差し入れ⑤
友
「すまない。うちのバカが」
そう言ったのはアルフさんに引けをとらない、大柄の男性冒険者だ。金属の鎧に大剣を下げている。バーンにげんこつ一発食らわせて、私に謝罪してきた。強面だが、誠実そう。当のバーンは蹲ってる。
「あ、こちらの方が助けてくれたので大丈夫です」
「フレナ、すまないな、手数をかけた」
大柄の男性冒険者は赤毛と女性冒険者にも謝罪。
このきつい感じ女性冒険者は、フレナさんね。
「いいさ、でも、ちょっとお灸を据えた方がいいと思うよ」
「しっかり据えておく」
蹲っていたバーンが復活を始める。
「リーダー…アルフが冒険者になるって」
「そうか、喜ばしいことだ」
「ね、パーティーに誘うよね」
「本人が望むならな、歓迎しよう」
大柄の男性冒険者はバーンの襟首を掴む。
「帰るぞ」
「そんなあ、アルフ、すぐ出てくるからさ。ちょっと待とうよ」
「懲りないね、あんた」
フレナさんが、呆れた声を出す。
「だってぇ、あんなに魔法使えて、アルフ自身強いからさあ」
確かにね、昨日目の当たりしたし。
しかし、アルフさんはうちに来るんだよ。ふふん。さすが、リツさんとマリの料理、ローズさんのお茶。感謝、感謝。
「本人の意志がないのにパーティーには誘えない」
「じゃあ、せめてパーティーの宣伝しようよ」
宣伝?
ばっと、バーンが両手を広げる。胡散臭い顔を始めた男性冒険者とフレナさん。
「さあ、我らはこのトウラを代表するパーティー『ハーベの光』。パーティーリーダーは我らが誇る紳士な強面剣士のマルコフッ」
あ、この強面さんはマルコフさんね。確かに紳士な感じするけど、徐々に呆れ返っている。フレナさんも同じ感じだ。
バーンは気付かず、ますますヒートアップしている。
「そして、ここにいないけど、頼れる盾職、無口な男前バラック。風魔法を使う身軽な剣士、気前のいいサレイザー、そしてこの僕、頼れる斥候兼回復役のバーンッ」
拳を握り熱弁を続ける。
ふーん、この人回復役なのね。て、ことは光魔法を使うのかな?
パーティーとして、バランス悪くないよ。
ツンツンと肩をつつかれ振り返る。
「あ」
「男ばかりむさ苦しいけど、笑顔が素敵な女性は種族を問わずに大歓迎ッ。滾る熱意と根性で敵を撃つッ。名前はかわいいがパワー満載『ハーベの光』ッ。あれ、リーダー? 何? 何?」
ガツンッ
マルコフさんの拳が、バーンを直撃。
あーあ、なんだかな。
「相変わらずだな」
呆れた様にアルフさんが言う。講座が終わり、バーンの口上をなんとなく聞いていた私の肩をつついてきたので、アルフさんの後ろに避難。
げんこつを食らったバーンは、涙目で、マルコフさんを見上げていたが、アルフさんの姿を見て一気に復活。
「アルフッアルフッ、冒険者登録おめでとうッ、待ってたよッ、今の聞いてくれた? 僕達のパーティーにどうだい? リーダーならきっとアルフの事受け入れオーケーだよ。ラ・マースのダンジョンだっていいところまで行けるよッ、あ、お揃いのマント作ろうねッ、あ、あとこの笑顔がかわいい子、鍛治師ギルドの誰かの娘さん? 是非、ご紹介を、ぐふうッ」
無表情なアルフさんの拳がバーンの鳩尾に食い込む。完全に沈むバーン。
うわあ、容赦ない。
「本当に申し訳ない」
マルコフさんが私とアルフさんに頭を下げる。
「後できつくきつく、言っておくから」
フレナさんまで頭を下げる。
「これは、これがなければ優秀な斥候なんだ、すまないアルフ」
「マルコフさん、頭を下げんでくれ。儂は構わんが、この子に絡むのだけはやめてほしいだけだ」
「きつくきつくきつく、言い聞かせておく」
あ、帰った後の惨状が目に浮かぶ。
「本当にごめんね。こいつ、昔からそうなんだ。私からも、きつくきつくきつく言っておくから」
「フレナもいいから」
アルフさんは頭を下げるフレナさんに、手を振って答える。
話からして、フレナさんとこのバーンは昔からの知り合いなんだね。
マルコフさんがバーンを片手で持ち上げる。この人すごい腕力だ。
「ア、アルフ、良かったら、パーティーに…」
バーンが、絞り出すように言う。本当に懲りないねこの人。
「まあ、こいつの言葉ではないが、アルフ、少し考えてくれ」
マルコフさんが困った顔でアルフさんに言う。喜びの声を出そうとするバーンに、フレナさんが頬をつねり上げられ、あがあが言ってる。
「すまんな、儂はこの子に口説かれてな、気持ちだけ受け取っておく」
私はアルフさんの袖をついついと引っ張る。
マルコフさんとフレナさんがすごい顔で見てる。
「アルフさん言い方」
「すまんすまん。まあ、危なっかしいからな、ルナは」
「ルナちゃんって言うんだねッ、僕はバーン、がははははっ」
「あんたちょっと黙ってな」
フレナさんがギリギリ頬をつねる。
「重ね重ねすまないアルフ」
苦労してそうなマルコフさん。とうとうバーンを絞め、気絶させる。いいのかな?
