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冒険者①

冒険者ギルドです

「あの、冒険者登録したいのですが」

 マリ先輩が少し緊張したように受付の女性に言う。

「三名様ですか?」

「いえ、二人です。私とこちらの女性です」

「はい。身分証明はお持ちですか?」

「あります」

 マリ先輩とローズさんは手のひらより一回り小さな黒いカードを差し出す。多分、ランドエルの身分証明だな。受付の女性は近くある水晶に、受け取ったカードをかざす。偽造かどうかのチェックだろう。

「はい、では確認させて頂きますね。マリ・ハート様。ローズ様でお間違えありませんね」

 …偽装かい。まあ本名で登録したら、隣国とはいえばれないとは限らない。多分、クレイハート家の魔道具はクリスタムにも輸出されているから、安全のためだね。本名名乗って営利目的の誘拐されたら目も当てられない。冒険者ギルドに欺く身分証明って、作るのいくらしたんだろうあれ、さすがお金持ち。

「では、ギルドカードを発行します。発行料金は3000Gです。こちらの用紙に必要箇所をご記入ください。代筆は?」

「大丈夫です」

「あちらでご記入ください。スキルに関しては全て書いて頂く必要はありませんが、最低一つはご記入ください。確認が取れましたら料金を頂きます」

 用紙を受け取り、隣のテーブルに移動。

「ねえルナちゃん、スキルは一つでもいいってどういうことかな?」

 用紙に名前、年齢を記入してマリ先輩がちょっと困った顔で聞いてくる。うん、可愛いからお答えしましょう。

「レアスキルは秘密にした方がいいかもしれませんね。そのスキル欲しさに絡んでくる連中がいるかもしれませんね。特にローズさんは」

「承知しました。私は短剣術と体術を記入します」

 雷魔法はレアだけど、アイテムボックスに比べるとそこまでない。だがアイテムボックスは低ランクの新人冒険者が持っていると知られたら、良からぬ連中が狙って来るだろう。

「その方が安全ですね。冒険者ギルドに登録した時に申請したスキルですが、高ランクになった時に指名依頼の参考にされます」

「指名依頼っ」

「最低Cランクからですよ」

「くぅ、道のりはながいのね。じゃあ私は火と土と風と、職業は魔法使いと」

「ルナ様、私の職業は剣士の方がよろしいでしょうか?」

「そうですね。メイドなんて業種、冒険者ギルドにはないはずですから」

「はい」

 全て記入して、再び受付の女性のもとへ。

「…はい、確認しました。お一人様3000Gです。発行するまでの間に、冒険者の心構えの説明があります。お呼びしますのでお待ちください。説明が終わりましたらカードをお渡しします」

「はい、ありがとうございます」

 呼ばれる間、マリ先輩はウキウキ顔で冒険者ギルドを見渡している。確かに首都のギルドだ。人が多い。ほとんど人族だが、獣人にちらほらとドワーフ、おお、珍しいエルフが一人だがいる。

「ねえルナちゃん、あれは?」

「ああ、依頼板ですよ。一番左に直接書き込んであるのは常時依頼です。紙に書いて貼ってあるのが個人依頼やギルドからの依頼ですね。右に向かうにつれ依頼は高ランクになります」

「なるほど、私達はまず書き込んである常時依頼からだね」

「そうなります」

「う~楽しみ」

 本当に楽しみにしているんだろう、マリ先輩はちょっと興奮気味だ。

 しばらく待って先ほどの受付の女性が呼びに来る。

「お待たせしました。こちらへどうぞ」

「はい、あ、ルナちゃんも一緒に。あのこの子はまだ未成年なんですが、成人したら冒険者登録する予定なんです。一緒に聞いてもいいですか?」

 マリ先輩が気を使ってくれるが、大体の仕組み、知ってるんだけどな。

「はい、構いません。どうぞ」

「よかった、行こう。ローズ、ルナちゃん」

 嬉しそうなマリ先輩を先頭に、受付の女性の後に続く。

 冒険者ギルドの一室に通される。奥に机、それに向かうように並んだ椅子。受付の女性は椅子に腰かけて待つように言って、部屋を出ていく。マリ先輩の希望で最前列だ。椅子に座ると4人の少年が入って来た。あの子達も今日冒険者ギルドに登録したのだろう。こそこそ話しているがちょっとテンションが高い様子。

