当にすまんなルナ」
「いいえ、アルフさん、鍛治師ギルドに帰ったら大丈夫ですか?」
「ああ、なんとか、するさ」
「あの、どうしてアルフさん、鍛治師ギルドにあれだけ必要にされているんですか?」
素朴な疑問。
まだ来て日の浅いアルフさんが、ここまで頼りにされている。何故だろう。このままだと、アルフさん過労死しないよね。
「付与だよ」
「付与?」
「そう、付与をまともにできるのが、儂しかおらんのだ。前任者はもともと高齢で亡くなって。もう一人おったが、おめでたでな。無理はさせられん。そんな所に儂が来て、あんな感じだ。しかも、この忙しさに拍車をかけてな」
「付与って大変なんですね」
「まあ、当人の資質もあるがな」
「リツさん達も、付与、できますよ」
ポツリとこぼした言葉にアルフさんが、ぐりっと首を私に向ける。
「できる?」
「多分、できますよ。魔道具だって作ってましたし。あれ、知りませんでした? ナリミヤ氏から錬金術教えてもらって、付与はできるけど、武器とか装備品まで手が出てないって」
「付与の件は知らんかったが、そうか、出来るのか。手伝ってもらう訳にはいかんよな」
アルフさんが顎に手を当てて悩んでいる。
「今の忙しさって、いつまで続きます?」
「そうだな。儂一人なら、一年は最低はかかるなあ」
「一年ですか」
結構かかるね。あれ、もしかして、私、アルフさんに冒険者になるきっかけになったけど、アルフさんにしてみたらものすごく迷惑じゃない?
「儂でも、1日でかけられる付与は限られておるからな。まあ、儂一人じゃ、決められん」
そうだよね。ギルドマスターの許可や、リツさん達の許可もいるし。
「あの、私、ものすごくご迷惑をかけたのでは?」
「何でだ?」
「だって、まさか、こんなに」
「構わんさ、自分で決めたことだ」
ポンポンと頭を触られる。
「リツ達なら、儂の事情を汲んでくれるだろう? なら、儂は何の問題はない」
相変わらず優しいアルフさん。
リツさん達に、説明しないと。アルフさんの事情。
そんな話をしながら屋敷に到着。
「アルフさん、リツさん達に会って行きます?」
「いや、さすがに戻らんとな。あ、差し入れの礼だけは言わんといかんか。挨拶だけしていく」
「はい、どうぞ」
ガードマン・ガーディアンが、扉を開けた。
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