「それで、アルフ。彼女を紹介してくれ。お前を口説いた彼女を知りたい」
「あ、私も知りたい」
「ああ、いいかルナ?」
話を振られ、私は肩をすくめる。
「自己紹介くらいできますよ」
私はアルフさんの後ろから出て、スカートをちょいと摘まんでご挨拶。この格好で騎士の礼なんてしたら、おかしいから、カーテシー。これくらいできるよ、母に仕込まれましたから。
「ルナと申します。どうぞお見知りおきを」
…………沈黙が痛い。
あれ、あれ、おかしい? ちゃんと教えてもらった通りにしたのに。
恐る恐る顔を上げると、マルコフさんとフレナさんがポカンとした顔で私を見てる。
あ、やっぱり、おかしかったのか?
「こ、これはご丁寧に。『ハーベの光』リーダーのマルコフです」
「……私は『紅の波』リーダー、フレナだよ。ちょっと、アルフ、いいかい」
バーンを抱えたマルコフさんとフレナさんにアルフさんが連行される。
なんだ、なんだ?
しばらくこそこそ話して、戻ってくる。
バーンの手がズルズル引きずられているけど、無くならないよね?
フレナさんが優しい顔で聞いてくる。
「ねえ、確認だけど、おいくつ?」
「14です」
「そう。アルフ、ちょっといいかい?」
再び連行されるアルフさん。
ゴニョゴニョ。
何を話しているんだろう?
あ、戻って来た。
今度はマルコフさんが聞いてくる。
「失礼だが、どうやって生活費を稼いでいる? 保護者がほかに?」
「私、Jランクなんです。それでなんとか」
「本当に失礼を承知で聞くが、保証人は?」
心配なんだか、疑っているんだか、わからない顔でマルコフさんが続けて聞く。まあ、いいかな、言っても。きっと納得してくれるはず。こう言うときの保証人のはず。いざ、グラウス・バッシュ。
「グラウスさんです」
「「誰?」」
「グラウス・ハッカーさんです。マリベールの冒険者ギルド副ギルドマスターのグラウス・ハッカーさんです」
私はショルダーバッグからJランクの冒険者カードを出して、マルコフさんとフレナさんに見せる。
穴が空くほど見つめられ、なんか、ちょっと恥ずかしいな。
「本当にJランクなんだな」
「親族以外のJランクなんて、初めてみたけど、あの本部の副ギルドマスターが保証人とは、あんたすごいんだね」
マルコフさんとフレナさんがなんとか納得してくれたみたい。さすがグラウス・バッシュ。確かに、Jランクの保証人は親など親族が主だ。私みたいに拠点のあるリツさんの好意で、住まわせてもらっているけど、そんなのごく稀だ。宿に子供だけ、おいて置けないからね。
「すまないな、変な事を聞いてしまって」
「いいえ」
マルコフさんがすまなそうに言って来て、フレナさんまでごめんねと言うので、私は首を横に振る。
「とにかく、アルフ。冒険者登録歓迎する。お前は、恩人だ。何か困ったことがあれば、いつでも声をかけてくれ。お前は大事な友だからな」
「そうだね。アルフには私達も世話になったし。ケガしたサリナを背負って運んでもらったしね。私達ができることなら何でも言って、私達だって、ほら、友達だし」
「二人ともありがとうな。気持ちだけで十分だ」
なんか、いいなあ。
笑い会う三人。入る隙間なんて、私に入る隙間なんてない。
私は、無性に、マリ先輩達に会いたくなった。10分くらい歩けば、屋敷にいるんだけどね。
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