「皆さん、お待たせしました」

 白髪を束ねた男性がそう言って入って来る。壮年の男性は顔が整っていた、少し耳が尖っているからエルフだろうが、おそらくハーフだろう。選民意識の高いエルフは、基本的に自分たちのコミュニティから出て生活することはない。もしいるなら変わり者だ。もしくは犯罪者か、彼のようなハーフ、つまり半端者。先ほどギルド内で見かけたエルフもハーフのようだった。血統を重んじるエルフはハーフエルフを毛嫌いすることがある。まぁ、エルフ皆がそうとは限らないと信じたい。

「副ギルドマスターのグラウスです。今日は皆さんよろしくお願いします」

 机の前に立ち、名乗る。副ギルドマスターか、うん、立ち姿を見ただけでも強そうだ。

「よろしくお願いします」

 マリ先輩が嬉しそうに返事をすると、少年達も返事あり。

「まず、本日冒険者ギルドに新しい仲間を迎え入れることを喜ばしく思います。これから皆さんに冒険者としての心構えを伝達します」

 隣でマリ先輩の「来た来た」の言葉はスルー。ローズさんもスルー。

・冒険者同士のトラブル禁止。あってもギルドは関知しない。

・生死に関しても関知しない。

・犯罪などを犯すとギルドカードに記録される。もし度重なる場合は剥奪、重犯罪の場合は即剥奪。

・依頼を失敗すると場合によっては違約金が発生する。立て続けになるとランクダウン、もしくはランクアップする時査定に大きく影響する。

・もし、やむを得ず依頼をキャンセルする場合、事情によってはギルドが介入するため、相談窓口へ。

・パーティを組むには3人以上で、必ずFランクが1人いること。パーティを組んだ場合ギルドに申請を。義務はないが、申請がないとパーティでの依頼は受けられない。

・パーティ間のトラブルは関知しないが、別のパーティから勝手にメンバーを引き抜くのは禁止。またパーティメンバーの同意なく離脱も認められないが、何らかの事情があれば相談窓口へ。

・ギルドカードを紛失した場合、再発行はするが手数料が10000G。

・もし他人のギルドカードを使用し依頼を受けたり、成りすまして報酬を受けた場合、即剥奪。代理を依頼するのはパーティメンバーのみ。

・冒険者同士でのトラブルで、理不尽に被害を被った場合は相談窓口へ。吟味した上で対応します。

・ギルドカードは身分証明にもなる。国家間の移動の際に提示すると入国税が割引される。

・別の町や国に入った時、そこのギルド報告を。これは冒険者の数を把握し、必要時に緊急召集するため。

「以上が心構えです。次にランクの説明です」

 ランクはH~SSS。当然始めはHランク。

 ランクによって受けられる依頼は決まっている。まずは常時依頼をオススメします。高ランクは受けられない。

 ランクによって依頼を受けなくてはならない期間あり。Hは1ヶ月。Gは2ヶ月。Fは3ヶ月。Eは4ヶ月。Dは5ヶ月。Cは1年。B以上で免除。始めのランクであるHは期間が短いので注意を。期間を過ぎると失効するが、延長金を払えば再度利用できる。失効期間はギルドカードは使えない。延長金は2000G。期間を過ぎた失効はどんな理由も受け付けない。

「最後に、ギルドの説明を簡単に」

 基本的に1日中空いているが、依頼の受理と報酬の受け取り、相談窓口は朝から夕方。報告だけならいつでも受け付ける。また、読み書き計算の無料教室あり、戦闘技術の基本訓練も行っているがこれは内容と講師によって料金が発生。しかし冒険者ギルド内で補助金が出るため、高くても1000G。開催日は依頼板にあり。ギルドの地下には訓練場がありますが、空いていればいつでも利用可能。他のパーティなどの連絡も受けている。

「覚えられない」

 後ろで聞いていた少年が悲鳴を上げる。テンションが下がっているようだ。

 大体知ってる内容だ。

「何か質問は?」

「はいはい」

 手を上げたのはマリ先輩。

「クリスタム王国にはダンジョンがありますが、挑戦するにはランクの縛りはありますか?」

 ダンジョンて。無理でしょ、今のレベルじゃ。

「低ランクはオススメしません。ダンジョン内で何があってもギルドは関知しません。少なくともパーティを組む、ソロならDまで上げることです。これは一番レベルの低いダンジョンを基準にしてます」

「はい、ありがとうございます」

 あ、これはいつかダンジョン潜らないといけないな。マリ先輩のキラキラした目が物語ってます。まあ、アイテムボックスを持つローズさんとマジックバックがあれば、最大の問題である食料の心配はないか。

「もし分からないことがあれば相談窓口へ。他に何か?」

 誰も挙手しないなめ、副ギルドマスターは話を締める。

「冒険者は死と隣り合わせです。必要時は勇気ある撤退もです。武器や食料はいくつも持てますが、命は一つです。たった一つです。皆さん、忘れないでください。皆さんギルドカードを受付で配布します。このまま受付に行ってください」

「はい、ありがとうございます」

 最後まで元気なマリ先輩。後ろの少年達もギルドカードと聞いて、テンションが戻っている。受付に戻りマリ先輩とローズさんのギルドカードを受けとる。身分証明書と同じ大きさで、名前とランクが書かれている。受け取ったマリ先輩は飛び上がらんばかりの喜びようだ。

「依頼、依頼、依頼受けよう。まず薬草摘みね」

 テンションが高いマリ先輩には申し訳ないが、今日はダメ。

「今からは無理です。薬草の生えているところまで距離あります」

 そう、首都周囲は畑として開拓されているため、薬草が群生している場所まで距離がありすぎる。朝早くに近くまで冒険者ギルドの馬車が出ているが、今日はもうない。今から行ったら門が閉まるまでに戻るのは難しい。

「ええ~つまんない」

「マリ様、ここはルナ様の仰る通りに」

「うう、わかった。明日は行けるよね?」

 わかってますよ。そんな期待した目で見なくても行きますよ。

「明日行きましょう。今日はこれから」

「おい、嬢ちゃん達、依頼受けないならちょっと付き合えよ」

 ああ、恐れていたことが。

 振り返るとむさ苦しい男が3人。失礼だが、頭はあまりよくなさそう。さっとマリ先輩の前に移動するローズさん。

「こりゃ粒揃いだな。ちょっと付き合えよ」

 眉を寄せ、無言で睨むも効果ないな。なんせまだ私は未成年で見た目はがっつり子供だし。これからは無属性魔法の威圧や精神打撃を習得しないとな。そんなことを思っていると、男の1人が手を出してきた。叩きつけるか。全身に魔力を巡らせる。

【風魔法 身体強化 発動】

「おい、やめろよ」

 そこに声をかけたのはさっきギルドカードを受け取ったばかりの少年の1人だ。おう、勇敢だね。他の3人で少し怯えている。

「うるせいガキは引っ込んでいろ」

 そう怒鳴る男、怯む少年。それでも何か言おうとするのを、私は手で制する。はあ、仕方ない。

「おじさん、遊んでくれるの?」

「お、ノリがいいな嬢ちゃん。ああ、お兄さんが遊んであげるぞ」

「そう」

 にやりと口角を吊り上げる。男は嬉しそうにうなずいている。

「私、剣士を目指しているの。お稽古つけてくれる? おじさん」

「ああ、いいとも。お兄さんが教えてやるよ」

 お前なんかおじさん呼ばわりもしたくないんだかね。向こうも乗ってくれた。後ろでニヤニヤしていた男の1人が、私の異変に感づいているようで、止めようかどうしようか迷っている。そう、ジェシカに酷評された「ねえ様こわい、きらい」スマイルを浮かべた私に感づいて。


始まります。

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